« May 2015 | Main | July 2015 »

June 2015

June 27, 2015

Show must go on

○栗田出版販売が再生法申請

http://www.sankei.com/economy/news/150626/ecn1506260066-n1.html

伊野尾書店のメイン帳合の栗田出版販売が民事再生法の適用を東京地裁に申請しました。

大変に驚きましたが、こればっかりはこちらでどうにかできることがないし、今の時点で何か言ってもしょうがないので、情勢を見守りたいです。

とりあえず本買いに来るお客さんに支障が出ないことを祈りたいです。

 

○感想

「絶歌」を読みました。

ある人が「出す意義がない」とおっしゃってましたが、私にはそうは思えませんでした。

「読もうと思わない、読みたくもない」という意見はわかります。
内容についてよく見かける「村上春樹もどきの文体で自己陶酔」というのも、その人の評価でいいと思います。

ただ、史上ない犯罪をおかした人による思考の記録は、こういう機会でもないと一生目にすることはありません。
その意味で、他にない手記だったと思います。

「犯罪」と「更生」の意味を非常に考えさせる内容でした。

著者の元少年A(非常に奇妙な呼び方ですが仕方ないので以下Aで統一します)があのような事件を起こし医療少年院に入り、そこからいろんな人間と医療手段によって矯正をさせられていく様が克明に描かれます。
「この人の人格矯正には、国がすごいお金と手間をかけたんだな」というのがよくわかります。
Aの家族の対応もあって、次第に彼が自分の犯罪を見つめるようになり、自分が奪ったものを自覚していく場面が描かれます。

出所後のAには贖罪意識が常にあったように思います。
人付き合いを避け、享楽的なものを一切やらず、命日が近づくに連れ被害者遺族に書く手紙のことで頭をいっぱいにします。

けど、彼には「事件」しか人生にない。
「事件」を背負い、「事件」に引きずられ、「事件」しか測るものさしのない人生。

それがあれだけのことをした報いと言えばその通りなのですが、やはりどこかに「なんで生きているんだろう」というのが出てくるのは当然だと思います。

そこでつい考えてしまうのです。
これだけの社会的コストをかけて犯罪者を更生させる意味はなんなんだろうか、と。
加害者と被害者、双方にとっての救済とはありえるんだろうか、と。

非常に考えさせられました。

それとこの「絶歌」に出てくる話は加害者であるAの告白です。
事件に至る心理衝動の動きとかは非常に具体的でしたが、当然自分の口からは言わないことがたくさんあるのだと思います。
この本を読んだ上で、高山文彦の「地獄の季節」(新潮文庫)と、「少年A 矯正2500日全記録」草薙厚子 (文春文庫)をあわせて読んでみようと思いました。

と思ったら「地獄の季節」は品切れみたいで…。重版してくれないかな。

 


○7月から土曜日の閉店が21時になります

今まで20時だった土曜日の閉店時間を21時にします。

日曜・祝日については変わりません。

〈月~金〉 10:00~22:00
〈土〉   11:00~21:00
〈日・祝〉 11:00~20:00

となります。

よろしくお願いいたします。

○次こそは普通に面白い本の紹介に充てたいと思います。いくつか候補もありますし。

店頭は夏の文庫フェアが始まります。

6月下旬にはあの飯伏幸太選手の「日めくりゴールデンスター 飯伏幸太」も出ますし。

http://www.nihonbungeisha.co.jp/ibushi/

ただいまこの本…というより出版業界に点在する飯伏ファンを中心に、いろんな人から飯伏選手へ向けたメッセージが詰まったフリーペーパーを製作中です。乞うご期待。

Photo

June 13, 2015

「絶歌」について

本屋の商売というのは「お客さんが買いたい本を店に置く」ことでなりたっています。

本は出版社が作ります。
いろんな本があります。
小説もあれば料理の作り方の本もコミックも株の運用の本もエロ雑誌もみんな売り物です。

その中には「出すことで誰かが傷つく本」「誰かが嫌な気分になる本」というものが必ずあります。
ある事件、ある出来事について「真相はこうだった」と書く本は、そこに関係した人のうち必ず「書かれたことで困る人」がいると思います。
当たり前のように売っている週刊誌も、そこに記事を書かれたことで人生を変えられてしまう人が多分に出ているはずです。

今回の「絶歌」は書かれたことで傷つく人が明確に想像できる。
さらに、あれだけの犯罪者が本を出すことそのものへの嫌悪感がある。
そういったこともあって発売が決まったときから大騒ぎになり、発行元の太田出版がやり玉に挙げられています。

けど、太田出版が作った本を売って金儲けしているのは書店も同じです。
本の利益を分配しています。
遺族の方々からしたら広めてほしくないだろうことを広める手助けをしています。

遺族感情を無視した。
あんな事件を起こした犯人が印税を取るのはおかしい。
出版社は犯罪者で金儲けしたいのか。

そういった今あがってる声に対して、思うことは全部「そうですね」ということで。
否定できないです。
本当に、その通りなんだろうと思います。

そこに「すみません」という気持ちはあります。
ありますが、今後も私たちは売ってそれを商売にします。
それも本屋という仕事に含まれる業(ごう)のようなものだと思ってるからです。
道義的な問題はずっとあると思ってます。
本屋には子供に夢を与える絵本や、おいしいご飯を食べさせるための料理の本と一緒に、世の中のいる「誰か」を傷つける可能性のある本も売っている、ということは常に自覚してます。

