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December 05, 2017

何もないところから世界最高峰のブランドを作った男 ~『SHOE DOG』

Shoedog

〇『SHOE DOG』フィル・ナイト著/大田黒 奉之訳(東洋経済新報社)

大学生の頃、「エアマックス狩り」という単語がニュースで話題になった。
ナイキのスニーカー「エアマックス」が大人気になったが品薄で店頭に並ばず、履いている人間を襲って靴を奪い取る暴漢がいる、というニュースだ。
私はファッションに詳しくなかったので、「靴でそんなことになるの!?」という驚きとともにそれによって「エアマックス」という商品名を覚えた。
ナイキというメーカーを知ったのもそのときが最初だ。
 
私はスポーツを見るのは好きだが、自分ではほとんどしない。
スポーツ店に行く機会も少ない。
にもかかわらず「ナイキ」「アディダス」「プーマ」といったスポーツシューズのメーカー名は知っている。
それだけあちこちに広告が出ているということであり、わたしたちの生活を取り囲むものになっているということだ。
『SHOE DOG』はそんなナイキの創業者、フィル・ナイトの自叙伝だ。
『SHOE DOG』とは靴を製作することに没頭してしまう職人のことを指す用語で、意訳するなら「靴バカ」みたいな意味合いだろう。
 
私はスニーカーにも、大企業の創業者自伝にもなんとなく縁遠いものを感じていたので発売当初それほど関心はなかったのだけど、ある人から「いわゆる『俺はこんなに成功した』みたいなありがちな創業者自伝とはちょっと違うので、読んでみてほしい」と言われ、読んでみた。
確かにだいぶ違った。
書かれているのは「こうして会社を大きくした」というよりは「学生時代に陸上競技をやっていた流れからなんとなく運動靴を売ることを生業にすることにした若者」の人生録だった。
 
 
フィルはオレゴンというニューヨークやシカゴから見たら田舎町に生まれ、高校で野球チームに入ろうとしたら追い出されてショックを受ける。
代わりに仕方なく…といった感じで始めた陸上競技に彼は熱中し、大学まで続ける。
その時に知った日本の運動靴(オニツカタイガー)に可能性を感じながら、証券会社のセールスマンをやったり、ハワイで百科事典のセールスマンをやったり寄り道した末に、フィルは日本へ行く。
そして神戸のオニツカ社をアポなしで訪問し、アメリカでこの靴を売りたい、という話をする。
オニツカの担当者はフィルに言う。
「ところで、あなたの会社はなんていう会社ですか?」
この時点でフィルは自分の所属先などなかった。
フィルは自分の部屋の壁に飾られている、陸上競技で勝ち取ったブルーリボンのことを思い出してこう言った。
「私はブルーリボン・スポーツの代表です」
 
 
現在売り上げ300億ドルというナイキの第一歩は、出まかせから始まった。
 
何度か、会社の息の根が止まりそうな瞬間のことが描かれる。
この本をこうして出せてるのだから、最終的にはなんとかなったんだろう…と思いながら「え?これ…どうするの?」というトラブルやアクシデントが創業以来、何回か起きる。
そのあたりの話は冒険ノンフィクションのようだ。
科学や開発の進化で冒険とか探検が成立しにくくなった現代では、「会社を新しく作る、維持する、大きくする」というのはそれに近いことなんだな、と実感する。読んでいてハラハラした。
 
そして会社の窮地が訪れると、フィルはだいたい外に走りに行っている(6マイル=9.6キロも走るらしい)。
人間、悩んだら身体を動かすことが一番なのかもしれない。
私もスニーカーを買って、明日から走ってみようと思う。
エアマックスにするかどうかはともかく。
 
(H)
 

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