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October 23, 2019

「じゃない方」の放つ鮮烈な光 ~岩井勇気 『僕の人生には事件が起きない』

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○岩井勇気 『僕の人生には事件が起きない』(新潮社)


文芸誌「小説新潮」は雑誌名だけ聞くと小説だけが載っているようなイメージを持たせるが、いろんな読み物が載っている。

ベストセラーになった矢部太郎「大家さんと僕」ももともとは「小説新潮」の連載だったし、最近では平松洋子『プロレスは何を食べる』とか高野秀行「謎の未確認納豆を追え!」、掟ポルシェ「全部お前が悪い」なんて連載もある。

今回書籍になったハライチ岩井氏のエッセイ『僕の人生には事件が起きない』もその「小説新潮」に載っていた。

 


ハライチの岩井氏への個人的な思いをすべてぶつけると

「ああ、いたなあ」

である。

「澤部じゃない方」という覚え方しかしておらず、顔を思い浮かべろといっても難しい。
仮に警察に「どんな人相をしていましたか」と聞かれても「わりと普通の顔の男性」としか説明できない。
好きな人によればラジオだと結構面白いことをいろいろ言ってるそうなのだが、それも聞いたことがないのでわからない。

光と影でいえば影。
陰か陽でいえば陰。
地味か派手かでいえば地味。
ヒマワリか月見草かいえば月見草。

そんなイメージの岩井氏が初めて書いた本。
これが面白い。

タイトル通り、日々の生活の中での小さな話。
粛々と仕事をし、空き時間を家で過ごす間にやったことや、遭遇した小さな出来事を書く。

しかしその小さな話の中にちゃんと“おかしさ”を混ぜてくる。
英語で言う「funny」なおかしさ。「strange」なおかしさ。
両方のおかしさを入れてくる。
仕事やプライベートで会う人の、大半普通ではあるがごく一部に混ざる「ん?」というおかしな部分を抽出し、笑いに変換させる観察力。
やはり表現の才能があるのだと思う。


岩井氏はこのエッセイを書くことになった経緯についてこう書く。


「それまでネタ以外の文章など書いたことのない僕に、新潮社から小説新潮で単発のコラムだかエッセイだか書かないかという依頼があった。
出た。
なんとなくの雰囲気で、この人なら書けそうだな、と思われている。
まあまあ世に知られているコンビの、陰に隠れがちな方。しかしネタは10割そっちが書いている。
ラジオのレギュラーがあり、ラジオだとテレビではわりと隠れがちな方が目立っていて、毎週話を楽しみにしている層が一定数いる。
そんな感じの奴に『あいつ“ぽい”よね~、文章書かせてみようか』みたいなのがお決まりになっているのだろうか」

(中略)

「最初の打ち合わせ、うちの会社の事務所に、僕に依頼してくれた編集担当の人が来た。
静かそうな女性だ。
出た。
この手の文系女子は、コンビの陰に隠れがちな方で、ネタを書いていてラジオでは目立ちがちな、いかにも文章を書けそうな芸人にすぐ焦点を当てたがる。
おそらく学生時代はわりと地味なグループに所属していた性質上、表立ってその芸人のことをいいよね!とは発言できないが、私だけはあなたのことをわかっているぞ、という母性に似た見守り目線で応援している。
応援していると言ったら聞こえはいいが、皆が注目していないその芸人を応援することで、友達には『え!?あんなのの何がいいの!?』と言われることこそを、人と感性が違う自分として、自分の中の唯一性を保っている感じだ」
(「はじめに」より抜粋)


いろいろ言い過ぎだよ!やめとけ!


こんな感じで岩井氏の悪意と観察眼にひたすらひれ伏す一冊です。

堪能してください。

出た。書店員お得意の一言だ。

 

(H)

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