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October 2015

October 20, 2015

僕の生まれた町は、町というのもおこがましいほど小さな村で/こざわたまこ「負け逃げ」

“僕の生まれた町は、町というのもおこがましいほど小さな村で(実際、そこに住む人々はみんな、僕を含めこの町を「村」と呼んでいた)、澄んだ空気とおいしい水だけが取り柄のつまらない土地だった。”

“地方の国道沿いには、往々にしてラブホテルが多い。見も蓋もない言い方をするなら、他にやることがないのだ。
田舎は結婚が早いというのも似たような道理で、娯楽がなければ人の欲望は画一化され、そのはけ口は結局、体一つで満たせる行為に絞られていくのではないか。”

“僕はいつかこの村を出るだろう。そして知らない町で大人になり、野口や、この村の色々なことや、悪魔の声や、この夜を忘れて、あるいは時々思い出したりして、恋人を作り、その子とセックスに勤しんだりするのだろう。”

(こざわたまこ「負け逃げ」第一章「僕の災い」より)

僕の町にはかつて一軒だけ「夕鶴」という古びたラブホテルがあった。
4階か5階建てくらいの建物の屋上に青色のネオン管が輝く看板があり、大きな通り沿いに面しているのに入り口は通りの裏にあった。
当時の面影を思い返すと「ラブホテル」という名前より「連れ込み宿」という名称の方がしっくりくる。

子供の頃にあそこは何なのかと親に聞いたところ「お泊まりするところ」と言われ、それで長らく納得していた。
そこに「お泊まり」以上の存在理由があることを知ったのは小学校高学年になってからだ。
それまで単なる町の風景に過ぎなかった建物が、途端にまがまがしく見てはいけないもののように思えてきた。
前を通るときはなるべく建物の方を見ないようにして歩いた。
しかし同時に「ここは誰が使うのだろう」という興味が頭をもたげてきた。
町の人だろうか。
車でどこかから来る人だろうか。
もちろん親に聞くわけにはいかない。
父が車でどこかに連れていってくれる時はだいたい帰りに「夕鶴」の前を通るが、どうしても入口を見てしまう。
けど建物に入ろうとする人の陰を見ることはついぞなかった。

私が中学生の頃、「夕鶴」はひっそりと廃業して、跡地はマンションになった。
あそこは誰が使っていたんだろうと気になっていたことは、ついぞわからぬままになった。
ただ、町で唯一のラブホテルがなくなったことに、大人たちはどこかホッとしているような空気があった気がする。
町には子供も多かったし、あって好ましいものでもなかったのだろう。

こざわたまこ「負け逃げ」(新潮社)は、国道沿いのスーパー、ファミレス、そしてラブホテルをのぞけば何もないという地方都市を舞台に、そこで暮らす複数の高校生とその周りの大人たちの『それぞれの話』を描いた連作短編集だ。

読後に沸いたこの感覚をなんといっていいか、うまく言葉が出てこない。
端的に言うとすごくよかったのだけど、「よかった」だけですませてしまうと何かこぼれ落ちている気がする、そんな感覚。

足に障害を持った少女は郊外のすすけたラブホテルで違う男と身体を重ねている。

教室で誰からも話しかけられない少年は深夜3時に国道を自転車で爆走する。

クラスで誰とも話せない少女はマンガの世界に没頭する。

「あの子たちとは」仲良くなれないとわかっていながらグループに留まる少女がいる。

年老いた両親と暮らす独身の中年男性教師。

誰も彼もすすけてる毎日の中に人生を抱えてる。
そしてそこから少しずつ抜け出そうともがいてる。
村という狭い共同体の中で、右手に爆発しそうな火種を抱え、左手でその火種を必死に消すようなせつなさが誰からもにじみ出ている。
最終章、 「先生は、どうしてこの村に戻ってきたんですか」のところで胸が詰まった。

人が生きるのは小さな毎日で、毎日の中の小さな変化が積み重なって、やがてその人の人生を大きく変えていく。
けどそれは変わっているように自分が思っているだけで、実のところさほど変わってないのかもしれない。

私たちは目の前のものしか見えない。
目の前のものであっても見えてないことも多い。
町のはずれにある古びたラブホテルを誰が使っているかはわからない。

けれど小説は目の前のものどころか、神の目線で人々全体を見ることができる。
同じ町の中で生きている人間がそれぞれに物語を抱えていることを知ることができる。
そして読み終わると、また自分が生きている世界に戻っていく。
戻りながら、私たち一人一人は意外と物語のような人生を日々生きているんじゃないか、と考えたりもする。

