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June 05, 2015

行こうぜ、論文の向こう側~  「ヘンな論文」サンキュータツオ/著 (KADOKAWA)

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「ヘンな論文」サンキュータツオ/著 (KADOKAWA)

お笑い芸人でありながら大学の非常勤講師でもあるサンキュータツオさんの新刊。
タツオさんは大学に14年通ったそうで(学部5年、修士3年、博士6年!)、その研究過程でいろんな論文を読んでると中には本来の研究目的の論文以外に「何この論文?」というのをたまに見つけて、そういう論文を好んで読んでるうちに変な論文を集める「珍論文コレクター」になり、ラジオ番組で紹介したりしていたそうです。

ということでこの本には

「あくびはなぜうつるのか」
「女子高が共学に変わると女子生徒の外見はどう変わるのか」
「オリックスと近鉄が合併した新球団はどのようなファン層なのか」
「走行中の女性の胸の揺れとブラジャーのずれについて」

とか、よくこんな研究している人がいるな…というような論文13本のだいたいの研究結果とその解説(というよりツッコミ)が寄せられております。

その中でも一番目を引いたのは
「公園の斜面に座るカップルの研究観察」という論文です。
この論文は対人研究をしている東京都市大学の小林茂雄先生が「建築物における快適な空間を構築するために他者との距離がどれくらいのものならよいのか」という研究をしていて、その過程で研究したそうですがたぶん後付けで単純に公園のカップルが気になったのではないかと予測します。

研究はカップルが多いという横浜港大さん橋国際客船ターミナルで夕方五時から夜10時半までの5時間半を4日間にわたって行われ、「どれくらい滞在していたか」「どんな姿勢だったか」「どれくらい密着していたか」という三項目を調べたそうです。
ちなみに一番気になる最後の密着度に関しては「離れている」「寄り添う」「手をつなぐ」「肩や腰に手を回す」「抱き合う」の五項目があります。すごいですね。何かの進化の指標のようです。

その結果、

・カップルの多くは5メートル以内に他人が近づくと滞在時間が短くなり、3メートル以内に他人が近づくとつないでいた手をはなすことが多い
・左右の距離よりも前後、特に後ろに他人が近づくことを警戒するカップルが多い
・夜になると距離を気にしないカップルが増える傾向にある
・他人との距離が空きすぎることを嫌うカップルもいる

という、聞くと「ああ…」と納得できる結果が出たそうです。
四番目の「他人との距離が空きすぎることを嫌うカップル」については「付き合い始めのカップルだろうか」というタツオさんの解釈が添えられています。

そんな感じで面白い研究だなと思ったのですが…ここまで読んで気になったことはないでしょうか。

そう、この膨大なカップル観察(4日間で合計352組、計704人!)の観察をこの人はどうやってしたのか、まさか一人でしたのか?と。
それについてもちゃんとタツオさんが突っ込んでくれてます。

この調査は小林教授のゼミ学生が担当したそうなのですが、公園に集まるカップルの観察をするために、ゼミ学生の男女一組ずつを「調査するための疑似カップル」として派遣したそうです。
すごい!完全にラブコメ漫画の世界だ!

そして案の定というか、そうして派遣させたゼミ生同志の疑似カップルから本物のカップルができたそうで、研究結果よりそっちの方がなんかすごいと思いました。
論文には論文そのもの以外に「そこに書いてないことを推測する」という”行間を読む”ようなことが求められるそうなのですが、どの論文にもきっとそれができる背景にドラマが満ちているんだなというのがよくわかります。

研究というのは大きく分けて「人の研究」と「物の研究」に別れるそうで、どちらも重要なんだと思いますが面白いのはやっぱり「人の研究」なんだろうなと思いました。
でもこの本に出てくる「物の研究」系の論文として「湯たんぽ異聞」という湯たんぽの歴史や使われ方などについて調べた論文が載ってるのですがそれもたいそう面白く、要は着眼点なんだなと思い知らされます。

すごい世界をのぞける本です。

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