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January 2020

January 31, 2020

月まで3キロ


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○「月まで3キロ」伊与原新 (新潮社)


人生にはどうにもならないことがある。

むしろどうにもならないことだらけだ。

好きな人が自分を好きとは限らない。

やりたい仕事ができるとは限らない。

やりたい仕事で生活できるだけの稼ぎを得られるかもわからない。

望み通りのものが手に入らなくても、生きていくしかない。



周りで評判が良かった小説、伊与原新 「月まで3キロ」を読んだらすごくよかった。


短編集。

忘れられない人生の瞬間と、少しばかりのサイエンス。


事業に失敗し、家族も出ていって自殺しようとする男性がタクシーに乗ると「この先に、世界で一番月に近い場所があるんですよ」 と運転手に不思議なことを言われる表題作が素晴らしくて泣きそうになった。

他の作品も地方都市で定食屋を営む主人公と娘のところに毎日ご飯を食べに来る女性との交流を描いた「エイリアンの食堂」をはじめ、みんなよかった。


先日発表になった本屋大賞2020の候補作には漏れましたが、この本は私の本屋大賞です。


毎日に少し疲れた人におすすめ。


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January 24, 2020

まついなつきさんのこと

まついなつきさんと面識ができたのは窪美澄さんをプロレスに誘ったときだったと思う。

窪さんがまついさんと懇意で、「彼女プロレス好きだから誘っていいか」みたいなことを言われて「もちろん」となった。

結果的に窪さんのプロレス観戦は延期になるのだが、まついさんとはそこからのつながりだ。


まついさんは、私が本屋の仕事を始めたくらいの頃によく本を出していた。

「笑う出産」がベストセラーになったときのことは覚えていないが、コミックエッセイはよく出てた記憶がある。


まついさんもDDTが好きで、中澤マイケルと仲が良かったそうだ。

何年か前に西武新宿沿線に引っ越してからはときどきお店にいらしていただいた。

特に「来ました」みたいなことを言うこともなく、気がついたら店内にいた、ということが多かった。

「声かけてくださいよ」と言うと「普通にお客で買い物しに来てるから」と言われた。

まついさんは常に一定の距離を保った。


その後まついさんは柳澤健さんと古い付き合いであることを知って(『ぱふ』の同僚だったそうだ)、柳澤さんのイベントを開催したときに壇上で読むメッセージをお願いしたことがある。

「えー私締め切り迫ってるのよー」と言いながらまついさんは愛情と笑いに満ちたメッセージを送ってくれた。


その何年か後に毎年行ってるDDT両国国技館大会観戦ツアーに柳澤さんと一緒にまついさんも来てくれ、終わったあとの懇親会にも参加してくれた。

アンドレザ・ジャイアントパンダがDDTに初めて出た日で、「すごく楽しかった!」と笑ってたのを覚えている。


まついさんは中野で占いの仕事もしていた。

一度だけ「まついさんに占ってほしいことがあるんですが」と連絡したことがある。

「いいけど、どんなこと見てほしいの?」

というまついさんに

「本屋をいつまで続けたらいいか、と思いまして」

と言うと

「あー、そういうのダメ!私わからないから。私が見られるのは恋愛とか。伊野尾さんも恋愛で悩んだら来て」

と門前払いされた。

既婚で子供がいる人間が持ち込む恋愛相談は結構ヘビーなんじゃないかな…と思いながら、もしそういうときが来たらまついさんに相談しよう、と思っていた。


まついさんが亡くなった、という知らせはポカッと胸に小さな穴を開けてしまった。

そんなに近しい関係ではない。

どちらかといえば常に適切な距離を開けられてたと思う。


それでも「なにかあったらこの人に相談しよう」という最短距離にいた人だった。

あまり近すぎないから、なんでも言えるような気がしていた。


いま思うのは、まついさんは私が店を続けるかどうか相談しにいったあの時、見ようと思えば普通に占いとして見ることはできたのではないか?ということだ。

たぶん、占うことはできたんだろう。

けどまついさんはそれをしなかった。

「店のことは伊野尾さんが決めることだよ」と言外に言われた気がしている。

結局、経営問題はその後2人の人に相談して、ある人に言われたことがきっかけでずっと続けることにしたのだが、そのことはまついさんにあらためて言っていない。

ときどき思い出したようにツイートをリツイートされたりする。

「ああ、まついさん見てくれてるんだな」と思う、それだけの関係になった。

まついさんからは「人にたよりすぎないように」というメッセージをもらってた気がする。

もちろん本人にそのつもりもなく、普通に距離をとっていただけかもしれないが、きっといろんな人がまついさんに話を聞いてもらい、まついさんに未来を占ってもらい、まついさんの本に救われたりしたんだと思う。


