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June 2017

June 10, 2017

恋愛の終着点とは何か― 末井昭「結婚」

末井昭さんは昭和25年に岡山の山間部で生まれた。
子供の頃、村にやってくる移動食品マーケットでの買い物はお金でなく米が使われていたという。
末井さんのお母さんは病気がちで入院している期間が長かった。
ようやく家に戻ってきてから間もない末井さんが小学校一年生の頃に失踪し、隣の家の息子と一緒にダイナマイトで無理心中した。
二人は不倫関係にあった。
少年の心に一生消えないであろう強烈な出来事は、末井さんの人生観に「男と女の間にはおぞましいものがある」ということを植え付けていく。
 
成人した末井さんは大阪のステンレス工場での勤務を経て、川崎の自動車工場に勤める。
住まいは近隣の下宿で、同じ下宿先に「一つ年上のきれいな女の人」がいた。
この人が末井さんにとって最初の彼女で、「その人と付き合うまで」と「付き合いだしたあと」にはかなりいろいろな出来事があるのだがそれについては今作「結婚」で読んでほしい。
 
やがて末井さんは工場勤めをやめてグラフィックデザイナーを目指すようになる。
工場勤めの他に牛乳配達のアルバイトをしてお金を貯め、ようやく渋谷のデザイン専門学校に入るも当時盛り上がっていた学生運動の余波でデザイン学校の勉強が満足に出来ず、自分で駒込にある店舗の看板や装飾をやってる会社に就職。
その後キャバレーの看板書きになり、知人に声をかけられセルフ出版(現・白夜書房)で働く。
その後自身がギャンブルにハマったとき「これを雑誌にしよう」と「パチンコ必勝ガイド」を創刊。
自身が編集長を務めた「パチンコ必勝ガイド」は大ヒット雑誌になるが、そのあたりから末井さんの人生は荒れていく。
ギャンブル依存、借金、不倫…。
 
にもかかわらず、いやそんな人生を送ってきた人だからこそ言える深みのある「恋愛と人生」論がこの本のテーマです。
 
好きな人ができる。
好きな人と心が通じ合い、結ばれる。
生きていて得られる、かけがえのない喜び。
そんな素晴らしいことのはずなのに、二人で暮らすようになると相手の悪いところが気になり、嫌に思うようになる。
やがて相手に対する不満や、相手の言動によって自分の発言や行動が制限されることに息苦しさを覚える。
そして「ここではない生活」「ここではない人生」を考える。
 
そうやって不満を抱えながら人は誰かと結ばれ、ともに生きようとする。
その答えを末井さんは自分の半生から得た経験知と、聖書に求めようとします。
人生がどうにもならなくなりそうになったとき、末井さんはたまたま聖書と出会い、聖書に出てくる話を人生の指針におき、生きながら都度考えるようになる。
 
末井さんの人生は現在の規範意識で測るとめちゃくちゃです。
20代のうちに他の交際相手がいる女性を奪い取る形で交際を始め、結婚する。
30代は3人の女性と同時に不倫し、40代で既婚者の別の女性を好きになり、3人の浮気相手と別れ、そして奥さんと離婚し、その女性と同棲を始め再婚する。
そしてこのめちゃくちゃな末に新しい嫁さんと平和にやっているのか…といえばまたそうでもない。
いろんな闘いとストレスの山を経て、そして行き着く地点がある。
その地点の話を末井さんは最後に書いています。
 
その話が素晴らしくよいのです。
これはいきなり結論を出してもスッと入らない。ずっと末井さんの半生を追って最後に出てくることで「そうか…」とわかるものがある。
 
大事なことは、時間をかけないとつかめない。
いま流行りのネットニュースみたいに「3行でわかる」じゃ、到底わからないことがこの本には書いてあります。
 
 
 
 
〇「結婚」末井昭(平凡社)
 

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