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December 28, 2017

伊野尾アワード2017

毎年待たれてるのか、単なる自己満足なのかあやふやな、伊野尾書店店主が選ぶ独断と偏見の表彰式「伊野尾アワード」の季節がやってまいりました。
もう12/28ですよ。
暮れ!
暮れすぎる!
某出版社の営業さんは12/26で仕事が終わって今日から冬休みだそうですが、私どもは絶賛まだ2017年です。
かつて、夏の甲子園決勝で「日本文理の夏はまだ終わらなーい!」という名実況がありましたが、俺たちの2017年はまだ終わらない!
 
と、いかにも深夜な、意味の分からない高揚をしてきたところで発表に移りたいと思います。
 
【2017年伊野尾が選ぶ最高の本】はこの本です。
 
〇「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」上間陽子(太田出版)

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最高の本、と紹介しましたが今回の意味合いは「もっとも鮮烈な記憶を残した本」に近いです。
それぐらい、この本のインパクトはありました。今もあります。
「裸足で逃げる」は沖縄で恋人や家族の暴力、性暴力、家族からの抑圧などで安息に生きられない状況にある少女たちの姿を描いたノンフィクションです。
ここに出てくる少女たちは、みな家庭に居場所がない。
些細なことで暴力や抑圧を受ける環境がある。
そこから彼女たちは逃げる。
しかしお金のない少女が安息に過ごせる場所はほとんどない。
誰かを頼ることになる。
その頼った人間が、少女を性的な視線でしか見ていなかったらどうなるか。
少女を屈服させる相手としか認識していなかったらどうなるか。
 
誰にも守られない。どこにも行く場所がない。どうしていいかわからない。
それでも生きていかなければならない。
 
そんな沖縄の少女たちに、上間さんは手を差し伸べます。
身に起こったつらい出来事を、酷い話をじっと聞き、病院に付き添い、揉めている家族や夫(恋人)との間に入って良い解決方法を探り、赤ちゃんを抱えた少女たちのサポートに回る。
 
名目的には調査だったり、生活指導だったりするかもしれないけど、本質的には「知り合った年下の女の子がすごく苦しんでいるのを見過ごせない」という一点で動いているように思います。
でなければ自分の貴重な余暇時間を、家族と過ごす時間を、睡眠時間を削ってまで助けに行ったり連れ添ったりなんかできない。
 
ここに出てくるのは沖縄の少女たちですが、おそらく自分の今いる場所にも同じような話があるはずです。
持たざる子供たち、若者たちが安息を奪われている現状が。
衝撃を受けつつ、考えさせられる。
この本は今年一番、私の心に残りました。
2017年の本として、私はこの本を選びたいと思います。
 
 
続きまして小説部門。
 
☆小説部門
 
〇「夫のちんぽが入らない」こだま(扶桑社)
 

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まず「これ小説なのか?」という論議があると思いますが、この本のオビは最近の版だと小さく『私小説』と書いてあるので、私小説と認識しています。
 
私は下衆な読み物が大好きです。
不倫の話とか、エロい話も大好きです。
最初にこの本のことを知ったのは扶桑社の方に「こういう本を出す予定なんですが、伊野尾さんゲラ読んでみませんか」と声をかけられたのがきっかけでした。
その時点で私は週刊大衆的な下衆な読み物を連想してたのですが、届いたゲラを読みだしてすぐに「これはそういう話じゃない」と気が付き、読み終わった瞬間「すごい…」と放心していました。
 
これは、人間の強さと悲しみと生きていく上での業がすべて詰まった物語だ。
そう思いました。
そしてまた文章が上手い。
タイトルでまず確信的なネタバレが明示されてるにもかかわらず、そのことをフックとしてさらなる予想外の展開を引き出す書き方は、本当にこれが初めて本を出す人だろうか?と考えさせるほど見事なものでした。
今年、伊野尾書店では「文庫X」を踏襲した、タイトル・著者名などをすべてカバーで覆ったパッケージとして販売する『どうしても読んでもらいたい本』という企画を行いました。
 