まついさんにに恋愛相談する機会は永遠になくなってしまった。

いまだに相談するようなことは起きていない。

けどこれからはもしそういうときが来たら「そんなの伊野尾さんが解決しなさいよ」と言うような気がする。


Twitterを開く。まついさんのアカウントを見る。

名前のわからない黄色のアイコンが今日も昨日と同じ表示をしている。

「フォローされています」という表示を見ると、まだまついさんとつながっている気がする。


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January 20, 2020

『まちの本屋のおすすめ文庫2020』開催しています


伊野尾書店も加盟する中小書店グループ・NET21の文庫担当者20人がおすすめの文庫を選んだフェア『まちの本屋のおすすめ文庫2020』を始めました。全国の20名の担当者が選んだ本とそのコメントを載せた小冊子を無料配布しています。

私が選んだのはここをご覧の方には「あれかあ」となるあの本です。なるべくいろんな人の手に取られてほしい。
 他の書店の方々が選んだ本がいろいろで面白いので、ぜひ見に来てください。
2/29(土)まで開催しています。

 #まちの本屋のおすすめ文庫

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2020c  2020b

2019年に伊野尾書店で売れた本

今さらながら新年の挨拶をしていないことに気づきました。

あけましておめでとうございます。
2020年もよろしくお願いいたします。

ちょっと巻き戻すようですが、昨年2019年に伊野尾書店で何が売れたか集計しました。

まず全体のランキングから。


【書籍総合】       
       
1 一切なりゆき   樹木 希林   文藝春秋 ¥800   2018/12/18 84
2 大家さんと僕これから 矢部 太郎   新潮社 ¥1,100  2019/07/23  72
3 「大家さんと僕」と僕 矢部 太郎   新潮社 ¥1,000   2019/6/22 59
4 年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで 高木三四郎   徳間書店    ¥1,800 2019/10/30 48
5 新宿うまい店100         ぴあ ¥650 2019/3/13 43
6 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー   ブレイディ みかこ 新潮社 ¥1350 2019/6/19 40
7 高田馬場アンダーグラウンド  本橋 信宏   ダンク   ¥1,500  2019/3/12 34
8 FACTFULNESS   ハンス・ロスリング    日経BP   ¥1,800 2019/1/10 31
9 メモの魔力   前田 裕二   幻冬舎 ¥1,400 2018/12/20 31
10 ケーキの切れない非行少年たち 宮口 幸治 新潮社 ¥720 2019/7/11 30
11 樹木希林120の遺言   樹木 希林   宝島社   ¥1,200 2019/1/25 27
12 しょぼい喫茶店の本   池田達也    百万年書房 ¥1,400  2019/4/13 24
13 読書する人だけがたどり着ける場 齋藤 孝 SBクリエイティブ ¥800 2018/12/29 24
14 妻のトリセツ 黒川 伊保子 講談社 ¥800 2018/10/18 22
15 医者が考案した「長生きみそ汁」   小林 弘幸   アスコム    ¥1,300 2018/6/29 22
16 「やりがいのある仕事」という幻想 森博嗣 朝日新聞出版 ¥760 2013/5/1 21
17 最強レスラー数珠つなぎ  尾崎 ムギ子   イ-スト・プレス ¥1,300  2019/3/15 21
18 一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書   山崎 圭一   SBクリエイティブ    ¥1,500   2018/8/17 21
19 世界一美味しい手抜きごはん   はらぺこグリズリー   KADOKAWA  ¥1,300 2019/3/2 21
20 反日種族主義   李 榮薫   文藝春秋 ¥1,600 2019/11/12 20