私は個人的にこの本が読みたいです。
あんな二度とないような事件を起こした人間が、どうして生まれて、何を思っていたのか。
人間を知りたいです。
人間がどうしたらそういう風になったのか、何を語るのか、知りたいです。
もちろん「口先だけの言葉」とか、演出みたいなのは多かれ少なかれあると思います。
たぶん100%の本音ではないだろうし、100%虚構でもない。明確に切り分けできない形で混ざっている。
都合の悪い真実は伏せられ、自分に都合よくリードしていく部分もあるでしょう。
それを承知でこれから読みたいと思っています。

一介の本屋が語るには大きすぎる問題です。
ただ、いつもくだらないことを書いてるのに、これについて触れないのもおかしいと思い、思ってることを書きました。

※先月、窪美澄さんの新刊小説「さよなら、ニルヴァーナ」が発売になりました。
14歳のときに少女を殺した加害者「少年A」と、被害者の母、加害者を崇拝した少女、その運命の環の外にたつ女性作家、4人をめぐる物語です。

この小説は2013年に『別冊文藝春秋』で連載が始まり、昨年2014年に連載が終わっています。
今回の「絶歌」と発売がほぼ同時期になったのはまったくの偶然です。

窪さんは「絶歌」の発売日にこんなツイートをしています。

「現実は、ずっと、想像の上をいく」
https://twitter.com/misumikubo/status/608836003776692224

いろんな人にいろんな出来事が起きている。
本屋の店頭に立っていると、本当にそんなことを日々実感させられます。

Photo

June 05, 2015

行こうぜ、論文の向こう側~  「ヘンな論文」サンキュータツオ/著 (KADOKAWA)

Photo

「ヘンな論文」サンキュータツオ/著 (KADOKAWA)

お笑い芸人でありながら大学の非常勤講師でもあるサンキュータツオさんの新刊。
タツオさんは大学に14年通ったそうで(学部5年、修士3年、博士6年!)、その研究過程でいろんな論文を読んでると中には本来の研究目的の論文以外に「何この論文?」というのをたまに見つけて、そういう論文を好んで読んでるうちに変な論文を集める「珍論文コレクター」になり、ラジオ番組で紹介したりしていたそうです。

ということでこの本には

「あくびはなぜうつるのか」
「女子高が共学に変わると女子生徒の外見はどう変わるのか」
「オリックスと近鉄が合併した新球団はどのようなファン層なのか」
「走行中の女性の胸の揺れとブラジャーのずれについて」

とか、よくこんな研究している人がいるな…というような論文13本のだいたいの研究結果とその解説(というよりツッコミ)が寄せられております。

その中でも一番目を引いたのは
「公園の斜面に座るカップルの研究観察」という論文です。
この論文は対人研究をしている東京都市大学の小林茂雄先生が「建築物における快適な空間を構築するために他者との距離がどれくらいのものならよいのか」という研究をしていて、その過程で研究したそうですがたぶん後付けで単純に公園のカップルが気になったのではないかと予測します。

研究はカップルが多いという横浜港大さん橋国際客船ターミナルで夕方五時から夜10時半までの5時間半を4日間にわたって行われ、「どれくらい滞在していたか」「どんな姿勢だったか」「どれくらい密着していたか」という三項目を調べたそうです。
ちなみに一番気になる最後の密着度に関しては「離れている」「寄り添う」「手をつなぐ」「肩や腰に手を回す」「抱き合う」の五項目があります。すごいですね。何かの進化の指標のようです。

その結果、

・カップルの多くは5メートル以内に他人が近づくと滞在時間が短くなり、3メートル以内に他人が近づくとつないでいた手をはなすことが多い
・左右の距離よりも前後、特に後ろに他人が近づくことを警戒するカップルが多い
・夜になると距離を気にしないカップルが増える傾向にある
・他人との距離が空きすぎることを嫌うカップルもいる

という、聞くと「ああ…」と納得できる結果が出たそうです。
四番目の「他人との距離が空きすぎることを嫌うカップル」については「付き合い始めのカップルだろうか」というタツオさんの解釈が添えられています。

そんな感じで面白い研究だなと思ったのですが…ここまで読んで気になったことはないでしょうか。

そう、この膨大なカップル観察(4日間で合計352組、計704人!)の観察をこの人はどうやってしたのか、まさか一人でしたのか?と。
それについてもちゃんとタツオさんが突っ込んでくれてます。

この調査は小林教授のゼミ学生が担当したそうなのですが、公園に集まるカップルの観察をするために、ゼミ学生の男女一組ずつを「調査するための疑似カップル」として派遣したそうです。
すごい!完全にラブコメ漫画の世界だ!

そして案の定というか、そうして派遣させたゼミ生同志の疑似カップルから本物のカップルができたそうで、研究結果よりそっちの方がなんかすごいと思いました。
論文には論文そのもの以外に「そこに書いてないことを推測する」という”行間を読む”ようなことが求められるそうなのですが、どの論文にもきっとそれができる背景にドラマが満ちているんだなというのがよくわかります。

研究というのは大きく分けて「人の研究」と「物の研究」に別れるそうで、どちらも重要なんだと思いますが面白いのはやっぱり「人の研究」なんだろうなと思いました。
でもこの本に出てくる「物の研究」系の論文として「湯たんぽ異聞」という湯たんぽの歴史や使われ方などについて調べた論文が載ってるのですがそれもたいそう面白く、要は着眼点なんだなと思い知らされます。

すごい世界をのぞける本です。

« May 2015 | Main | July 2015 »