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June 27, 2018

読めば考えが変わる本 ―「児童虐待から考える 社会は家族に何を強いてきたか」

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〇「児童虐待から考える 社会は家族に何を強いてきたか」杉山 春 (朝日新書)
 
近年、児童虐待死事件は常にセンセーショナルな報道をされる。
多くは「自分勝手で暴力的な若い親が、小さくていたいけな幼児を酷い目に遭わせて死なせる」という文脈で伝えられる。
亡くなった幼児を知る周囲の人間が「あんなかわいい子だったのに」と悼むコメントがセットになる。
 
そしてそのたびに「警察は何をやっているんだ」「児童相談所の過失ではないか」と責める声が激しく上がる。
当該の児童相談所には業務に支障をきたすほどの電話がかかってくるという。
 
しかしメディアは次から次へと新しいニュースを伝えていくので、何日か経つとこれといって新しい情報も出てない虐待事件の報道は急に減っていく。
そして何事もなかったように静かに消えていき、別のスキャンダラスなニュースに「世間」は追われるようになる。
数年後、また同種の事件が発覚するまで。
 
杉山春さんはずっと家族問題を中心としたルポルタージュを書いている。
2000年、共に21歳だった若い夫婦が3歳になる自分たちの娘をダンボール箱に押し込め、餓死させた事件。
2010年、23歳の母親が、3歳の女児と1歳9か月の男児を自宅に約50日間にわたって放置し、餓死させた二児置き去り死事件。
 
杉山春さんは当時メディアで大きく報道されたこの二つの児童虐待事件を細かく取材して本を出している。
「ネグレクト―育児放棄 真奈ちゃんはなぜ死んだか」 (小学館文庫)
「ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件」 (ちくま新書)
先般、杉山さんは上記二つの事件と2014年に厚木市で発覚した5歳幼児の白骨化餓死事件、さらに2015年に起きた川崎市の中学一年生殺害事件の取材記録を加え「児童虐待から考える 社会は家族に何を強いてきたか」という本を出版した。
この本は、できるだけたくさんの人に読まれてほしい。
杉山さんは加害者の親を安易に断罪しない。叱責もしない。「こんな世の中は」と嘆きもしない。
ただ淡々と、「加害者」となった若い親のパーソナリティが伝わる来歴を調べ上げ、どのような環境の中で生育していたかを書き連ねる。
 
若くして結ばれた幸福なはずのカップルが、やがて破綻を迎え、そのとき親権を残された人間が自分一人で生きていくのも苦しい環境で、どのようにして小さな子供を育てようとし、壊れていったのかを徹底した取材であぶりだす。
そこに出てくるのは鬼畜のような親が小さな子をいたぶる姿ではなく、「真面目な」若者が「どうしていいかわからなくなった」末、判断を放棄していく辛い事実だ。
 
その「どうにもならなく」「誰に頼ることもできず」抱え込んでしまう過程を、杉山さんは社会基盤の不備を責めることはあっても個人のせいにすることなく、丹念に掘り下げる。
「おねがいゆるして」は強烈だ。
ほとんどの大人はあれを見て胸をギュッと掴まれるような気持ちになったんではないか。
 
でも、だからこそ、沸きあがる感情の前に、知ってほしいのだ。
事件を起こしたのは悪魔ではなく、我々と一緒の人間であるということを。
なぜどうにもならなくなってしまうのかを。
遠くから「可哀相」と言うのは、娯楽だということを。
警察が踏み込めばそれで解決、というわけではないということを。

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(H)

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