ちなみに一番右の数字は実際売れた冊数です。

部門別に細かく見ていくとこんな感じ。

 


 【コミック】      
       
1 ONE PIECE 93 尾田 栄一郎 集英社 ¥440 2019/7/4 96
2 ONE PIECE 92 尾田 栄一郎 集英社 ¥440 2019/3/4 85
3 鬼滅の刃 18 吾峠 呼世晴 著 集英社 ¥440 2019/12/3 80
4 ONE PIECE 94 尾田 栄一郎 集英社 ¥440 2019/10/4 76
5 キングダム 53 原 泰久 集英社 ¥540 2019/1/19 75
6 55巻キングダム 原 泰久 著 集英社 ¥540 2019/8/19 73
7 キングダム 54 原 泰久 集英社 ¥540 2019/4/19 70
8 鬼滅の刃 14 吾峠 呼世晴 集英社 ¥440 2019/1/4 72
9 鬼滅の刃 16 吾峠 呼世晴 集英社 ¥440 2019/7/4 70
10 鬼滅の刃 17 吾峠 呼世晴 集英社 ¥440 2019/10/4 70
       
       
 【文庫】      
       
1 白銀の墟玄の月   3 十二国記 小野 不由美 新潮社 ¥670 2019/11/7 40
2 白銀の墟玄の月   4 十二国記 小野 不由美 新潮社 ¥750 2019/11/7 37
3 白銀の墟玄の月   2 十二国記 小野 不由美 新潮社 ¥710 2019/10/10 32
4 蜜蜂と遠雷 上 恩田 陸 著 幻冬舎 ¥730 2019/4/2 30
5 白銀の墟玄の月   1 十二国記 小野 不由美 新潮社 ¥670 2019/10/10 30
6 罪の声 塩田 武士 著 講談社 ¥920 2019/5/15 26
7 坂の途中の家 角田 光代 朝日新聞出版 ¥720 2018/12/5 26
8 蜜蜂と遠雷 下 恩田 陸 著 幻冬舎 ¥730 2019/4/2 25
9 コンビニ人間 村田 沙耶香 著 文藝春秋 ¥580 2018/8/25 25
10 騎士団長殺し 第2部下 遷ろう 村上 春樹 新潮社 ¥630 2019/3/26 24
       
       
 【文芸】
      
1 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー   ブレイディ みかこ 新潮社 ¥1350 2019/6/19 40
2 しょぼい喫茶店の本   池田達也    百万年書房 ¥1,400  2019/4/13 24
3 宝島   真藤 順丈   講談社  ¥1,850   2018/6/19 17
4 そして、バトンは渡された  瀬尾 まいこ   文藝春秋 ¥1,600  2018/2/20 17
5 82年生まれ、キム・ジヨン  チョ ナムジュ     筑摩書房  ¥1,500 2018/12/6 16
6 夏の騎士   百田 尚樹   新潮社 ¥1,400   2019/7/13 15
7 思わず考えちゃう   ヨシタケ シンスケ 新潮社 ¥1,000   2019/3/27 15
8 しらふで生きる   町田 康  幻冬舎 ¥1,500   2019/11/2 14
8 噛みあわない会話と、ある過去について  辻村 深月   講談社 ¥1,500   2018/6/12 14
10 僕の人生には事件が起きない   岩井 勇気   新潮社   ¥1,200 2019/9/21 14
       
       
 【新書】 
     
1 一切なりゆき   樹木 希林   文藝春秋 ¥800   2018/12/18 84
2 ケーキの切れない非行少年たち 宮口 幸治 新潮社 ¥720 2019/7/11 30
3 読書する人だけがたどり着ける場 齋藤 孝 SBクリエイティブ ¥800 2018/12/29 24
4 妻のトリセツ 黒川 伊保子 講談社 ¥800 2018/10/18 22
5 「やりがいのある仕事」という幻想 森博嗣 朝日新聞出版 ¥760 2013/5/1 21
6 言い訳 塙 宣之 集英社 ¥820 2019/8/7 19
7 新宿の迷宮を歩く 橋口 敏男 平凡社 ¥920 2019/5/15 15
8 独ソ戦 大木 毅 岩波書店 ¥860 2019/7/19 14
9 もっと言ってはいけない 橘 玲 新潮社 ¥800 2019/1/12 14
10 「さみしさ」の研究 ビートたけし 小学館 ¥760 2018/11/28 14
  
