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December 2016

December 30, 2016

伊野尾アワード2016

私はほとんどSMAPに関心のないまま半生を送ってきてしまったのですが、そんな私が先日「せっかくだから最後に見ておくか」と軽い気持ちで12/26放送「SMAP×SMAP」を見てたら最後に彼らのこれまでの歴史を振り返るVTRが流れて、そのあとに真っ白なスタジオで最後の「世界に一つだけの花」を聞いていたら自分でもビックリするくらいの欠落感に覆われてしまいました。
ずっとこの一年解散報道があったりして騒動になってたわりにはほとんど映像を見てなかったというのがあるのですが、歌う5人を見てて「過ぎ去った時間と戻らない関係」みたいなのがすごく感じられて、それが結構きました。

一つの時代の終わりを、年の瀬に痛烈に感じました。
「笑っていいとも」の終了とSMAPの解散は、時代の移り変わりを象徴する結構なトピックだったように思います。

そんな年の瀬でバタバタしているうちに今年も残りあとわずかになってしまいました。

今年はあまり更新ができなかったなあ…。

この時期になると
「去年の大晦日は○○さん(スタッフの名前)と働いたなあ」
「その前の年は××さんと働いてたっけ」
とかそういうことを思い出します。
同じ店にずっといると店も人もあんまり変わっていないようで、実は少しずつ少しずつ変化してきているんだなと一年の終わりに実感します。

10年くらい前の大晦日、Nさんという当時まだ入って半年くらいのアルバイトの女の子と入ったことがありました。
Nさんは本屋の仕事はあまり要領がよくなかったのですが、大掃除になった途端急にイキイキと動いてくれて、「あ、そんなところまで掃除してくれるんだ、ありがたいなあ」となったことを思い出します。

人によって才能を発揮できる場所は違ってて、上司にあたる側はその場所を見つけ出してやらないといけないんだなあ、と。
あれは勉強になりました。

伊野尾書店は来年はどうしてるんでしょう。
「小さな変化はいろいろあったけど、なんとかまあ今年もやってこられたね」と言えてますように。

 

さて、今年も誰が待っているのかわからない謎の選定グランプリ「伊野尾アワード」を発表したいと思います。
すっかり伊野尾慧さんが有名になってしまったおかげでまるで慧さんが選んでるかのように誤解されるおそれがありそうですが、中井の本屋が勝手に発表している極私的アワードです。

 

では発表します。

【2016年伊野尾が選ぶ最高の本】はこの本です!

 

○「漂流」角幡唯介/著(新潮社)

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はい、以前ここでも紹介した本ですが、この本にしたいと思います。

これはそうそう書けないです。
冒頭のつかみが良すぎる。
本筋から離れた佐良浜(沖縄の伊良部島にある漁村)に関する歴史話、漁業エピソードの数々が面白すぎる。
話の急展開。
遠く異国のどこにいるのか見当もつかない人間を訪ね歩くその努力と、その努力が結実する瞬間のカタルシス。
そして予想外の結末。

生存が絶望的な状況から奇跡的に救出された漂流事故の真実を「本の核」にしながら、そこにたどりつくまでの急展開する取材過程がそのまま物語になるという、よくできたドキュメンタリー映画のような構成のノンフィクションです。

本当にこれは面白かった。
角幡さんはノンフィクション作家として一段上に行ったな、という気がしました。
角幡さんは書いてる本のクオリティの高さに比してなぜかまだそこまでの知名度が出てませんが、時間の問題でこれから必ず有名になりますので、いまのうちにチェックしてほしいです。

でもうっかりすると角幡さんは「クレイジージャーニー」に呼ばれてそっちで有名になってしまいそうな気もするんだよな…。高野さんも出ちゃったし。
チベット奥地のツアンポー峡谷に行った話をテレビでしてほしいです。

 

■小説部門

 

○角田光代「坂の途中の家」(朝日新聞出版)

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もう角田さんの小説がいかに素晴らしいかを書くのはイチローがどれだけ野球選手として素晴らしいかというのを説明するぐらい、当たり前すぎて逆に難しいんですけどこの「坂の途中の家」は本当っにやばかったです。
やばかった、というしかない。
グサッとしました。

