« January 2016 | Main | March 2016 »

February 2016

February 16, 2016

不倫は社会問題である

本屋の新書棚には常に時代に即した本が一冊は並んでいます。

というわけで今回ご紹介するのはこの本。

○「はじめての不倫学 「社会問題」として考える」坂爪真吾/著(光文社新書)

Photo

著者の坂爪さんは身体障害者の方の性問題の解決・普及活動や、社会の中の「性」の問題の解決に取り組む非営利組織・ホワイトハンズの代表を務められてる方です。

「プロローグ」には「おお…」という言葉が並びます。

゛既婚の男女が不倫の誘惑に抗うためにはどうすればいいか”

゛法律的リスクを説くだけ、道徳論を説くだけ、夫婦関係の再構築や夫婦間の話し合いを推奨するだけでは不倫の問題は解決できない”

゛人間の下半身の問題=セクシャリティの問題は「規制するだけ」「非難するだけ」「きれいごとを言うだけ」「厳罰化するだけ」では何も解決しない”

そしてこう説きます。

゛不倫は、予期せぬ交通事故やインフルエンザのように、夫婦間の愛情や信頼の有無、多寡に関係なく、誰にでも突然起こる可能性がある゛

゛本書では、不倫をインフルエンザのような「感染症」として考えていく。
感染症に感染することは、基本的に防げない。
感染した人にバッシングを浴びせることにもまた、意味はない。
「20世紀最高の経営者」と呼ばれたGEのジャック・ウェルチも、クリントン元アメリカ大統領も、不倫だけはマネージメントできなかった。
世界最高の経営者や権力者でさえコントロールできない領域を、我々凡人がコントロールできるはずがない”

゛重要なのは、「いつどこで感染しやすいのか」、「感染する確率を減らすためにはどうすればいいのか」、「もし感染してしまった場合、どうすれば本人の重症化、および周囲への被害拡大」を最小限に食い止められるか」に関する処方箋だ”

坂爪さんは一貫して不倫を「不届きな個人」が起こす問題ではなく、「誰もが感染する可能性を持っていて、感染して被害が拡大すると社会的リソースが失われる行為」と定義づけています。

「子供や若者世代の貧困、ひとり親家庭や生活保護など、現代社会で問題になっているトピックの背景には多くの場合離婚による家庭破綻やそれにともなう経済状況、心身の健康状態の悪化が潜んでいる」として、不倫から起こる離婚、家庭崩壊が社会に重大な毀損を与えている、という考えです。

この本のポイントは坂爪さんが「ワクチン」と呼ぶ不倫の対処方法で、その内容は広く世に出れば波紋を呼びそうな提言がいくつか見られます。

坂爪さん自身が自覚的ですが、男性目線で主張している部分はあるし、昨今の「道徳自警団」的ネット発言者の人たちからは突っ込まれる危うさを秘めた指摘も散見されます。

それでもこの本は「じゃあどうしたらいいのか?」というところにかなり正面から切り込んで回答を得ようとした本です。

後出しや突っ込みは誰だってできる。

でも自分の名前を出して火中の栗はなかなか拾いにはいけないです。

いま、世の中全体で十字架に張り付けて「いーけないんだーいけないだー」と石を投げているところで、ほとんど誰も「なんでこんなことになってるんだろう」という問いを発しない世界で、ひっそりと本屋の片隅には「こういう考え方もあります」というようなことを書いた本が並んでいることを、いろんな人に知ってほしいです。

そしてこの本を読んだら、ぜひ次は宮本常一「忘れられた日本人」 (岩波文庫) を読んでほしいなと思います。

理由は、読めばわかると思います。

もしわからなかったら伊野尾書店まで来てくれれば店主がお答えします。

(H)

February 06, 2016

人生の逆転満塁ホームランを願って

「楽曲を作れなかった」
そう言って覚醒剤使用の経緯を語ったのは槇原敬之だったか。岡村靖幸だったか。別の人か。少なくともASKAではない。
ASKAの理由は睡眠導入剤の過剰摂取と、それに伴う激しい倦怠感から抜け出したくて手を出した、って話が裁判記録で出てくる。

想像してみる。
音楽を作る。ちょっと売れる。一生懸命また作る。もっと売れる。知名度が飛躍的に上がる。ファンも増える。コンサートが激増する。
そこまではいい。でもそのあとも音楽は作らなければならない。作り続けなければならない。
「もっといい曲を」「もっと売れる曲を」という事務所やファンの要望を感じながら。
でも、そんなにポンポン素晴らしい曲は出てこない。それでも作る。今度はあまり売れない。「前の方がよかったね」そう言ってるファンの声が聞こえてくる。
事務所は「もっと違った曲を作ろう」と言ってくる。
その声の後ろには「もっといい曲を作れ」という声が透けて見える。