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その中身が、この「夫のちんぽが入らない」でした。
私が最初週刊大衆的なものを連想していたように、このタイトルだと手にもとらないという人がたくさんいるだろう、と思ったのがそのきっかけです。
中身さえ読んでもらえれば、これは下衆どころか2017年を代表する名作である、ということが伝わると思いました。
中身もわからない状態で売るので、「もしお買い上げ後に問題がありましたらこの本に限っては返金します」としたのですが、「お母さんにプレゼントしようと思って買ったんですけど、この本はちょっと…」と男子学生のお客さんから一度希望があっただけで、それ以外はまったくありませんでした。
 
『どうしても読んでもらいたい本』を買ってくださったお客様からは
 
「すごい話だね」
「あんな話だとは思わなかった」
「あれ本当のことなの?」
「書いてるのは有名な作家さんなんじゃないの?」
 
などなど、いろんなお声をいただきました。
不評は面と向かって言えないというのもあったと思いますが、ほぼ「読んでよかった」という好評ばかりで、大変うれしかったです。
この企画は1月中旬から9月下旬まで続けたのですが、合計で105冊という販売冊数になり、それだけの方が信頼して買ってくださったんだな…とありがたい気持ちでいっぱいになりました。
 
先日、実写映画化も発表されましたが、これはできれば最初は本で読んでもらいたいなあ、というのが偽らざる気持ちです。
文章でしか表現できない、文章だから表現できる感情がある。
それを十分なしえている作品だと思うのです。
 
 
☆コミック部門 
 
〇「ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 」武田一義, 平塚柾緒(白泉社、ヤングアニマルコミックス) 現在3巻まで発売中
 
 

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私は一時期戦争関連の書籍を続けて何冊も読んでいた時期があって、それが過ぎるとあとはまったく読まない、という時期が長くありました。
この「ペリリュー」1巻が出たのはちょうど読まない時期だったのですが、なぜかこの表紙には気を取られるものがあり、なんとなく読んでみました。
それが読み終わって激しくショックを与えられることになるとは、そのときは思っても見ませんでした。
 
昭和19年夏、南太平洋に浮かぶパラオ諸島の中の小さな島、ペリリュー島に送られた田丸は戦地で上官から奇妙な命令を下される。
それは戦地であっけなく亡くなった兵隊の遺族に「最後まで立派に戦った」という兵士の「最後の雄姿」を創作し手紙を送る“功績係”という業務だった。
しかし、戦局の悪化は徐々にその業務も、部隊も、田丸自身も変えていく…。
 
それまで塹壕の中から勇猛に敵兵を撃っていた吉敷上等兵が、銃弾に撃たれ塹壕に転げ落ちてきた瀕死の米兵が「ママ…」とつぶやいたのを聞いた瞬間、何かのつっかえが取れたかのように蒼白になり、嘔吐してしまう場面で泣きました。
大江戸線の車内でしたが、泣きました。
 
この作品は全巻完結するまで読もうと思います。
 
 
 
☆実用書部門
 
今年もまたサンマーク出版が強かったです。
「どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法」に続き、今年は「モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット」が大ヒットしました。
 

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去年の「開脚」は買った人からの微妙な評判も見聞きしたんですが、「体幹リセット」は概ね評判いいですね。
 
私が大好きな健康実用書界隈についてですが、今年のトピックは『のど』だったんではないでしょうか。
まあ、これですよね。
 
〇「肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい」西山耕一郎(飛鳥新社)

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昨年までこの界隈で「のど」「肺炎」というキーワードはあることはあっても、いま現在その部分が具合悪い患者さん向けの本だったような気がします。
そんな中で「のどを鍛えなさい!」という新しいメッセージがこんなに浸透していくとは思いませんでした。
 
まあ一気に後続者が出ましたよ。
  • ・「『のど』をきたえて誤嚥性肺炎を防ぐ本」(宝島社)
  • ・「肺炎にならないためののどの鍛え方 」(扶桑社)
    ・「誤嚥性肺炎を自力で撃退するNo.1療法」(マキノ出版)
    ・「9割の誤えん性肺炎はのどの力で防げる」(中経の文庫)
    ・「肺炎は『口』で止められた!」 (青春新書プレイブックス)
多すぎだっつーの。
 
でも、私も自分がおっさんになってきてわかったのは、よく街中ですごい音を鳴らしてからペーッ!って道端に痰を吐く汚いおっさんがいるじゃないですか。
あれは喉が弱ってくるとそうなるのかな、とちょっと思いました。
肺炎との因果関係はわかりませんけど。
 
