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December 2017

December 29, 2017

年末年始の営業につきまして

いつも当店を御利用頂き、誠にありがとうございます。
年末年始の営業時間は下記の通りとなります。

12/30(土) 11:00~20:00 営業

12/31(日) ~ 1/3(水)休業

1/4(木) 10:00~20:00 営業

1/5(金)~ 通常営業

どうぞよろしくお願いいたします。

          伊野尾書店

※新刊発売は年内12/29まで、年始は1/4からです。

December 28, 2017

伊野尾アワード2017

毎年待たれてるのか、単なる自己満足なのかあやふやな、伊野尾書店店主が選ぶ独断と偏見の表彰式「伊野尾アワード」の季節がやってまいりました。
もう12/28ですよ。
暮れ!
暮れすぎる!
某出版社の営業さんは12/26で仕事が終わって今日から冬休みだそうですが、私どもは絶賛まだ2017年です。
かつて、夏の甲子園決勝で「日本文理の夏はまだ終わらなーい!」という名実況がありましたが、俺たちの2017年はまだ終わらない!
 
と、いかにも深夜な、意味の分からない高揚をしてきたところで発表に移りたいと思います。
 
【2017年伊野尾が選ぶ最高の本】はこの本です。
 
〇「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」上間陽子(太田出版)

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最高の本、と紹介しましたが今回の意味合いは「もっとも鮮烈な記憶を残した本」に近いです。
それぐらい、この本のインパクトはありました。今もあります。
「裸足で逃げる」は沖縄で恋人や家族の暴力、性暴力、家族からの抑圧などで安息に生きられない状況にある少女たちの姿を描いたノンフィクションです。
ここに出てくる少女たちは、みな家庭に居場所がない。
些細なことで暴力や抑圧を受ける環境がある。
そこから彼女たちは逃げる。
しかしお金のない少女が安息に過ごせる場所はほとんどない。
誰かを頼ることになる。
その頼った人間が、少女を性的な視線でしか見ていなかったらどうなるか。
少女を屈服させる相手としか認識していなかったらどうなるか。
 
誰にも守られない。どこにも行く場所がない。どうしていいかわからない。
それでも生きていかなければならない。
 
そんな沖縄の少女たちに、上間さんは手を差し伸べます。
身に起こったつらい出来事を、酷い話をじっと聞き、病院に付き添い、揉めている家族や夫(恋人)との間に入って良い解決方法を探り、赤ちゃんを抱えた少女たちのサポートに回る。
 
名目的には調査だったり、生活指導だったりするかもしれないけど、本質的には「知り合った年下の女の子がすごく苦しんでいるのを見過ごせない」という一点で動いているように思います。
でなければ自分の貴重な余暇時間を、家族と過ごす時間を、睡眠時間を削ってまで助けに行ったり連れ添ったりなんかできない。
 
ここに出てくるのは沖縄の少女たちですが、おそらく自分の今いる場所にも同じような話があるはずです。
持たざる子供たち、若者たちが安息を奪われている現状が。
衝撃を受けつつ、考えさせられる。
この本は今年一番、私の心に残りました。
2017年の本として、私はこの本を選びたいと思います。
 
 
続きまして小説部門。
 
☆小説部門
 
〇「夫のちんぽが入らない」こだま(扶桑社)
 

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まず「これ小説なのか?」という論議があると思いますが、この本のオビは最近の版だと小さく『私小説』と書いてあるので、私小説と認識しています。
 
私は下衆な読み物が大好きです。
不倫の話とか、エロい話も大好きです。
最初にこの本のことを知ったのは扶桑社の方に「こういう本を出す予定なんですが、伊野尾さんゲラ読んでみませんか」と声をかけられたのがきっかけでした。
その時点で私は週刊大衆的な下衆な読み物を連想してたのですが、届いたゲラを読みだしてすぐに「これはそういう話じゃない」と気が付き、読み終わった瞬間「すごい…」と放心していました。
 
これは、人間の強さと悲しみと生きていく上での業がすべて詰まった物語だ。
そう思いました。
そしてまた文章が上手い。
タイトルでまず確信的なネタバレが明示されてるにもかかわらず、そのことをフックとしてさらなる予想外の展開を引き出す書き方は、本当にこれが初めて本を出す人だろうか?と考えさせるほど見事なものでした。
今年、伊野尾書店では「文庫X」を踏襲した、タイトル・著者名などをすべてカバーで覆ったパッケージとして販売する『どうしても読んでもらいたい本』という企画を行いました。
 