     
 【一般書】
      
1 大家さんと僕これから 矢部 太郎   新潮社 ¥1,100  2019/07/23  72
2 「大家さんと僕」と僕 矢部 太郎   新潮社 ¥1,000   2019/6/22 59
3 高田馬場アンダーグラウンド  本橋 信宏   ダンク   ¥1,500  2019/3/12 34
4 樹木希林120の遺言   樹木 希林   宝島社   ¥1,200 2019/1/25 27
5 最強レスラー数珠つなぎ  尾崎 ムギ子   イ-スト・プレス ¥1,300  2019/3/15 21
6  一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書   山崎 圭一   SBクリエイティブ    ¥1,500   2018/8/17 21
7 反日種族主義   李 榮薫   文藝春秋 ¥1,600 2019/11/12 20
8 しょぼい起業で生きていく   えらいてんちょう   イ-スト・プレス    ¥1,300   2018/12/14 18
9 東大の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!     西成 活裕   かんき出版  ¥1,500   2019/1/19 17
10 生田絵梨花写真集 インターミッション   中村 和孝 撮影   講談社    ¥1,800 2019/1/22 14
       
       
       
 【実用書】
      
1 新宿うまい店100         ぴあ ¥650 2019/3/13 43
2 医者が考案した「長生きみそ汁」   小林 弘幸   アスコム    ¥1,300 2018/6/29 22
3 世界一美味しい手抜きごはん   はらぺこグリズリー   KADOKAWA  ¥1,300 2019/3/2 21
4 はじめてのやせ筋トレ   "とがわ 愛
" KADOKAWA   ¥1,200 2019/1/9 17
5 1日1分見るだけで目がよくなる28のすごい写真 林田 康隆   アスコム   ¥1,300 2017/3/17 14
6 心とカラダを整えるおとなのための1分音読 山口 謠司   自由国民社    ¥1,300 2017/12/16 13
7 明るい暮らしの家計簿 2020      ときわ総合サービス    ¥650 2019/9/21 13
8 syunkonカフェごはんレンジでもっと!絶品レシピ   山本 ゆり   宝島社    ¥740 2019/4/20 11
9 知識ゼロでも美味しいにたどり着くハッピーワイン選び へんみ ゆかり 著   セルバ出版    ¥1,400 2019/12/10 10
  
     
 【ビジネス】   
   
1 年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで 高木三四郎  徳間書店   ¥1,800 2019/10/30 48
2 FACTFULNESS   ハンス・ロスリング    日経BP   ¥1,800 2019/1/10 31
3 メモの魔力   前田 裕二   幻冬舎 ¥1,400 2018/12/20 31
4 センスは知識からはじまる   水野学   朝日新聞出版    ¥1,400 2014/4/1 15
5 チーズはどこへ消えた?   スペンサー・ジョンソン    扶桑社    ¥838 2016/1/23 13
6 Think clearly   ロルフ・ドベリ   サンマ-ク出版    ¥1,800 2019/3/30 11
7 迷路の外には何がある?     スペンサー・ジョンソン   扶桑社    ¥1,000 2019/2/23 11
8 学びを結果に変えるアウトプット大全   樺沢 紫苑   サンクチュアリ・パブリッシング    ¥1,450 2018/8/1 10
9 伝え方が9割   佐々木圭一   ダイヤモンド社   ¥1,400 2013/2/1 10
       

高木三四郎社長とか尾崎ムギ子さんの本が入ってるのはイベント売上ですね。
文庫の「坂の途中の家」は“店長おすすめ”みたいに出してたんですが途中でドラマ化したのでどこまで関係あったのかよくわかりません。

できたらこういうランキングは毎月出したいですね。

ということで2020年もよろしくお願いいたします。

January 03, 2020

「東郷見聞録 世界一周プロレス放浪記」ディック東郷

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〇「東郷見聞録 世界一周プロレス放浪記」ディック東郷(彩図社)