あとやっぱり小林弘幸先生のこれでしょうか。
 

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・「死ぬまで歩くにはスクワットだけすればいい」(幻冬舎)
昔のトレーニングには付き物だったスクワットも近年「やりすぎは膝を痛める」とか言われたりしてますが、また脚光を浴びているようです。
ちなみに“プロレスの神様”カール・ゴッチは70歳で一日2000回スクワットをやっていた、という伝説がありますがたぶんそこまで小林先生は求めていないと思います。
 
個人的には「これブームくるかな?」と思った干しブドウ酢が思ったほど伸びませんでした。
来年に期待しましょう。

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・「干しブドウ酢でやせる!病気が治る!」(マキノ出版)
 
 

☆児童書部門
 
今年は夏ごろの「うんこ漢字ドリル」が瞬間最大風速的には一番大きかったですが、一年を通じるとこれでしょうね。
 

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「ざんねんないきもの事典」(高橋書店)
http://www.takahashishoten.co.jp/zannen/
 
140万部ですか。
すごいベストセラーになりました。
ほんとこれは広く子供たちに買われていった印象あります。
テレビの「しくじり先生」もそうですけど、今はこういうマイナス面から入った方が親しみが沸くのかもしれません。
その一方で「危険生物」の本も去年くらいからずーっと児童書界隈でブームです。
大人も子供もヤバい話、危ない話には本能的に惹かれるんだろうなーと思っています。
 
 
 
☆2017年の一番印象に残った映画
 
「彼女がその名を知らない鳥たち」
 
 
今年はあんまり映画を見られなかったんですが、その中でもひときわ印象に残った作品です。
 
おおざっぱにストーリーを説明すると、主人公の女性(蒼井優)は15歳年上の見た目が悪くて下品で汚らしい男(阿部サダヲ)と住んでいながら、年中昔付き合ってた男(竹野内豊)のことを思い出している。
「なんでこの人と一緒に住んでるんだろう?」という疑問を見てる人に残したまま、蒼井優はつい昔の男である竹野内豊に電話してしまう。
けど彼はその電話には出なくて、そのときはそれで終わったのだけれど何日かあとになぜか警察が来て「実は(竹野内豊)が失踪してるんですが、あなた何か事情知ってませんか?」と言われてビックリする…というところからまあいろいろ起きる、そんなお話です。
 
ひっじょーに濃い話です。
そして出てくる人たちが大方クズい。
主人公は善人でその相手役の誰か一人がクズとかそういうのじゃなくて、そこはかとなく全員がひどい。もしくは気持ち悪い。
 
しかしそこが「人間のどうしようもなさ」であると同時に「どうしようもないがゆえに見せられるリアルな希望」みたいなのを作り上げてて、見ててウワーっと思いました。
出演者みな怪演ですが、中でも主演の蒼井優がひときわすごい。
“人間力”の出力が半端なくて、普段『人には人の乳酸菌』とかソーメンのようなさっぱりしたCMに出てる蒼井優がこの映画では豚背脂ギトギトラーメン全部乗せ、みたいな濃い役柄を演じております。
 
見終わった後、いろいろ語りたくなる映画です。
 
 
☆プロレス最優秀試合
 
〇4/29 DDT後楽園ホール大会 竹下幸之介vs遠藤哲哉
 
17歳で日本武道館デビュー、2年目にはタイトルを取り、21歳で団体のチャンピオンに上り詰めた竹下。
たまたま深夜テレビで見た飯伏幸太に憧れ入門、少しずつキャリアを積み重ねてきた遠藤。
遠藤から見れば竹下は「年下の同期」で、常に活躍するのは竹下。当然、嫉妬に近い感情がないはずはない。
竹下は団体から自分に課せられた期待に応えようとただ闇雲に努力してきただけなのに、常にエリートと見られる。
複雑な二人の感情が交差した試合は20代前半同士ということもあり、これまでで見たことのないような展開になりました。
「この人たち、こんな試合できるんだ…」と驚かされた試合です。
 
 
 
☆今年をふりかえって
 
は、時間作って次回に書きたいと思います。
って、今年あと3日しかない!
 
(H)
 

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