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その中身が、この「夫のちんぽが入らない」でした。
私が最初週刊大衆的なものを連想していたように、このタイトルだと手にもとらないという人がたくさんいるだろう、と思ったのがそのきっかけです。
中身さえ読んでもらえれば、これは下衆どころか2017年を代表する名作である、ということが伝わると思いました。
中身もわからない状態で売るので、「もしお買い上げ後に問題がありましたらこの本に限っては返金します」としたのですが、「お母さんにプレゼントしようと思って買ったんですけど、この本はちょっと…」と男子学生のお客さんから一度希望があっただけで、それ以外はまったくありませんでした。
 
『どうしても読んでもらいたい本』を買ってくださったお客様からは
 
「すごい話だね」
「あんな話だとは思わなかった」
「あれ本当のことなの?」
「書いてるのは有名な作家さんなんじゃないの?」
 
などなど、いろんなお声をいただきました。
不評は面と向かって言えないというのもあったと思いますが、ほぼ「読んでよかった」という好評ばかりで、大変うれしかったです。
この企画は1月中旬から9月下旬まで続けたのですが、合計で105冊という販売冊数になり、それだけの方が信頼して買ってくださったんだな…とありがたい気持ちでいっぱいになりました。
 
先日、実写映画化も発表されましたが、これはできれば最初は本で読んでもらいたいなあ、というのが偽らざる気持ちです。
文章でしか表現できない、文章だから表現できる感情がある。
それを十分なしえている作品だと思うのです。
 
 
☆コミック部門 
 
〇「ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 」武田一義, 平塚柾緒(白泉社、ヤングアニマルコミックス) 現在3巻まで発売中
 
 

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私は一時期戦争関連の書籍を続けて何冊も読んでいた時期があって、それが過ぎるとあとはまったく読まない、という時期が長くありました。
この「ペリリュー」1巻が出たのはちょうど読まない時期だったのですが、なぜかこの表紙には気を取られるものがあり、なんとなく読んでみました。
それが読み終わって激しくショックを与えられることになるとは、そのときは思っても見ませんでした。
 
昭和19年夏、南太平洋に浮かぶパラオ諸島の中の小さな島、ペリリュー島に送られた田丸は戦地で上官から奇妙な命令を下される。
それは戦地であっけなく亡くなった兵隊の遺族に「最後まで立派に戦った」という兵士の「最後の雄姿」を創作し手紙を送る“功績係”という業務だった。
しかし、戦局の悪化は徐々にその業務も、部隊も、田丸自身も変えていく…。
 
それまで塹壕の中から勇猛に敵兵を撃っていた吉敷上等兵が、銃弾に撃たれ塹壕に転げ落ちてきた瀕死の米兵が「ママ…」とつぶやいたのを聞いた瞬間、何かのつっかえが取れたかのように蒼白になり、嘔吐してしまう場面で泣きました。
大江戸線の車内でしたが、泣きました。
 
この作品は全巻完結するまで読もうと思います。
 
 
 
☆実用書部門
 
今年もまたサンマーク出版が強かったです。
「どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法」に続き、今年は「モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット」が大ヒットしました。
 

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去年の「開脚」は買った人からの微妙な評判も見聞きしたんですが、「体幹リセット」は概ね評判いいですね。
 
私が大好きな健康実用書界隈についてですが、今年のトピックは『のど』だったんではないでしょうか。
まあ、これですよね。
 
〇「肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい」西山耕一郎(飛鳥新社)

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昨年までこの界隈で「のど」「肺炎」というキーワードはあることはあっても、いま現在その部分が具合悪い患者さん向けの本だったような気がします。
そんな中で「のどを鍛えなさい!」という新しいメッセージがこんなに浸透していくとは思いませんでした。
 
まあ一気に後続者が出ましたよ。
  • ・「『のど』をきたえて誤嚥性肺炎を防ぐ本」(宝島社)
  • ・「肺炎にならないためののどの鍛え方 」(扶桑社)
    ・「誤嚥性肺炎を自力で撃退するNo.1療法」(マキノ出版)
    ・「9割の誤えん性肺炎はのどの力で防げる」(中経の文庫)
    ・「肺炎は『口』で止められた!」 (青春新書プレイブックス)
多すぎだっつーの。
 
でも、私も自分がおっさんになってきてわかったのは、よく街中ですごい音を鳴らしてからペーッ!って道端に痰を吐く汚いおっさんがいるじゃないですか。
あれは喉が弱ってくるとそうなるのかな、とちょっと思いました。
肺炎との因果関係はわかりませんけど。
 
