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January 2018

January 17, 2018

『死にたい夜にかぎって』を読んで思い出すこと

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『死にたい夜にかぎって』爪切男(扶桑社、1/25発売)


「赤地に黒の水玉模様が入ったシャツに短めの黒のスカート。テントウムシみたいな服装をしたこの人が、私の初体験の女性になるのだ。
緊張と期待が入り混じった声で呼びかけた。
『すいません、あの、ミキさんですか?』
パッと顔を上げた彼女の顔は、悪役プロレスラーの冬木弘道によく似ていた。
太陽の光が目に入ったふりをして、一度目を閉じてからもう一度目を開ける。冬木がそこにいた」

『死にたい夜にかぎって』は爪切男(つめきりお)さんの体験をもとにした私小説だ。
(「爪切男」はペンネームである。どうしてそんな名前なのかはこの本を読んでもわからなかった)
 
爪さんは普通の人よりも少し変わった体験をいくつもしている。
二十歳の時、どうしても女性とセックスがしたいと考えた爪さんは出会い系サイトに「童貞をもらってください」と書き込む。
からかいや誹謗中傷に混じって、「私でよければ」というメールが一通届く。
「ミキさん」というその女性は障害があり、車椅子に乗っていた。
冒頭に紹介したのは、そのミキさんと最初に出会う場面である。
 
爪さんの文章からは、青春の匂いがする。
清く、美しい青春ではない。
どちらかといえば泥にまみれた、汚れた青春だ。
にもかかわらず、かつて下世話な情報を掲載するメールマガジンの編集長をやっていたという爪さんの文章は美しい。
「やらしさも汚らしさも むき出しにして走ってく」というTHE BLUE HEARTSの歌詞を思い出す。
私は昨年の誕生日で43歳になった。
どこを切っても中年だ。
小さな子供がレジに本を持ってくるとき、付き添いの親御さんやおばあさんに「ほら、“おにいさん”に渡して」と言われることはすっかりなくなった。
人生の折り返し地点はもう過ぎた。
青春と呼ばれた日々はもう遠い。
 
けれど『死にたい夜にかぎって』を読んでから、ふとした瞬間に昔のことを思い出してしまう。
思い出すのは、だいたい昔好きだった女の人のことだ。
楽しい思い出もあったはずなのに、印象に残ってるのは振られた時や、別れ話を切り出された時の光景だったりする。
今では“少し苦い”くらいになったそんな思い出を飴玉をなめるように心の中で転がしてると、少しずつ溶けて霧散していく。
青春とは、「結局手に入らなかった時間」のことを言うのかもしれない。
 
爪さんはアスカさんと新井薬師に住んでいたという。
私の住む中井からは西武新宿線で隣駅だ。
私たちのまわりには、いくつもの素敵な話が転がっている。
ただ私たちは、それを絶望的なまでに知らない。
 
「ぼくは最近、思うんです。好きな子とセックスできたときが、人生でいちばんすばらしかった瞬間なのだと。あれ以上のよろこびを、ぼくはほかに知りません」
(最近友人からもらったメールから抜粋)
 

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