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September 2014

September 26, 2014

絲山秋子「離陸」

日常そんなことを考えることはほとんどないのに、ふとしたきっかけで昔好きだった人のことを思い出すことがある。
その人の出身地をたまたま地図で確認する機会があったり、昔その人と乗った電車にたまたま乗る機会があったり、その人と一緒にいた時に聴いた音楽をどこかで耳にしたり。
いろんなものに、場所に、「その人」だけのタグのようなものがついていて、それが何かの拍子で引っ張り出されて思い出す。
7割の甘美な思い出と、3割の悲しい思い出。
けれどそんなことを考えるのはそんな長い時間ではなく、またすぐに目の前の日常に頭が戻っていく。

絲山秋子の「離陸」の主人公、佐藤弘(ひろむ)は国土交通省の役人として、群馬県の八木沢ダムで働いている。
三十代前半。独身。恋人はおらず、群馬県沼田市内に一人暮らし。

八木沢ダムは冬の間、雪に閉ざされ道路は通行止めになる。
ダムの管理業務を行う関係者だけが現地に滞在する。
その雪で閉ざされた冬の八木沢ダムに、弘を訪ねて一人の黒人青年が現れる。
彼の名はイルベール。
どうしてこんなところに、という弘の驚きを無視するように彼は「女優を探してほしい」と弘に懇願する。
イルベールが探している「女優」。
それはかつて弘が付き合い、そして離れていった恋人のことだった。
なんで今頃。もうその人が今どこで何をしているかなど本当に知らない。
にもかかわらず、弘は少しずつ「女優の謎」と関わらざるを得なくなる…。

人生にはいくつもの不思議な出会いがある。
たまたま出会ったにも関わらず、その出会いが一生を決定づけることになることがままある。
そのことを日頃私たちは考えたりしない。
なぜ生きているのだろう。
なぜ出会い、そして別れていくのだろう。
物語は「女優の謎」から、弘自身の大きな人生の転換が描かれていく。
中盤以降、示唆的に使われるタイトルの「離陸」。
「私たちはみな、滑走路で順番に離陸を待つ飛行機なのよ」
という言葉が沁みるように心に残る。
久しぶりに良い小説を読んだ幸福な読後感。

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(H)

September 18, 2014

いい文章には血が流れている

最近、「ゴング」「俺のプロレス」「別冊宝島とプロレス系ムックがいろいろ出てホクホクしておりますPB(=プロレスバカ)店長です。
定期刊行の「Kaminoge」含め、みな方向性はそれぞれ違えど内容が濃くてファンとしてはうれしいです。「ゴング」よく売れてるし。http://www.oricon.co.jp/news/2042228/full/

最近プロレスがまたブームになってきてる、と言われたりもしますが、まだそこまではいってないきがいたします。本当にブームであればプロレスの本がもっと粗製濫造されてもいいはずで。
そうやって考えると今ブームが来ているのは歴史ですね。ずっとブームですが。
うちはかなり入荷する新刊を絞ってるはずですがそれでも毎日必ずなんかしら歴史の本が出ています。雑誌もムックも文庫も新書も単行本も。
最近は歌まで出てますしね。http://www.laughin.co.jp/ikechan/top/

あとブームなのは健康ですね。これまたずっとブームな気がします。相続とか料理もブームですね。THE BOOMは解散してしまうらしいですけど。
http://matome.naver.jp/odai/2139624179752948101

大学生の時、当時好きだった女の子がTHE BOOMが好きで、「島唄」くらいしか知らないのにライブのチケットを買って誘ったらOKが出て、付け焼刃のようにアルバムを聴いて行ったことを思い出します。結局そのあとフラれるんですけど。
一時期は「星のラブレター」とか「中央線」あたりがうっかりラジオで流れたりするといろいろ思い出して死にたくなってましたが、最近は普通になつかしく聴けるようになりました。