あとやっぱり小林弘幸先生のこれでしょうか。
 

Photo_7

・「死ぬまで歩くにはスクワットだけすればいい」(幻冬舎)
昔のトレーニングには付き物だったスクワットも近年「やりすぎは膝を痛める」とか言われたりしてますが、また脚光を浴びているようです。
ちなみに“プロレスの神様”カール・ゴッチは70歳で一日2000回スクワットをやっていた、という伝説がありますがたぶんそこまで小林先生は求めていないと思います。
 
個人的には「これブームくるかな?」と思った干しブドウ酢が思ったほど伸びませんでした。
来年に期待しましょう。

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・「干しブドウ酢でやせる!病気が治る!」(マキノ出版)
 
 

☆児童書部門
 
今年は夏ごろの「うんこ漢字ドリル」が瞬間最大風速的には一番大きかったですが、一年を通じるとこれでしょうね。
 

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「ざんねんないきもの事典」(高橋書店)
http://www.takahashishoten.co.jp/zannen/
 
140万部ですか。
すごいベストセラーになりました。
ほんとこれは広く子供たちに買われていった印象あります。
テレビの「しくじり先生」もそうですけど、今はこういうマイナス面から入った方が親しみが沸くのかもしれません。
その一方で「危険生物」の本も去年くらいからずーっと児童書界隈でブームです。
大人も子供もヤバい話、危ない話には本能的に惹かれるんだろうなーと思っています。
 
 
 
☆2017年の一番印象に残った映画
 
「彼女がその名を知らない鳥たち」
 
 
今年はあんまり映画を見られなかったんですが、その中でもひときわ印象に残った作品です。
 
おおざっぱにストーリーを説明すると、主人公の女性(蒼井優)は15歳年上の見た目が悪くて下品で汚らしい男(阿部サダヲ)と住んでいながら、年中昔付き合ってた男(竹野内豊)のことを思い出している。
「なんでこの人と一緒に住んでるんだろう?」という疑問を見てる人に残したまま、蒼井優はつい昔の男である竹野内豊に電話してしまう。
けど彼はその電話には出なくて、そのときはそれで終わったのだけれど何日かあとになぜか警察が来て「実は(竹野内豊)が失踪してるんですが、あなた何か事情知ってませんか?」と言われてビックリする…というところからまあいろいろ起きる、そんなお話です。
 
ひっじょーに濃い話です。
そして出てくる人たちが大方クズい。
主人公は善人でその相手役の誰か一人がクズとかそういうのじゃなくて、そこはかとなく全員がひどい。もしくは気持ち悪い。
 
しかしそこが「人間のどうしようもなさ」であると同時に「どうしようもないがゆえに見せられるリアルな希望」みたいなのを作り上げてて、見ててウワーっと思いました。
出演者みな怪演ですが、中でも主演の蒼井優がひときわすごい。
“人間力”の出力が半端なくて、普段『人には人の乳酸菌』とかソーメンのようなさっぱりしたCMに出てる蒼井優がこの映画では豚背脂ギトギトラーメン全部乗せ、みたいな濃い役柄を演じております。
 
見終わった後、いろいろ語りたくなる映画です。
 
 
☆プロレス最優秀試合
 
〇4/29 DDT後楽園ホール大会 竹下幸之介vs遠藤哲哉
 
17歳で日本武道館デビュー、2年目にはタイトルを取り、21歳で団体のチャンピオンに上り詰めた竹下。
たまたま深夜テレビで見た飯伏幸太に憧れ入門、少しずつキャリアを積み重ねてきた遠藤。
遠藤から見れば竹下は「年下の同期」で、常に活躍するのは竹下。当然、嫉妬に近い感情がないはずはない。
竹下は団体から自分に課せられた期待に応えようとただ闇雲に努力してきただけなのに、常にエリートと見られる。
複雑な二人の感情が交差した試合は20代前半同士ということもあり、これまでで見たことのないような展開になりました。
「この人たち、こんな試合できるんだ…」と驚かされた試合です。
 
 
 
☆今年をふりかえって
 
は、時間作って次回に書きたいと思います。
って、今年あと3日しかない!
 