音楽活動をやめない限りずっと襲ってくるその苦しみを、自分は想像できない。

清原はいつから薬物を使用していたんだろう。

週刊誌が報道しだしたのは2014年の春ごろのことだ。
周辺の人間が漏らして記事になることを考えれば、使用を始めたのはそれよりも前ということになる。

そのときの苦しさがどのようなものだったか、わからない。
でも想像してみる。

18歳、高校野球の世界で伝説を作り、一高校生にして日本中に名を知られるようになった男はプロ入りすると輝かしい成績を残し、瞬く間に野球界のスーパースターになった。
20代前半にして清原の人生は輝かしいものが集まっていた。

けれど、そこからの清原の人生は喜びよりも苦しみの方が多かったに違いない。

スターになったものの、彼はチームに評価をされたとは言い難かった。
幼い頃からの憧れのジャイアンツに移籍する彼を待っていたのはバッシングと身体の故障。

成績が上がらない。バッシングされる。なお奮起して成績を上げようとする。しかし身体が耐え切れず故障する。故障した身体ではさらに成績が落ちる。またバッシングされる。

動かない身体と、伴わない評価と、自身の望む姿と現実とのギャップと。
そして引退。

今回の清原に限らず、つくづく思うのだが引退したスター選手の心の穴は何かで埋まることはあるのだろうか。

会う人のほとんどが「昔ファンでした」「昔好きでした」「昔かっこよかった」と言ってくる。

笑いながら握手しながら、「じゃあ今の俺はどうなんだよ」と思ってしまうのではないだろうか。
これは元アイドルとかもそうだろうけど。

二十歳前後でその世界の頂点を見てしまった人が徐々に山から下ってきて振り返ったときに「あそこには戻れないんだな」と考える絶望感を俺は想像できない。

もちろん、その空白を埋めるために努力している元スターのスポーツ選手がいることも、違うことで心の穴を埋められた人もいるのだろうけど、そうできない人がいても仕方ないと思ってる。

薬物が法令で禁止されてるのは依存すると抜け出すのが難しいということと、幻覚症状が現れたりすることの周囲への影響や、社会秩序安定とかいろいろ理由があるのだろう。
それはわかる。良くないことはわかる。

でもその向こうにあるものを知らずに人格を否定したくない。

ガラスを割ったのは悪いことだ。
ガラス代は弁償しなくてはいけないだろう。
けど「なんで割りたくなったのか」という理由を教えてもらえないだろうか。

昨年秋から始めた清原のブログは沈んだ重い話が多く出てくる。
離婚、なかなか会えない息子たち、認知症の母親。仕事があまりないことも類推される内容。

清原が自分の言葉で苦しみを語る日を静かに待ちたい。
それを静かに聞いて、「憧れ」というファンタジーの世界ではない、現実に生きる元スーパースターの男を見ていたい。

もう過去のことはいいよ、ともし本人が見たら言われてしまうだろうけど、こちらには過去にしか記憶がないのだから許してほしい。

清原のホームランで一番印象に残ってるのは1988年日本シリーズ第1戦の第一打席で中日の小野和幸からナゴヤ球場の外まで飛ばした場外ホームランで。

リアルタイムで見てて「すげえーっ!!」となったのは当然なんだけど、清原のコメントが忘れられない。

「近鉄の分まで負けられなかったから」

近鉄バファローズが「10.19」と呼ばれたロッテとのダブルヘッダーで優勝まであと一歩及ばなかったのはこの数日前のことだ。

誰かのために生きた時、人の生きざまは美しさを増す。

「読む野球-9回勝負-」(主婦の友社)の最新号、No.10「日本シリーズ特集」の巻頭で清原は自身が終了直前に一塁塁上で涙した1987年日本シリーズのときのことをひと通り語り、最後にこういう言葉で締めている。

「イチローの言葉ですごく印象的だったのが、『僕、大嫌いって言われたら結構嬉しいんです。大嫌い、っていう奴ほど僕のこと見てるんですよ。イチロー?なんとも思わへん、っていうのが一番怖いんですよ』という言葉で。
それ聞いてなるほどと思いましたよ。
それからは週刊誌に悪いこと書かれても、オレもまだ腐っても鯛だなって思ってね(笑)
そういう記事が出たらオレもまだいけるなって(笑)」

清原はどこかで今回の自身に関する報道を見ただろうか。
これで終わり…じゃないよね。
10年後、20年後に、今回のことがあなたの人生を変える区切りになることを、ただずっと願っている。

10

« January 2016 | Main | March 2016 »