ストーリーとしては小さな子供がいる主人公の女性が虐待事件の裁判員裁判に選ばれ、渋々関わっているうちに事件の話が少しずつ自分の内面を掻き乱していく…という小説なのですが…電車ベビーカー問題とか、結婚/未婚、子供のいる/いないにまつわるどうにもならない断絶、SNSでのリア充投稿とそれにイラッとする気持ち、そういった男女、夫婦、家族といった人間関係にまつわる問題の根っこみたいなものがすべて書かれてます。

多くの人に読んでもらいたい小説です。

 

■実用書部門

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今年の実用書業界はとにかく「どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法」(サンマーク出版 )、通称「開脚本」の独走でしたね。
100万部いったとか。
おめでとうございます。

この本、中見てないとよく勘違いされやすいんですけど、開脚のやり方がただ載ってるガイド本じゃないですからね。
もちろんそういうページもあるんですけど、大半を占めてるのは「開脚もできないやつが何かを成せると思うな」という小説ですからね。
40歳の商社課長と32歳同僚女性社員、それに45歳部長さんの3人による『開脚できて人生変わった』物語が本の中心です。

構成としては「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」みたいな本なんですよ。
そのへんがあまり認知されておらず「え、こんな本なの?」みたいなことが起きているないような気がいたします。

 

あとは「金スマ」でとりあげられたのをきっかけに2016年終盤にかけて怒涛の勢いで盛り上がった「やせるおかず 作りおき」(小学館)だと思いますが、実はこの何年かずっと「常備菜」(主婦と生活社)とか「つくおき」(光文社)が売れてたり、ちょっとした作り置き料理ブームなんですよね。
そういう流れが来ているんだなあと思います。

そして私の大好きな健康書本界隈でいうと、今年は「レモン酢」ですかね。
知ってますか?
レモン酢。
その名のとおり、レモンの酢漬けを食べると健康によくなるそうです。

○「レモン酢でやせる!病気が治る!」(マキノ出版)

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あれ、去年「酢たまねぎ」ってのが流行ってなかった?…と記憶力の良いそこのあなたへ。

大丈夫です。なんなら「酢キャベツ」ってのもありましたから。

○「ドカンとやせる!酢キャベツダイエット」

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もうなんでも酢に漬けたらいいんじゃないかな。

 

■児童書部門

2016年の児童書トピックスとしてはまず

☆ヨシタケシンスケ大ブレイク

ですね。

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ヨシタケシンスケさんといえばもともと知られた存在の絵本作家ではありましたが、そのヨシタケさんがいかに今ブレイクしているかを説明するには絵本雑誌「MOE」が選定している「MOE絵本屋さん大賞」という絵本界の一番すぐれた本を決めるアワードを取り上げましょう。

この「MOE絵本屋さん大賞」はその年に出た絵本の中から「全国の1900人の絵本専門店・書店の児童書売り場担当者にアンケートを実施、その年に最も支持された絵本30冊を決定」というアワードなのですが、今年2016年の(第9回)第一位はヨシタケさんの『もうぬげない』(ブロンズ新社)でした。
そして第二位は同じくヨシタケさんの『このあとどうしちゃおう』(PHP研究所)です。

去年の「第8回MOE絵本屋さん大賞」はヨシタケさんの『りゆうがあります』(PHP研究所)でした。
3年前の第6回MOE絵本屋さん大賞第1位はヨシタケさんの『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)です。

過去4年のうち3回を一人で制覇という、将棋の渡辺竜王か白鵬かイチローか、というような圧倒的な強さを見せてるのがヨシタケさんなのです。

ヨシタケさんの絵本は独特のおかしみのあるイラストで、哲学的なテーマや発想の転換が描かれるのが特長です。
『もうぬげない』はお母さんに「お風呂に入りなさい!」と言われて仕方なくお風呂に行こうとしたらシャツが脱げなくなった少年の話ですが、「もしもこのままシャツが脱げなくなったらどうやって生きていこう」とか「もしかしたら世界には僕と同じようにシャツが脱げなくなった子がいるんじゃないか」とか壮大なことを考える、楽しいお話です。
ヨシタケさんの絵本は大人が読んでも面白いです。

そしてもう一つが、

読むだけで子どもがすぐ眠くなるという絵本「おやすみ、ロジャー」(飛鳥新社)大ヒット

ですね。

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これたしかに子どもも眠くなると思うんですが、読む方も眠くなるんですがどうなんでしょうか…。

そんな2016年の児童書でわたしのイチオシはこの本です。

○「いしゃがよい」(福音館書店)