プロレスラー・ディック東郷が2011年夏から2012年秋にかけて行った「世界中の国々を訪問し、現地でプロレスの試合やプロレス教室を開いて旅を続ける」ワールドツアーの旅日記。


オーストラリアから始まり、ヨーロッパ、アメリカ、南米と渡り最後はボリビアで引退試合を行う。 

ボリビアを最終地にしてるのは東郷がチェ・ゲバラを敬愛しており、レスラー人生の最後をゲバラが亡くなったボリビアで終わりにしたいから、との理由。


プロレス的な話よりも海外のこぼれ話が多く、テイストとしては同じ彩図社から出てる嵐よういちの「海外ブラックロード」に似ている。


プロレスというショービジネスは世界中にあれどレスラー側の事情や立場はそれぞれで、たとえば南米では体を作るためのトレーニングをするフィットネスジムが街中になかなかない。

これは「お金を払って身体的健康を維持する」という消費活動が市民に根付ていない…というより、賃金が少なく使える余裕ではない、という側面が強い。

ヨーロッパでは露骨なアジア人蔑視の差別を受けたりする。


いくらプロレス技術に自信があっても、知らないプロモーターから届いたオファー1本で「とりあえず行ってみよう」と言葉もろくに通じない国に一人で行くのは相当ハートがタフじゃないとできない。

また、海外で技術が未熟なレスラーと試合するのはケガした場合を考えれば日本以上に怖い。

この記録は東郷にしかできない偉業だと思う。

(H)


「82年生まれ、キム・ジヨン」

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〇「82年生まれ、キム・ジヨン」チョ・ナムジェ 斎藤真理子訳(筑摩書房)


2019年の忘れ物読書。


夫と小さな娘さんがいる33歳のキム・ジヨンさん(韓国でこの世代の女性に一番多い名前。日本でいうと『鈴木愛』とかそんな感じ)はあるとき“狐憑き”のような状態になり、精神科医は原因をたどるためにジヨンさんの半生をたどる。

そこで語られるのは男性と比べて常に不利益を甘受せざるをえなかった一人の女性の人生だった。


物語の舞台は韓国で、旧来的な思考がいくぶん日本より強いとはいえ、ほとんどが日本の話としても置き換えられるエピソードばかり。

読んでてつらい気持ちになった。

もちろん自分は男性で、不利益を押しつけてきた側なので共感とは違うのだと思うが、「読んでてつらい」というのが正直なところだった。


そう言うと『じゃあお前が率先してやれよ』という反応に当然なるだろうし、その先は言葉での誓いではなく現実世界での実行にしか意味が無い。

決して部外者ではない、もう片方の当事者としては「ずっと不利益を押しつけてきてすみませんでした」という他にない。


妊娠したジヨンさんは出産後に育休を利用して会社に戻ることが難しいということがわかり、それまで築いてきた仕事のキャリアを捨てて退職して家で子供の面倒を見ることになる。

そのとき、心ふさぐジヨンさんに夫はこう言う。

「失うことばかり考えてないで、少しは得られるものを考えなよ」


今ならわかる。

「あちゃー…」としか言いようのないことを。気持ちを汲まないで、おだやかにソフトに「めんどくせーなーとっとと回復しろよ」という気持ちからこういう言葉が出てくることを。

それを見透かされてることを。


まだ30代前半で、「自分」しか見られず手一杯の男はわからない。というか人を見る余裕がない。

余裕がないから「もーめんどくせーなー」になって、態度に出る。そしてその態度に妻は傷つく。


なんてことない。自分もこのジヨンさんの夫と同じようなことを妻に言ったことがある。

そして妻は怒った。

当時はわからなかった。

余裕がないし、慮ることができない未熟な人間だった。


ここで描かれる「ジヨンさんの周りの男性」の一部は確かに自分の中にいるのだ。


夫から

「失うことばかり考えてないで、少しは得られるものを考えなよ」

と言われたジヨンさんが言い返した台詞をそのまま載せることで、レビューを終えたい。


「それで、あなたが失うものは何なの?

失うもののことばかり考えるなって言うけど、私は今の若さも、健康も、職場や同僚や友達っていう社会的ネットワークも、今までの計画も、未来も、全部失うかもしれないんだよ。だけど、あなたは何を失うの?」

(H)

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