(H)
 

December 24, 2017

アルバイトA木の推薦本シリーズ 「地下の鳩」

お久しぶりです。アルバイトのA木です。
クリスマスイブですね。
みなさんはいかがお過ごしでしょうか。
私は今年も店長とレジに立っています(笑)

先ほど店長に「今年読んだ本の中で一番面白かった一冊は?」と聞かれて一つに絞れずぱっと出てこなかったのですが、最近読んで感動した西加奈子さんの『地下の鳩』という本を紹介したいと思います。

この本は、キャバレーの呼び込み人とチーママの話(地下の鳩)と、オカマバーを経営しているオカマの話(タイムカプセル)が収録されています。
書店でなんとなく手に取り背表紙のあらすじを読んだらオカマの話が気になったのでつい買ってしまいました。
私は気になりすぎてタイムカプセルから読んでしまったのですが、二作とも話が交差している部分があるのでどちらから読んでも楽しめます。

○「地下の鳩」地下の鳩(文春文庫)

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December 12, 2017

「この地獄を生きるのだ ―うつ病、生活保護。死ねなかった私が『再生』するまで。」

小林エリコさんは短大卒業後に就職浪人を経験し、ようやく仕事を見つける。
エロ漫画雑誌の編集職だった。
やらないといけない仕事があまりに多く、働いても働いても終わらない。
その分の残業代はつかない会社だった。
社会保険も入れてもらえず、ボーナスもない。
月給は12万円。
固定で、どれだけ働いてもそれ以上増えることはない。
 
常にお金が手元にない。
お金がないことは、日々の支出に多くの制限をつけなくてはいけないということだ。
そんな状態にありながら、今日も朝から深夜まで働かなければならない。
小林さんは次第に心が耐えられなくなってくる。
精神科の医者に行き、処方された薬を飲むようになる。
あるとき、ついに耐えられなくなり、アルコールと一緒に余っていた向精神薬をまとめて飲む。
小林さんが意識を取り戻したのは、病院のベッドの上だった。
傍らに両親がいるのを確認して思った。
「ああ、私は死ねなかった」
 
そしてここから、小林さんはいろいろなものを失い始める。
仕事、精神の安定、一人暮らしの部屋、一人の時間。
そして生活保護の支給と引き換えに、自由を失う。
わたしたちは普段あまりにも意識していない。
自分の生活が、精神が、ちょっとしたことで崩れ去ることを。
崩れ去ってから、「普通に暮らす」と呼ばれている元通りの場所に戻ることがいかに至難なことであるかを。
 
『この地獄を生きるのだ』には圧倒的な「地獄」が描かれる。
心を崩したらそれで終わりじゃない。
実家に戻ったからといってそれで終わりじゃない。
底がないこと、終わりがないこと、戻る世界に戻る道が見えないこと――ここでいう「地獄」とはそういうことだろう。
そしてこの地獄は、ちょっとしたことで誰しも落ちる可能性がある。
 
そんな地獄から、小林さんは再生する。
奇跡的、とは呼びたくない。
巡り合わせの幸運はあれど、基本的には再生するために、「普通の生活」に戻るために、やれることを一生懸命やったからこそ再生できたんだと思いたい。
小林さんがどのようにして再生できたか、読んでほしい。
 
「地獄」だった人生が「捨てたもんじゃない」に変わっていく。
「地獄」が誰しも落ちる可能性があるところならば、「天国」もまた誰でも昇れる可能性がある。
人生において絶望と希望はいつも同じ箱に入れられている。
たまたまその両方を見た、稀有な記録がここにある。
 
「仕事とはこの社会全体を人々がうまく回していくことだと思う。自分がホチキス留めした資料もこの社会を回すための役に立っているのだ。その証拠に、対価としてお金が発生する。自分がこの社会で必要とされているという実感は、私に自尊心を取り戻した」
(第五章「普通に働き、普通に生きる」)
 
「この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が『再生』するまで。」小林エリコ(イーストプレス)

https://konojigoku.tumblr.com/
 

Photo

 

December 05, 2017

何もないところから世界最高峰のブランドを作った男 ~『SHOE DOG』

Shoedog

〇『SHOE DOG』フィル・ナイト著/大田黒 奉之訳(東洋経済新報社)

大学生の頃、「エアマックス狩り」という単語がニュースで話題になった。
ナイキのスニーカー「エアマックス」が大人気になったが品薄で店頭に並ばず、履いている人間を襲って靴を奪い取る暴漢がいる、というニュースだ。
私はファッションに詳しくなかったので、「靴でそんなことになるの!?」という驚きとともにそれによって「エアマックス」という商品名を覚えた。
ナイキというメーカーを知ったのもそのときが最初だ。
 
