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January 2015

January 25, 2015

時代は僕らにカネの雨を降らしてる

というわけで今週木曜日22日に「1964年のジャイアント馬場」著者である柳澤健さんを招いたトークショーを行いました。

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私は主催者兼司会として壇上の端っこにいたのですが、柳澤さんが冒頭から「レスリングの起源」みたいなのを話しだしたときは「これはちゃんと時間通りに終わるんだろうか」と危惧したものの、見事にほぼ時間通りで進行し、柳澤さんのトークスキルの高さを実感させられました。

レスリングはもともと古代の時代、都市間の戦争における戦闘行為で相手を打ち倒すためには取っ組み合いの末に相手の上になり、短剣のようなもので指すという行為が有効だったため、「相手を組み倒して上になる」という習練が求められ、それが競技化していったという話で、思わず「へえー」とうなづきそうになってしまいました。

そこから「競技としてのレスリング」から「興行としてのプロレス」が生まれ、さまざまな演出や勝負方法が寝られ、やがてアメリカにバディ・ロジャースという革新的なスターレスラーが誕生し、そのロジャースに見込まれたのが当時日本から遠征していた若きジャイアント馬場だった、という話につながっていき、そこからいろんな話に脱線していき、主催者がこういうのもなんですが、面白かったです。

今回はちょっとしたサプライズとして「柳澤健さんについてのメッセージ」を『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の著者である増田俊也さん、柳澤さんとは学生時代からの友人である漫画家のまついなつきさん、それと現在アマチュアプロレスでリングアナウンサーをされているという柳澤さんの娘さん・さなピーさんの三人からいただき、コメントを会場で読ませていただきました。
柳澤さんには「なにこれ結婚式!?」と言われてしまいましたが、ご来場いただいた方々には好評だったのでよかったかと思います。

「会場を借りて有料の催し物を行う」というのは初めての経験だったのですが、いろんな意味で勉強になりました。
また機会ありましたらやってみたいですね。

柳澤さんのレスリングについて話は「日本レスリングの物語」に詳しいので、気になった方はぜひご一読ください。
伊野尾書店にも在庫しています。

○「日本レスリングの物語」柳澤健(岩波書店)

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☆プロレスつながりといえば

現在の文壇におけるプロレスファンの代表的存在であった西加奈子さんがこのたび「サラバ!」(小学館)で直木賞を受賞されました。

○「サラバ!」西加奈子(小学館)

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私はちょうどこの前読み始めたところでまだ途中ですが、大変面白いです。
西さんの小説にはよく何かしらの形でプロレスが出てくることが多いのですが、今回にもそういうのがあるのかどうか楽しみに読みたいと思います。

「絶望するな。僕達には西加奈子がいる。」 てれびのスキマ
http://littleboy.hatenablog.com/entry/2015/01/21/124306

西さんの小説はもともと好きだったのですが、最初に読んで衝撃だったのは「こうふく あかの」「こうふく みどりの」(ともに小学館文庫)でした。
プロレス要素を入れた小説として西さんは後年「ふくわらい」という大変な傑作を書かれるですが、それ以前に書かれた中ではこの「こうふく」二作品が私は好きです。どちらかといえば「みどりの」が好きです。

先日、神楽坂「ラカグ」で行われた棚橋弘至×速水健朗トークショーに行ってきたのですが、近いうちに棚橋×西加奈子トークショーも行われるかもしれないですね。
昨年後半くらいから「プロレス女子」という、プロレス好きな女の人を扱ったテレビや雑誌の特集が続いてるのですが、こんなところにまでそんな流れが…という西さんの受賞でした。

 

☆年末年始に読んで面白かった本

今年の正月に読んで一番面白かったのはこの本でした。

○「餃子の王将社長射殺事件」一橋文哉(角川書店)

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2013年12月に起きた「餃子の王将」社長射殺事件の真相と背景に迫るノンフィクション。

とにかく一橋文哉の取材力に驚かされます。。
事件の関係者はもちろん、事件の背景や事情をよく知ってる裏社会の人物と接触し、匿名としつつ証言を紙媒体に載せることをよく許してもらえたな、と。
冒頭で中国残留孤児の女性が満州時代に当時の日本軍の兵士に姉が乱暴されて一家がメチャクチャになった、という話をしていて、「大変な話だと思うけど、どうしてこれが『王将』の社長射殺事件と関係あるんだろう…」と思いながら読んでたらその兵士の名前が「王将」創業者と同姓同名だった、という展開で、この事件の背景にはとにかくいろんなものが錯綜して絡んでいる、というのが少しずつ明かされていきます。