そういえばそのTHE BOOMのライブは渋谷のON AIR EASTというライブハウスでやったんですが、ちょうどそのライブの1ヶ月後に高野拳磁の「野良犬伝説」という、プロレスとライブをミックスしたような興業に行きまして、円山町のホテル街の路上で高野拳磁が怪人レスラーや若手レスラーを交通整理のコーンでボコボコにするようなひどい大会だったのですけど、そこで高野さんにボコボコにされてた若手レスラーの一人がその日デビューしたばかりの高木三四郎さんでした。
ちょうど20年前の話ですね。
20年後は何がどうつながるんだろうなあ。

 

☆中井文庫

おかげさまで盛況です。

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「新宿経済新聞」さんが取り上げてくださったおかげで、Yahoo!ニュースにも載りました。わーい。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140904-00000065-minkei-l13

約三週間を経過した売り上げ上位3冊は下記のような感じです。

1、「今夜、すべてのバーで」 中島らも           講談社文庫  
1、「更紗夫人」 有吉佐和子               集英社文庫 
1、「腰痛放浪記 椅子がこわい」 夏樹静子         新潮文庫 

同数1位が3冊。
これが上位三点なんだ、と面白いです。
推薦者の知名度は様々なんですけど、そこはあんまり関係ないんだなーということがわかりました。

 

☆普通って何?

○「うちの母ってヘンですか?」田房永子(秋田書店)

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「母がしんどい」で苛烈過ぎる母親の抑圧を描いた田房さんが、今度は世の中のいろんな「母がしんどい」人たちに話を聞いたインタビューコミック。
娘を子どもというより「目の前にいる一人の女」として接して「娘の幸せ=私の不幸せ」と捉える母親、父母両方でまったく同じ責め方を一方的にしてくるステレオスピーカー両親の話、娘ではなく息子を支配しようとする母親の話…など。

ほとんどの人は自分の家庭や育てられ方は普通だった、って思うんだろうけどそれが普通だったかどうかはいろんな人にそれぞれの家庭や育てられ方を聞かないと気がつかないわけで。
この本を読んでそんなことを思いました。

この表紙の「子供のコーヒーカップ(遊園地にある方)に乗り込んできて勝手にハンドルを回し始める母」というイラストがいろんなものを表してますよね…。
娘のカップ。
でも動かすのは母。
文字通り「振り回されて」やつれる娘、それが良い事だと疑うことのない母の笑顔…。
絵画作品みたいなイラストです。

 

☆鉛の玉

田房さんの本と正反対な流れの本ですが、これもよかったです。

○「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った」宮川さとし(新潮社バンチコミック)

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端的に言うと「作者のお母さんが亡くなった話と母の思い出話」なのですが、エピソードの一つ一つが細かくて、心を打ちます。

「母がいなくなって笑顔が消えたわけじゃない
 美味しいものを美味しいと感じられなくなったわけじゃない
 ただ 母がいないこの世界では 常に胸のあたりに鉛の玉が引っかかってるような
 消化できない気だるさが続いていました」

のあたりが非常に刺さりました。1巻完結。

 

☆人生論

なんやかや人生論的な本はちょろちょろと売れます。
恋愛もそうですが、気にしない人はいないジャンルというか。

で、最近早川義夫なんぞ読んだりします。
最近出たこれがよかったです。

○「生きがいは愛しあうことだけ」早川義夫/著 (ちくま文庫)

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「『本当のこと』というのは、書いたそばからすり抜けていくようにできている。形に表せない、見えない、つかめないところに真実があるのではなかろうか」(僕の好きなもの 女の子)

「人間は弱い。特に男は弱い。女よりも弱い。たぶん頭も弱い。感受性も鈍い。いいところなしだ。ゆえに寂しい。偉そうな、強そうなふりをするだけである」(「男の嫉妬」)

オビで斉藤和義が「やる気が出ました!」と書いてます。
そう、いろいろ考えさせられるけど、何か元気が出てくる。
いい本だなあと思います。

 

☆売れている本

○「白澤卓二さんが提案する100歳までボケない101のレシピ 新装版」

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街場の本屋なので実はこういうのがよく売れます。

そいや本屋大賞の料理本版「料理レシピ本大賞」って明日大賞発表ですね。
http://recipe-bon.jp/

何の本が選ばれるんでしょ。

(H)

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