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March 12, 2018

「さよなら、田中さん」

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○「さよなら、田中さん」鈴木るりか(小学館)
 
貧乏な母子家庭でありながら明るく育つ小学六年生の田中花実さんを中心にした連作短編小説。

まずなにより「作者が14歳」という点に震撼する。
よく出来てる、を通り越してすごい。
すごい、しか出てこない。
14歳ってもっと頭の中はパーなんじゃなかったかな…自分がそうだっただけかもしれないけど。

建築現場で働きながら娘の花実さんを育てたお母さんは「食べ物をくれる人がいい人」という考えで一貫している。
何よりの喜びは近所のスーパー「激安堂」で寿司が半額になっている時。
そんな貧乏家庭で育った花実は小学六年生のクラスに蔓延する周りの空気に流されず、独自の視点で級友たちと接していく。

表紙に引きずられてしまってる部分があると思うが、西原理恵子の描く貧乏家族作品(『ぼくんち』など)に近い世界観がある。
小学生たちの会話に憧れの場所として登場する『ドリーミングランド』(もちろんモデルは千葉のアレだろう)が象徴する「お金で得られる喜び」と、お金とは関係なく日々の生活で得られる喜びの対比が見事。
最後の短編として収録される「さよなら、田中さん」だけは花実のクラスメイト・三上君の視点で描かれるビターな話だが、そのビターさがほんわかしがちな作品世界でよいフックになっていた。

そして小学六年生って、子供と大人の中間にいる微妙な時期なんだなーとあらためて思う。
大人の悪いところを真似して、大人と同じように消費の欲求に流されながら、常に大人を冷静に観察している。
12歳は恋愛とか出てこない代わりに「親の経済力の差や、むき出しになった周囲の攻撃感情から発生する自分の不平等さを受け入れる」時間なんだなーとしみじみ思った。

この六年後、18歳になった田中さんと三上君の物語を読みたい。

(H)

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