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山で迷子のパンダを見つけたエンさんは、ファンファンと名付けて育てます。
ファンファンは体が弱く、エンさんはファンファンを自転車に乗せてひと山越え、ふた山越えて医者通いする…というお話なんですが。

これねー!泣けると同時にめっちゃ現代的なテーマを内包してるんですよ(笑)
あんまり言うとネタバレになるのでこのへんにしますが。
「いい話だね」で終わらない絵本です。
なんだったら「現代社会」の棚に並べたいくらいの内容です。

 

 

■雑誌部門

今年の雑誌はもうこれしかないんじゃないでしょうか。

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○週刊文春

いやもう、想像してみてください。「週刊文春」のない世界を。

きっと今でもベッキーはCMにも「世界の果てまでイッテQ!」にも出てたし、紅白歌合戦にゲスの極み乙女は出ていただろうし、東京都知事はまだ舛添要一さんだったかもしれないし、選挙になったとして当初は支持率高かった鳥越俊太郎さんが今頃都知事になってたかもしれないわけだし、日本レコード大賞は何事もなかったように…このへんにしましょう。

でも真面目な話、週刊誌メディアというのが世の中になかったら官製情報というか、「大きい組織からの公式発表」 だけで世界が動いていく、そんな怖さがあります。
ネットは「市民発SNS炎上」的な市民生活の中から社会問題を告発する分野は得意だけど、大きな組織の出てこない情報を取ってくるというのは極めて難しいメディアです。

本来なら朝日新聞とかがやってほしいなと思いながら新聞もそういうスクープ報道にはすっかり元気がなくなってしまい、やってるのが週刊誌(=出版社)くらいしかない、ってのが何より問題なんだろうなと思います。

今やってる「ユニクロ潜入記」とかすごいですよね。横田さん解雇されちゃいましたけど(そらそうでしょうね)。あんなのどこもやれないです。
2ちゃんねるでの「ユニクロで働いてるけど質問ある?」と違って掲載責任を取って出してるわけです。

そもそも載せた内容をユニクロ広報部にぶつけて「この内容は本当ですか?どうお考えですか?」と毎週聞いてるんです(そして毎週「お答えすることはありません」とユニクロ広報部が答えるのが定番化してます)

数年前、週刊誌の売り上げはどんどん落ち込んでいって「週刊誌はもうダメなのかな…」と思ったことがあったのですが、ここに来て回復傾向にある。(週刊現代なども回復してます)

何より、今や女子高生がみんな「週刊文春」を知ってる、記事によっては読んでいるというのは、5年くらい前の状態を思えば奇跡のようなことです。
そういう意味もこめて「週刊文春」に一票。

 

■映画部門

☆「孤高の遠吠」

「静岡県富士宮市の名物は焼きそばじゃなくて喧嘩」と言う小林勇貴監督が地元の不良たちに実際にあった出来事(揉め事)を取材し、それを軸に書いたストーリーを富士宮の本物の不良たちに演じさせて撮影した青春群像映画。
これ今年見た映画で一番インパクトありました。
衝撃度で言うと「ゆきゆきて神軍」を最初に見たときと同じくらいに。
いちおう「フィクション」なんですけど、出ている人は「本職」だし、エピソードの数々は実際に聞いた話を再現したということで異様にリアリティのある暴力の恐怖が伝わってきます。

これ私新宿のK's cinemaで見たんですけど、隣の隣に座ってた男性4人組のグループが上映中に何度も席を立つ、上映中にスマホを見て光らす、上映中にお仲間の方と談笑される、あまり柄のおよろしくない方々だったのですが、映画とリンクしてとても注意できる気分になれなかったことも印象深いです。

DVDは一般販売されてませんが、TSUTAYAではレンタルしているらしいです。
尊野蛮!!!

 

■音楽部門

☆never young beach - 明るい未来

最初に聴いたときから「あああ…」って感覚があったんですよね。
昔っぽいですよね。昭和フォーク的な。どこかで「はっぴいえんどの再来」と書かれてましたが、ああなるほどと思いました。
こういうどこか物悲しさを感じさせる曲が私は好きです。

 

■プロ野球部門

毎年このアワードでは、その年のプロ野球での一番印象的な場面を書いてるんですが、2016年のプロ野球はこの場面ではないでしょうか。

マンガ「大谷翔平物語」があったら、これ第一部のクライマックスじゃないでしょうか。
実況アナウンサーが「164キロ!自己最速!」のあと、「165キロ!!」で札幌ドームが異様などよめきになったあたりで私は「こんなん…あるのか…」という気持ちでいっぱいでした。
子どものころからプロ野球をずっと見てきましたが、プロ野球にはこんな人が出てきたんだ…!という驚きと呆れみたいなのが混ざって、その結果ただ「すげえ…」とだけしか言えない、茫然自失とした感覚でした。

