« 伊野尾アワード2019 | Main | 「東郷見聞録 世界一周プロレス放浪記」ディック東郷 »

January 03, 2020

「82年生まれ、キム・ジヨン」

Img_20200103_180222_435

〇「82年生まれ、キム・ジヨン」チョ・ナムジェ 斎藤真理子訳(筑摩書房)


2019年の忘れ物読書。


夫と小さな娘さんがいる33歳のキム・ジヨンさん(韓国でこの世代の女性に一番多い名前。日本でいうと『鈴木愛』とかそんな感じ)はあるとき“狐憑き”のような状態になり、精神科医は原因をたどるためにジヨンさんの半生をたどる。

そこで語られるのは男性と比べて常に不利益を甘受せざるをえなかった一人の女性の人生だった。


物語の舞台は韓国で、旧来的な思考がいくぶん日本より強いとはいえ、ほとんどが日本の話としても置き換えられるエピソードばかり。

読んでてつらい気持ちになった。

もちろん自分は男性で、不利益を押しつけてきた側なので共感とは違うのだと思うが、「読んでてつらい」というのが正直なところだった。


そう言うと『じゃあお前が率先してやれよ』という反応に当然なるだろうし、その先は言葉での誓いではなく現実世界での実行にしか意味が無い。

決して部外者ではない、もう片方の当事者としては「ずっと不利益を押しつけてきてすみませんでした」という他にない。


妊娠したジヨンさんは出産後に育休を利用して会社に戻ることが難しいということがわかり、それまで築いてきた仕事のキャリアを捨てて退職して家で子供の面倒を見ることになる。

そのとき、心ふさぐジヨンさんに夫はこう言う。

「失うことばかり考えてないで、少しは得られるものを考えなよ」


今ならわかる。

「あちゃー…」としか言いようのないことを。気持ちを汲まないで、おだやかにソフトに「めんどくせーなーとっとと回復しろよ」という気持ちからこういう言葉が出てくることを。

それを見透かされてることを。


まだ30代前半で、「自分」しか見られず手一杯の男はわからない。というか人を見る余裕がない。

余裕がないから「もーめんどくせーなー」になって、態度に出る。そしてその態度に妻は傷つく。


なんてことない。自分もこのジヨンさんの夫と同じようなことを妻に言ったことがある。

そして妻は怒った。

当時はわからなかった。

余裕がないし、慮ることができない未熟な人間だった。


ここで描かれる「ジヨンさんの周りの男性」の一部は確かに自分の中にいるのだ。


夫から

「失うことばかり考えてないで、少しは得られるものを考えなよ」

と言われたジヨンさんが言い返した台詞をそのまま載せることで、レビューを終えたい。


「それで、あなたが失うものは何なの?

失うもののことばかり考えるなって言うけど、私は今の若さも、健康も、職場や同僚や友達っていう社会的ネットワークも、今までの計画も、未来も、全部失うかもしれないんだよ。だけど、あなたは何を失うの?」

(H)

« 伊野尾アワード2019 | Main | 「東郷見聞録 世界一周プロレス放浪記」ディック東郷 »