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May 03, 2017

「フィリピンパブ嬢の社会学」

キャバクラに行ったことがありません。
行ったら楽しいんだろうなー、と思いつつ行ったらハマってしまうんだろうな、という恐怖心の方が勝って足を向けられません。
キャバレーは昔、まだ栗田出版販売という会社が志村坂上にあった頃に当時の社長に二回くらい連れて行ってもらったことがあります。赤羽のお店でした。
自分よりも母親の方が年齢近いんじゃないか…?と推測されるくらいのお姐さんが出て来てお酒をついでもらったのと、「ああ…昭和だ…」という店内の様子と、楽しそうだった栗田の社長の姿が印象的でした。

そしてフィリピンパブにも行ったことがありません。
「イラサイマセー」とか「シャチョサン、アイシテルヨー」と片言の日本語を話すフィリピン人女性、という雑なイメージしか持っていません。

この本は名古屋の大学院で国際関係学を学ぶ著者の中島さんが、研究対象としてフィリピンパブを取り上げて取材していくうちに一人のパブ嬢と知り合い、「取材対象者」から次第に「恋愛対象」に変わっていくという、社会学のはずが途中からラブストーリーに変わっていくという、大変不思議なジャンルの本です。

中島さんは大学時代に体験渡航でフィリピンに渡航した際、貧民街でトイレもない家に暮らす人々と接してカルチャーショックを受けます。
帰国後もフィリピンのことを研究し、その流れで「名古屋の繁華街にはなぜこんなにフィリピンパブが多いのだろう」と思い、自分で取材・検証を始めます。
その過程で一人のフィリピンパブ嬢・ミカと出会うわけですが、最初は取材対象だった相手が、いつしか恋愛対象に代わっていくところが…いいんですよ!
なんですかね、人の心の壁が崩れていくさまって、読んでて悶えますね。

中島さんは一応「学術研究の取材」というテイで店に行ってるので、最初はとても警戒感が強い。
パブ嬢にねだられても余分なドリンクを入れたりせず(単純にお金がなかったというのもあるみたいですが)、一定の距離をあけてたようなのにミカとの間ではそれが少しずつ壊れていくのがとてもよいです。
特別な感情を寄せられても常に
「騙されてるんじゃないか?」
「結局こちらの金が目当てなんじゃないか?」
と疑心暗鬼になり、友人知人はほとんどが交際に難色を示す中、中島さんはミカと会う時間を増やしていく。

中島さんとミカのエピソードを背景にしながら、日本でのフィリピンパブの実態がいろいろ書かれます。

フィリピンパブの経営者はかつてフィリピンにいる女の子たちを「タレント」として興行ビザを取って入国させ、店で働かせていた。
しかし2005年に興行ビザの発給要件が変わって取得するのが難しくなり、一時期フィリピンからやってくるパブ嬢はかなり減った。
それが近年増えてきたのは「日本人との偽装結婚」させて日本人の配偶者としてしまうやり方が横行してきたからだという。
偽装結婚なので当然違法。
なので正式な契約書はない。
すべてフィリピンから日本に連れてくる人と、マネージャーと呼ばれる日本での監督者による口約束だけである。
当然生活、就労環境は劣悪であり、一か月の給料が6万円(住む寮はある)、休みは月2回だけなんて状態がざらにある。
逃げ出そうにも偽装結婚していることで住民票が出てる状態なので、仮に婚姻を解消すれば本国に帰らないといけなくなる。
いろんな部分で逃げられないよう「鎖」がかけてある。

そしてミカもこの状態だった。
中島さんは最終的にミカを監督するヤクザとの話し合いに、深夜の繁華街の個室に一人出向くわけですが…その先の結末は読んでもらうとして。

このあたり「電車男」を読んだときのことを思い出しました。
ラブストーリーって

【出会い→誤解と解消→困難→周囲の応援→別の困難】

で構成されてるんだな…とつくづく思いました。

いろんな意味で人生で一度しか書けない話です。
いいものを読ませてもらいました。

○「フィリピンパブ嬢の社会学」中島弘象 (新潮新書)

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