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June 18, 2020

「女帝 小池百合子」石井妙子

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○「女帝 小池百合子」石井妙子(文藝春秋)


読み始めてすぐに「やばい、何これめちゃめちゃ面白い…!」となって、次に「われわれはなんて大変な人をトップにしてるんだ……」になり、読み終わってからは「こんなにも世界は権力とわかりやすいもので出来ているのか」に暗鬱としている。


この本を読む前と読んだあとでは政治やニュース報道などについての見方が少し変わる。

まだ6月だから「今年の1冊」と呼ぶには早いけど、間違えなく「6月の1冊」はこれだと思う。

よく出来ているし、よく出した。

この内容で出せば軋轢や反発はあるはずだ。

それでも出した文藝春秋に敬意を払いたい。


小池にとって大事なのは「自分が人に注目されること、尊敬される地位を獲得すること」であって、そのために「プロモーションのための物語」をいくつも用意する。

その物語は小池自身が語る過程でどんどん「盛られて」いく。

あとから他者に事実でないことを指摘されてもうやむやにごまかしてしまうことに慣れている。

学歴詐称の件にしても「そういうことにした」だけであって、根っこでは何が問題なのか理解していないだろう。


また立場の弱い人、同じ女性への冷たいエピソードがバンバン出てくる。

困ってる人々、女性への徹底した冷淡な態度、世話になった先輩議員、自分を支えてくれたスタッフ。

彼女の人に接する判断基準は「自分の役に立つか、立たないか」だけで、立たないと判断した人間にはそれまで濃い付き合いがあっても冷たく切られる。



この本の白眉な部分は、小池のそういった思考の源泉と考えられる幼少期、思春期時代の生育環境、消えなかった右頬のアザに苦しめられた経歴を指して

「まだ幼い少女が自分一人で強く生きなければいけなかった。それは責められることだろうか」

と書くところで。


モンスターはある日突然生まれるわけではなく、「モンスターとして生きていかなければいかなかった」理由と経緯があるわけで、そこの部分を石井妙子は慈愛をもって描いている。


石井はこの本で小池を冷淡に書いているが、その背景には「どうしてあなたは…」というような深い失望が見える。

ラストで明かされる「もし小池に会ったときに伝えたい言葉」とともに、小池のことを誰より強く気にして、誰より期待していたのは同じ女性である石井だったように思えてならない。


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