私はスポーツを見るのは好きだが、自分ではほとんどしない。
スポーツ店に行く機会も少ない。
にもかかわらず「ナイキ」「アディダス」「プーマ」といったスポーツシューズのメーカー名は知っている。
それだけあちこちに広告が出ているということであり、わたしたちの生活を取り囲むものになっているということだ。
『SHOE DOG』はそんなナイキの創業者、フィル・ナイトの自叙伝だ。
『SHOE DOG』とは靴を製作することに没頭してしまう職人のことを指す用語で、意訳するなら「靴バカ」みたいな意味合いだろう。
 
私はスニーカーにも、大企業の創業者自伝にもなんとなく縁遠いものを感じていたので発売当初それほど関心はなかったのだけど、ある人から「いわゆる『俺はこんなに成功した』みたいなありがちな創業者自伝とはちょっと違うので、読んでみてほしい」と言われ、読んでみた。
確かにだいぶ違った。
書かれているのは「こうして会社を大きくした」というよりは「学生時代に陸上競技をやっていた流れからなんとなく運動靴を売ることを生業にすることにした若者」の人生録だった。
 
 
フィルはオレゴンというニューヨークやシカゴから見たら田舎町に生まれ、高校で野球チームに入ろうとしたら追い出されてショックを受ける。
代わりに仕方なく…といった感じで始めた陸上競技に彼は熱中し、大学まで続ける。
その時に知った日本の運動靴(オニツカタイガー)に可能性を感じながら、証券会社のセールスマンをやったり、ハワイで百科事典のセールスマンをやったり寄り道した末に、フィルは日本へ行く。
そして神戸のオニツカ社をアポなしで訪問し、アメリカでこの靴を売りたい、という話をする。
オニツカの担当者はフィルに言う。
「ところで、あなたの会社はなんていう会社ですか?」
この時点でフィルは自分の所属先などなかった。
フィルは自分の部屋の壁に飾られている、陸上競技で勝ち取ったブルーリボンのことを思い出してこう言った。
「私はブルーリボン・スポーツの代表です」
 
 
現在売り上げ300億ドルというナイキの第一歩は、出まかせから始まった。
 
何度か、会社の息の根が止まりそうな瞬間のことが描かれる。
この本をこうして出せてるのだから、最終的にはなんとかなったんだろう…と思いながら「え?これ…どうするの?」というトラブルやアクシデントが創業以来、何回か起きる。
そのあたりの話は冒険ノンフィクションのようだ。
科学や開発の進化で冒険とか探検が成立しにくくなった現代では、「会社を新しく作る、維持する、大きくする」というのはそれに近いことなんだな、と実感する。読んでいてハラハラした。
 
そして会社の窮地が訪れると、フィルはだいたい外に走りに行っている(6マイル=9.6キロも走るらしい)。
人間、悩んだら身体を動かすことが一番なのかもしれない。
私もスニーカーを買って、明日から走ってみようと思う。
エアマックスにするかどうかはともかく。
 
(H)
 

December 02, 2017

降伏の記録

○「降伏の記録」植本一子(河出書房新社)

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「かなわない」「家族最後の日々」に続く植本一子さんのエッセイ3冊目。
正直、「そろそろもういいかな」という思ってしまい手つかずにしていたら読んだ人から「これは読んだ方がいい」と言われ読みました。
そしてそれは正しかった。

この本は植本一子三部作の最終章なんだと思います。

植本さんのエッセイはすべて同じフォーマットで成り立っています。
家族と自分をめぐる日常の身辺雑記が続き、そこに突然爆弾のような告白が落とされる。
テンションは変わらない。ただ書いてるモードがまったく違ってる。
内容はまったく異次元に変わってるのに、同じテンションで語られるギャップに動揺させられる。

今回も同じような作りです。
違うのは、日常雑記のパートからすでに不穏の種がそこかしこに落ちていることで。
そしてそれは終盤落とされる(よくこれを書くなあ…)という爆弾に静かに向かっていくのですが、すでに爆弾の導火線が見えていた分、今回はまったく予想できないものではありませんでした。

ただ、思ってることと、それを本に書いて公に発表することはまったく別の次元であって、それを表に出してしまうことに植本さんの物書きの業を禁じ得えなかったです。

共感するにせよ反発するにせよ、誰しもどこかに引っかかりを覚える作品ではないかと思います。
多くの人から感想を聞きたいです。

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309026206/

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