京都の学生向け中華料理店が大きくなり全国展開し巨大な金を生むようになると、社内闘争に巻き込まれ、創業者の意向と現実の経営問題に引き裂かれ、さらに巨大な金を吸い付くそうとする裏社会の勢力に狙われ、彼らとも応対しなければいけなくなる。会社大きくするとこんなにも大変なことが起きるのだな…と思いました。

 

☆もういっこ面白かったノンフィクション

○「街の人生」岸政彦(勁草書房)

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年末に「SPA!」を読んでたら「いま読むべき100冊」という特集の中で雨宮まみさんが「生き方に正解なんてない」というリード文でこの本を紹介されていて、気になったので読んでみたところ大変面白かったので紹介します。
ゲイの外国人(ラテン系)、45歳のニューハーフ、摂食障害の31歳の女性、盛岡のシングルマザーの風俗嬢、大阪・西成のホームレスのおっちゃんという5人にそれぞれ「どういう人生を送ってきたのか」というインタビューをしているのですが、これが会話文をそのまま載せてるので、会話の空気というか、話している人のキャラクターが伝わってきて、それが大変よかったです。
個人的にはゲイのルイスと、ところどころ何言ってるのかわからない西成のおっちゃんの話が大変印象的でした。

岸さんはこちらのインタビューもいいです。

「断片的なものの社会学」  第10回 夜行バスの電話
http://asahi2nd.blogspot.jp/2014/12/danpen10.html

ここで出てくるのは前述の5人ほどぶっ飛んでない、むしろそのあたりにいそうな普通の女の人ですけど、普通のような女の人にもどこかしら普通でない部分はあるわけで。

「人の数だけ人生がある」ということを改めて思い知らされます。

 

☆「聞く力」のパクリ?と思ったら

○「聞き出す力」吉田豪(日本文芸社)

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タイトルがタイトルなだけに大ベストセラーになった阿川佐和子の本の二の線を狙ったのかと思いきや、案外違ってて面白かったです。
まあそもそもインタビューしてる媒体が阿川佐和子が「週刊文春」なのに対し吉田豪は「BUBKA」であり、聞く人も真木蔵人やら大仁田厚といったアクの強い人が多くなるわけで、そりゃ違ったアプローチになるわな…と。

というか「聞く力」を読んで思ったのはあれは阿川さんができることであり、たとえばデーモン小暮に「ヘビーメタルってなんですか?」みたいなことを聞くのは確かに初歩的だからこそ相手のデーモン閣下も「そういやそもそもなんだろう」と頭を整理しながら答えてくれるのかもしれませんが、あれは阿川さんが聞くから許されるのであって、それこそ吉田豪がいきなりそんなこと聞いたらデーモン閣下は怒るか、やる気をなくすかしてしまうのではないかという気もします。

その点吉田豪の方は「相手の作品(出演作、書いた小説など)はほとんど見ないし読まない。代わりに雑誌やブログに載った本人のコメントや談話をあたって、それでどういう人なのか知り、そこから生まれた興味で質問する」というやり方をとっており、その方が我々が学ぶインタビュー術としては現実的であるように思います。

また、「まったく興味はなかったけど仕事でやらざるをえなかったインタビュー」の裏話も載っており(具体的にはバトミントンの潮田玲子)、当初なんのとっかかりもなかった潮田さんからどういうようにインタビューをしてきたか、の話なども面白く、個人的には阿川さんの本よりこちらの方が受け入れやすいかなと思いました。
もっとも、吉田豪が普段取材相手に対して行っている、出したエッセイ本や載ってる雑誌のチェック量は尋常ではなく、それもまた簡単に真似できるものでもないのですが…。

とにかく大事なのは「相手に興味を持つこと」だそうです。確かにそれは大事だ。

 

☆来月から

丸善津田沼店の酒井さんが提言・とりまとめされた、海外小説に日頃縁がない人のための「はじめての海外文学フェア」に参加することになりました。

「はじめての海外文学フェア」開催!(執筆者・酒井七海[丸善津田沼店])
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20150124/1422056827

