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March 2018

March 23, 2018

何も見えない、闇の世界を旅して見えてきたもの―― 「極夜行」角幡唯介

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○「極夜行」角幡唯介(文藝春秋)

 

北極圏、南極圏など高緯度の極地には24時間ずっと日が沈まない白夜という現象がある。
同時に、24時間ずっと太陽が昇らない極夜という現象もある。

探検家の角幡唯介さんはこれまでチベット奥地の人類が足を踏み入れていない深山峡谷に単身入ったり、ネパール雪男捜索隊に参加したり、といった活動をしてきた。

しかし地球上のどんなところもGoogleEarthで見られる今、「未踏の地」という空白地帯を埋めることにどれほどの意味があるのか?という疑問を抱く。

そうして角幡さんが考えた「現代の冒険」とは、「日常というシステムから脱却した世界の深淵に触れること」だった。
そこで大学時代に読んで衝撃を受けた本『世界最悪の旅』に出てくる、極夜探検の話が頭をよぎった。
20世紀初頭、南極点到達競争に敗れ隊員が全員死亡するイギリスのスコット南極探検隊の悲劇を描いた物語だ。

 

「その本の中で、極夜の時期に40日ぐらい冬の南極を旅する話があるんです。たぶんそれがすごい印象に残っていて。昔の極地探検の話って、今みたいに飛行機がなかったから船で行って、冬の間は必ずどこかで越冬するんです。その間行動しないで、船の中で橇を作ったり毛皮服を縫ったりとか準備する。で、太陽が昇ってくるわけです。『ああ、3カ月ぶりの太陽だ』といったことを言うわけです。そういうのを読んでいるうちに、『3カ月太陽が昇らないとか、何それ』って、ずっと思っていたんです」

「憂鬱で大変で過酷で、しかも寒いから、悲惨な世界だなとは思うけど、地球にそんな場所があるんだ、みたいな。太陽が3カ月間も出ないで、それで昇ってきた太陽を見た時に人は何を思うんだろうとか、漠然とした好奇心があったんです。それで、最初に北極に行こうと思った時は、極夜がいいなと思ったんです」

(角幡唯介「『極夜』という探検の哲学」)
www.marmot.jp/kyokuya/vol1.html

 

北極圏、グリーンランドの最北部。
住む人間もいない、ひたすら氷とツンドラに覆われた地帯。
冬になると太陽は昇らず、薄明かりもなく、24時間完全な暗闇に包まれる氷の世界を角幡さんは一匹の犬とともに約3ヶ月間旅する。
3ヶ月間、光を失った世界を旅したあとで太陽が昇るのを見るとき、人がまず思うことは何なのか?

これまでと違ってやや観念的なテーマと思いきや、天候によっては氷点下40度近くまで下がる極北の僻地探検は予想以上に危険なものだった。
暴風を超えた爆風吹くブリザードの中に設営した極地用テントのポールが折れる場面、朝起きたらテントが雪に埋まる場面、さらに数々巻き起こるアクシデント。

本が出てる時点で「最終的に角幡さんは生きて帰っている」とわかっていても「これどうなるの!?」と思わずにはいられない出来事が頻発する。

そして人類にとって光とは何か、なぜ古来の人々は星座の物語を作ったのか、そして光を失った地帯で角幡さんが見たものは―。

 

誰にもできない、誰もやらなかった角幡さんの旅を追体験し、「やばいなこれ…」と思いながら、我々はその向こうにある『なぜ人は生きるのか』というテーマを否応なく考える。
ここには普段私たちが考えなくなった、「システムの外側に出た」人にしかわからないことがたくさん書かれている。

 

「完璧だ。あまりに完璧だ。俺は天才なんじゃないかと思った。(中略)考えられるかぎりで最も困難な環境での神業的ナビゲーションとして結実したのだ。
私は興奮していた。ここまで完璧に小屋に着けるとは、今回の俺は冴えている。

このときはそう思っていた。」(「闇迷路」より)

March 12, 2018

「さよなら、田中さん」

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○「さよなら、田中さん」鈴木るりか(小学館)
 
貧乏な母子家庭でありながら明るく育つ小学六年生の田中花実さんを中心にした連作短編小説。

まずなにより「作者が14歳」という点に震撼する。
よく出来てる、を通り越してすごい。
すごい、しか出てこない。
14歳ってもっと頭の中はパーなんじゃなかったかな…自分がそうだっただけかもしれないけど。

建築現場で働きながら娘の花実さんを育てたお母さんは「食べ物をくれる人がいい人」という考えで一貫している。
何よりの喜びは近所のスーパー「激安堂」で寿司が半額になっている時。
そんな貧乏家庭で育った花実は小学六年生のクラスに蔓延する周りの空気に流されず、独自の視点で級友たちと接していく。

表紙に引きずられてしまってる部分があると思うが、西原理恵子の描く貧乏家族作品(『ぼくんち』など)に近い世界観がある。
小学生たちの会話に憧れの場所として登場する『ドリーミングランド』(もちろんモデルは千葉のアレだろう)が象徴する「お金で得られる喜び」と、お金とは関係なく日々の生活で得られる喜びの対比が見事。
最後の短編として収録される「さよなら、田中さん」だけは花実のクラスメイト・三上君の視点で描かれるビターな話だが、そのビターさがほんわかしがちな作品世界でよいフックになっていた。

そして小学六年生って、子供と大人の中間にいる微妙な時期なんだなーとあらためて思う。
大人の悪いところを真似して、大人と同じように消費の欲求に流されながら、常に大人を冷静に観察している。
12歳は恋愛とか出てこない代わりに「親の経済力の差や、むき出しになった周囲の攻撃感情から発生する自分の不平等さを受け入れる」時間なんだなーとしみじみ思った。

この六年後、18歳になった田中さんと三上君の物語を読みたい。

(H)

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