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February 19, 2020

「ザ・キングファーザー」田崎健太


以前、「Number」に若き日のイチローとカズ(三浦知良)の対談が載っていた。
90年代、まだ二人とも20代だったころの時代だ。

別競技ながらお互いがお互いをリスペクトし合い、年下のイチローが「カズさん、このあとラーメンに誘ったら来てくれますかね?」(収録は深夜だった)と茶目っ気を見せてたり、心地よい対談になっていた。

その中で若干引っかかった箇所があった。

イチローがカズに対して「カズさんはすごい、だって15歳でブラジルに渡るなんて普通できない(※当時日本国内にJリーグのようなプロサッカーはなく、カズはブラジルに渡ってプロサッカー選手になる。当時はサッカー留学制度もなかった)」と向けると、カズはそれに対して「まあブラジルはいろいろあったけど」みたいな形でやんわり話をスルーして別の話題にしていった。

そこを読んだときに「カズはブラジル時代のことをあまり語りたくないのだろうか?」と気になった。


そんなときにカズの父親=納谷宣雄についてノンフィクションライターの田崎健太さんが「キングファーザー」という本を書いてるのを知り、読んでみた。
これが滅法面白かった。

 

 

静岡の資産家の子として育った納谷宣雄は高校生の頃、当時はマイナースポーツだったサッカーに熱中し、「サッカーの道」にどっぷり浸かっていく。

まだ日本が何の縁もなかった1966年のワールドカップイングランド大会を観戦しに行き、現地で見に来ていた日本サッカー協会の幹部と面識を得る。
帰国後は静岡で国内初のサッカーショップを開き、さらに少年サッカークラブの創設、地域リーグ運営といった“サッカー教育”を広めようとする。

納谷が手掛けたのは“サッカー教育”だけでなく、“サッカー事業”も多い。

まだ遠い異国のものだったワールドカップの映像を入手して各地で鑑賞会を開いたり、また外国のサッカー中継のフィルムをテレビ局に売ったり。
サッカーグッズの開発、スタジアムでのグッズ販売。
ワールドカップ観戦ツアー。
これらはすべて納谷が手を付けた事業だ。
Jリーグ発足時に爆発的にブームになった「ミサンガ」も納谷の仕掛けだ。

さらにはサッカー留学ビジネスの立ち上げ、運営。
プロサッカー選手の代理人業務。

とにかくいろんなことに手を出している。

「人が100万儲ける仕事で納谷は500万儲けて、1000万円使ってしまう」と評されたそのやり方は毀誉褒貶が激しく、よく思わない人間もいる。
しかし、日本でこれだけサッカーが浸透し、優れたサッカー選手が出てくるようになった背景には納谷が広げたことが基盤になっている部分がたくさんある。


読むと「カズの親父の本」ではなく、「納谷宣雄というサッカーの世界で良いところも悪いところも全部手を出した男がいた」という歴史と、その次男・知良が(※両親が離婚したためカズは母方の三浦姓を名乗っている)サッカーの世界で成功した」というように思えてくる。

53歳になった三浦知良は今も現役プロサッカー選手としてピッチの上に立つ。
今もなお彼は「うまくなりたい」と語る。

先のイチローとの対談でほのめかされるように、現在カズと納谷の関係は少し距離がある。
親子としてまとめて語るのは無理があるかもしれない。

しかし、尋常でないくらいサッカーを愛している点で二人は共通している。
間違いなく、この親子が日本のサッカーを作ったし、変えた。

カズの父親はそれほどまでに強烈な人生を送った男だった。


〇「ザ・キングファーザー」田崎健太(カンゼン)

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