うちはそこまで売り場が広くないので、今回は文庫に特化しました。

せっかくなので私の選んだ「はじめて読む人のための海外文学」も入れました。
あ、『中井文庫』で選んだ「ムーン・パレス」じゃないですよ。別のものを入れました。

2/1~開催予定です。ってもう来週だ。よろしくお願いします。

(H)

January 17, 2015

わたしたちは言葉に支えられている

印象に残った言葉
 
 
・ ・ ・ ・ ・ 
(店に来るお客さんの数を増やすのってどうしたらいいんですかね?という質問に)
 
「う〜ん俺もどうしたらいいってのはすぐわかんないけど…楽しそうにやることじゃない?
ほら、お店の人が仏頂面してたり、きついなー苦しいなーって顔して仕事してたらお客さんは楽しくはならないじゃない?
店の人がなんか楽しそうにしてたら、お客さんも“なんか楽しそうだぞここの店”ってなるでしょ?
それですぐお客さんが増えるかどうかわかんないけどさー、お店の人が楽しそうにしてたらお客さんは”なんか楽しそうだぞここの店“ってなると思うんだよね」
(千駄木・往来堂書店  笈入さん)
 
・ ・ ・ ・ ・ 
 
「本屋が大変だ大変だって言われるけど、本を買って読む人はいなくならないからやっていけないことはないと思うんだよ。
どうしてもキツかったらさあ、そのときは少しずつ人を減らしたり事業を小さくして、最後は自分一人でやればいいんだよ」
(NET21代表、恭文堂書店  田中淳一郎さん)
 
・ ・ ・ ・ ・ 
 
「私はヴィレッジヴァンガードでずっと自分の売りたい本を一生懸命売ってきたけど、限界みたいなのがあったんです。やっぱりヴィレッジは雑貨がメインで、本も売ってますけどそこは『こんなのもあるね』というか。
伊野尾さんのところがうらやましいです。
お客さんは伊野尾さんのところに『どんな本があるんだろう』という意識で来て、それで伊野尾さんが選んだ本を買っていくわけで。それはすごくうらやましい」
(ヴィレッジヴァンガードトレッサ横浜店店長・花田さん)
 
 
・ ・ ・ ・ ・ 
 
「お父さんの頃から知ってるけど、いいお店になったね」
(壮年の男性のお客様)
 
 
・ ・ ・ ・ ・ 
 
ふとしたときに思い出す言葉を並べてみました。
 
 
私は言葉に支えられています。
言葉で動かされてます。
言葉でテンションが上がったり、言葉で深く落ち込んだりします。
 
言葉はふわふわしています。
心の中にある言葉。心にない言葉。傷つける言葉。慈しむ言葉。
目の前の人が私に発した言葉がそこにいない人や発した人自身に向けられてることもあるし、本やインターネットで不特定多数に向けられた言葉が自分にとってずっと切り離せない言葉になることもある。
もしかしたら自分が何気なく発した、覚えていないような言葉をずっと覚えてる人もいるかもしれない。
それは印象に残る言葉かもしれないし、傷つけた言葉だったかもしれない。
 
本にはたくさんの言葉があります。
もちろん、写真集のように言葉を必要としない本も、情報を載せた雑誌のような本もたくさんあるのですが、言葉が詰まった本もたくさんあります。
 
私はいいものを売って仕事をしているという実感がとてもあります。
もちろん家電を売って仕事をしている人は家電がもたらす生活の喜びを知ってるから家電を売ってるのだろうし、ラーメン屋で働いてる人はおいしいラーメンが食べた人にもたらす幸福感を知ってるから苦労してラーメン作ったりしてるわけで、誰しも自分の仕事が何かしら誰かしらの役に立っていることを知っている。
その中で、私は言葉を扱った仕事に携われることに喜びを感じます。
本屋で働くようになった15年前には考えもしなかったけど。
本屋っていい仕事だな、と。
 
ときどき、あと何年本屋やれるんだろうと考えることがあります。
そりゃあ続けられるなら続けたいけど、続けられなくなったらそのときはしょうがないものだと思ってます。
そうやって考えると、どうせならやめる前になんでもやれることをやっておきたい、と思うようになりました。
本屋でやれることって意外とあるんですよ。
というか、何をやってもいいんです。
正解か不正解かは私が判別することじゃないんで、やりたいことをやろうと思います。
どうせやるんなら、楽しいことをやろうと思います。
 
そんなことを考えています。2015年。伊野尾書店をよろしくお願いいたします。
 
 
伊野尾書店  伊野尾宏之

20150117

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