プロ野球の歴史に残る場面だったと思います。

 

■最後に

最近出たコミックから一つ。

○「人間仮免中つづき」卯月妙子(小学館)

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壮絶すぎる半生と闘病記を描いた「人間仮免中」。
2012年の伊野尾アワードはこの本を「伊野尾が選ぶ最高の本」にしました。
http://inoo.cocolog-nifty.com/news/2012/12/index.html

今作はこの「人間仮免中」の続編です。

まず卯月さんが続編が書けるコンディションにあったんだ、というのに驚きます。
読んでみると「よくこんな状態で書いたな…」と違う意味でさらに驚く。
前より病状が悪化しながら、それでも書くという物書きの魂に震えます。

そしてそんな状態の悪い卯月さんを25歳年上の恋人・ボビーが必死に護る。
二人はたびたび些細なことで喧嘩しながら、互いを必要として面倒のある生活を受け入れる。
苛烈な生活のそこかしこに「…愛だ」と思わずにいられないエピソードが多々描かれます。
ある理由で下剤を飲んだ卯月さんがボビーが入浴中のユニットバスにかけこんだときのボビーのかける言葉の温かみは、過去読んだことのないものでした。

前作が「病気になった!」話ならこちらは「病気になった」後の話で、作品を貫くニュアンスは少しだけ変わってますが「人間とは何か」というテーマは変わってません。
これからの人生で繰り返し読みたいと思います。

…長くなったなあ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

2016年はいろいろありました。
2016年も、いろいろあったというべきでしょうか。
一年あるといろんなことが起きました。

長く勤めてくれたスタッフさんとお別れしたり、新しいスタッフさんが来てまた一から教えたり、「一週間前にここで買った旅行ガイドに載ってる情報が現地にいったら違ってた、それで損害を受けた、だから返金しろ」という要望を断ったところから警察を呼ぶような事態が起きたり、税務調査が入ったり(笑)。

いい話もありました。
三田佐代子さんのイベントを店でやったり、鈴木健さんのDDT講座を開いたり(次回は来年1/29開催です)、NumberWebで書評を書く仕事いただいたり、今年も「中井文庫」にいろんな人が参加してくださったり。
いろんな作家さんが来店してくださってサイン本作ってくれたり。
楽しい、っていうよりありがたいなあ、って話が多々ありました。

悲しい別れも多くあったり。

「閉店のおしらせ」から始まる同業者の寂しい知らせも多く届いたり。
僕がこの仕事を始めたとき、「すげーなあー」って見上げていた本屋が閉めたりやめていってて。
何年か前までそこに本屋があったのに今はもう無い、という場所を通りがかって「まさかここが閉まって自分ところが残ってるとは思わなかったな…」と考えたことが今年何回かありました。
毎回書いてますが、「バトル・ロワイヤル」に生き残ってる気分です。
って「バトル・ロワイヤル」ももう若い人には通じなくなってきてるんだろうなあ。

年々お客様が来てくれるのはありがたいことだなと感じるようになってます。
同じぐらい店で働いてくれてるスタッフの人たちはありがたいなあ、って。
本当にいろんな人の支えがあって商売できてるんだな、って思います。
…なんか「お客様は有り難い」とかそういう格言書いてトイレに貼る居酒屋とかラーメン屋の店主の気持ちがわかるようになりました。

2017年もがんばります。

ここを読んでくださってるみなさまがずっと元気でありますように。

(H)

December 18, 2016

「鈴木健.txtのDDT20年史ドラマティック講座 第三回」開催のおしらせ

こちらに書くのは直前になってしまいましたが、12/25(日) 16:00~「鈴木健.txtのDDT20年史ドラマティック講座 第三回」を開催いたします。

詳しい内容・講座へのお申し込みはこちらのページをご参照ください。
http://kokucheese.com/event/index/440508/

なお、第四回の講座は2017年1月29日(日)16:00~の開催です。

「鈴木健.txtのDDT20年史ドラマティック講座」についてはTwitterの告知が早いので、ときどきご覧いただけると幸いです。
https://twitter.com/inooshoten

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