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May 15, 2019

今村夏子「むらさきのスカートの女」

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○今村夏子「むらさきのスカートの女」(「小説トリッパー」春号掲載、単行本6/7発売)


その町には「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性がいる。
小柄な体形、肩まで垂れ下がった黒髪はパサパサで、頬のあたりにシミがぽつぽつ浮き出ている。
決して若くはない。

「むらさきのスカートの女」はよく商店街のパン屋でクリームパンを買っている。
それを公園で、3つ並んだ一番奥のベンチを指定席にして、そこで食べている。
仕事は期間工なのか、働いてたり働いてなかったりする。

物語はずっとこの謎多き「むらさきのスカートの女」の日常について語られることで進んでいく。
同時に読み手の誰もが気になるもう一つ謎が同時進行する。
すなわち、この「むらさきのスカートの女」を観察し続けている、語り部である「わたし」はいったい誰なのか?という謎だ。
「わたし」はなぜここまで「むらさきのスカートの女」に固執するのか?

中盤で「むらさきのスカートの女」はついに定職を見つけ、安泰な日々を迎えんとする。
が、安泰な日々は次にやってくる不穏な出来事の前兆であったりする。

町の「変な人」として語られる「むらさきのスカートの女」と、彼女を取り囲む共同体。
本当に「変」なのはどちらなのか?
淡々と語られる文体はフォークロアのようにも怪談のようにも感じる。

今村夏子は常に「異常」と「正常」のあいだに壁などなく、それは日常の中で出たり消えたりすることを作品で表現する。
彼女の小説はいつも読んだ後頭に残るが、この「むらさきのスカートの女」もそうだった。人の「異常」はどこにある?

(H)

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