そんなことが感じられる作品でした。いろんな人に読んでほしいです。

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October 13, 2015

宣伝

○本の話WEBの連載「週末の旅は本屋さん」で取り上げてもらいました。

店は舞台、店はリング 飽きさせない店づくり 伊野尾書店
http://hon.bunshun.jp/articles/-/4138

よりによって取材当日が台風で(笑)、店のシャッターは少し閉まってるし、お客さんはいないし、店主はレインメーカーポーズしてるし、だいぶワケがわからない状態ですが、ちゃんとした紹介記事になってます。ありがたいことです。

○ちょっと前になりますが「ダ・ヴィンチニュース」さんが中井文庫のことを紹介してくださいました。

蕎麦屋店主からプロレスラーなど、ユニークな参加者23名のオススメ本!ブックフェア「中井文庫2015」
http://ddnavi.com/news/257441/

 

☆おまけ

これは伊野尾書店とあんまり関係ないのですが、なぜか一部店主の話が出てきます…。

「飯伏幸太に憧れながら、大家健にも…」ガンバレ☆プロレスが熱狂的に愛されるワケ
http://joshi-spa.jp/322064

中井文庫2015途中経過

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9/1からスタートした「中井文庫2015」ですが、おかげさまで好評いただいております。
遠くからこのフェアを見に来てくださる方もいて、ありがたい限りです。

気がつけば10月も半ばですので、ここで全23作品の中で売れ行き上位作品をご案内したいと思います。

1、清野茂樹さん(アナウンサー)推薦  「ときめかない日記」能町みね子(幻冬舎文庫)

2、梶原直子さん(中井駅前歯科)推薦   「孤独か、それに等しいもの」大崎善生(角川文庫)

3、伊野尾宏之(伊野尾書店店長)推薦  「晴天の迷いクジラ」窪美澄(新潮文庫)

4、直井翔太郎さん (双葉社営業部)推薦 「みなさん、さようなら」久保寺健彦(幻冬舎文庫)

4、脇本 久さん(手打蕎麦「又八郎」店主)推薦  「用心棒日月抄」藤沢周平(新潮文庫)

4、羽山 將太さん(信用金庫職員)推薦 「かばん屋の相続」池井戸潤(文春文庫)

4、河合良文(目白大学メディア表現学科教授) 谷崎潤一郎「陰翳礼讃」(角川文庫)

4、鈴木 (伊野尾書店従業員)推薦  「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」万城目学
(角川文庫)"

 

清野さん推薦の「ときめかない日記」が1位です。
中身がコミックで読みやすいというのはありますけど、これが一番売れるというのはちょっと意外でした。
能町さんの本と清野さんのコメントが相乗効果で”面白そうな匂い”を出してるのだと思いますが、本当になにが売れるかは並べてみないとわからないものです。

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上位作品を眺めると小説が多いかな…と一瞬思いましたが、全体をよく見ると今年のノミネート作品はだいたい小説でした。

昨年の上位作品は

1、「ゲイルズバーグの春を愛す」(早川文庫)
 栗田出版販売・古橋さん推薦

2、「ユーラシア大陸思索行」色川大吉  目白大学・多田先生推薦

3、「腰痛放浪記 椅子がこわい」 夏樹静子(新潮文庫)
 中井鍼灸院・小島さん推薦

4、『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるかデラックス』
北尾トロ  扶桑社・梶原さん推薦

5、「ちびちびごくごくお酒のはなし」伊藤まさこ(PHP文庫)  新潮社・西さん推薦

と日本の小説が一つも入ってなかったので、やるたびに違うもんだなあと思います。

池井戸潤「かばん屋の相続」は先日まで放送されていたテレビドラマ「花咲舞が黙ってない」の原作にもなっていたのですけど、その放映時よりこのフェアの方が売れているというのはうれしいですね。
「かばん屋の相続」は私も昔読みましたが、感動させる部分とヒリヒリさせる部分の配合が絶妙で、これは名作だと思いました。

「中井文庫2015」、まだまだ今月いっぱい展開しておりますので、ぜひ手にとってご覧ください。

(H)

October 06, 2015

雑貨も置いてます

本屋に置く雑貨で何かいいものはないか探してみた末に、「もうこれしかないだろう」というものが見つかったので仕入れました。

 

ということで広辞苑トートバッグです。
広辞苑がばっちり入るのでどこにでも携帯できます。
ゼクシイも楽々入ります。

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※10/6 18:00現在 残り1つになりました

 

岩波文庫のカバーをそのままデザインしたリブレポーチ。

化粧品などを入れるポーチとして使う以外に、ちょっとモコモコしますが文庫本のカバーにもなります(しおり紐付き)

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岩波文庫ミニノート。

岩波文庫を印刷している印刷所で、岩波文庫と同じ紙、同じ印刷技術、同じ製本を用いた無地のミニノートです。

「夏目漱石」「福沢諭吉」の二種類があります。

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ここに紹介した雑貨はすべてHeming's(ヘミングス)という雑貨ブランドから仕入れています。
よろしければこちらもご覧ください。

http://www.hemings.co.jp/

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