« July 2013 | Main | September 2013 »

August 2013

August 31, 2013

今わたしが 泣いていても あなたの記憶の中では どうかあなたと 同じ笑顔で きっと思い出してね

すっかり更新に間があいてしまいました。お元気でしょうか。

私のこの「なつやすみの思い出」は8月17日&18日と二日続けて行われたDDTプロレスの両国国技館2DAYS興行だったのですが、特に印象に残ったのが初日の方の「DDT万博」で。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/sports/fight/all/2013/columndtl/201308170006-spnavi

基本プロレスの興行なのですが、あいまあいまにアイドルが次々に趣向を凝らした登場をして歌をうたい、オチに新田恵利が出てきて「冬のオペラグラス」を歌い、プロレスとウルトラセブンショーが同時並行に行われたり、坂口憲二が出てきて(生で見ると同じ人間かっていうくらい超カッコいい)まさかのドロップキックをやったり、筋肉少女帯がレスラーのテーマ曲を歌ったり、でもメインはプロレス、という非常に面白い大会でした。

行く前は「なんなんだろうこのイベントは」とか思ってたわけですけど、行ってみたら望外の完成度の高いエンターテインメントで大変多幸感に満ちあふれたイベントでした。
こういう「見るまではなんだかよくわからない」ものが科学変化して爆発的にうまくハマると本当に観る側は予想外の分「今日は楽しかったなあ…」となるわけで。
これからは「なんだかよくわからない」ものも機会があったらいろいろ行ってみようと思いました。

三十代の後半になったあたりからつとに感じることですが、「自分の知ってる面白いもの」を深く追い求めることで手一杯になってしまって、「今まで行ったことのないもの」「行ったことないけどハマってる人がいるという話は聞くもの」に手が伸びなくなってしまい。
でもやはり機会があったらなるべく未知の世界に踏み入れてみないと頭が凝り固まってしまうなーと感じました。
本なんかもそうですよね。
自分の好きなジャンルやグループの本を読むと自分の気持ちいいツボを確実に押してくれるけど、自分の知らなかったツボを押してくれることはなく。

ネットを見てると自分の知りたいジャンルや関連の情報を知ろうとするとどこまででも掘り下げられるんだけど、新しい世界に触れられる機会はなかなか少なく。
自分の話をするとプロレスの情報はいろいろたどっていっても別の世界、たとえば将棋のこととか、写真家のこととか、宝塚の世界に触れることはほとんどない。

で、私は朝通常業務としてその日発売になった雑誌を並べるわけですが、まあいろんな世界の一端を目にするわけです。
音楽雑誌でビジュアル系バンドは今こんな人が流行ってるのか、とか、マネー雑誌やビジネス雑誌でよく取り上げられてるNISAってなんじゃろう、とか、健康雑誌に「1円玉で病気が治る」とか書いてあれば何それ?って思うし、「FRUiTS」を見て原宿にはこんな格好した人がホントに歩いてるの?とか思う。

本屋の雑誌売り場には2ちゃんねるまとめサイトでは出会えない世界がいっぱいあるのだけど、残念ながら縮小しているのが現状なわけで。
どうにかこの「いろんな世界の入口」になってる「書店の雑誌コーナー」を存続できないものか、と思ってしまいます。
それとも別の入口ができてたりするのかな。
ツイッターでいろんなブログの紹介を次々送ってきたりする人がそれに取って代わったりするのかな。
でもなにか違うんだよな。
言葉にできないけど。

 

☆店長が最近読んで衝撃だった本を不定期に紹介するシリーズその3

○「カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生」渋谷直角(扶桑社)

Jpop

もういろんなところで紹介されてるんで若干今更感はありますが、2013年の夏、これを紹介しないで何を紹介するんだよ!という本なので、あきらめて読んでってください。

20代前半の自分を思い返すと、とにかく余裕がなかったと思います。
大学卒業を迎えて周りが就職活動を始めた頃には自分が何をしていいかわからなかったし、唯一やりたいと思って受けたプロレス雑誌記者募集に落ちてからはずっとフワフワした生活を送り、本屋の仕事をするようになっても「ここで俺はがんばるんだ」という気持ちはあまり沸いてきませんでした。
生きていく上で何かしら働かないとお金がもらえないから仕事をする、という感じで。

そうするととにかく底のない不安感に襲われるわけです。
俺このままでいいのかな。こんなことずっとやっていくのかな。学生時代の友人はそれぞれ社会の中でそれぞれに居場所があるように見えて、それに引き換え自分は…という負の感情が絶えずありました。

人から賞賛されたい。人から尊敬されたい。モテたい。自分には何かしらの才能があるはずだ。あってほしい。
誰かに承認してほしかったのです。
けれど、承認してくれる人はいないから、表面上は普通にしてても、根っこの部分で「俺は違うんだ」という感情がありました。
その頃書いてた文章を今読み返すと妙に攻撃的で、上から目線な批判ぽい文章が目立ち、自分で書いたことなのに「で、偉そうに語ってるお前は誰なんだよ」と思ってしまうぐらい空回りした内容でした。
でもその感覚には既視感があって、何だろうと思ったときにこれは2ちゃんねるとか匿名メディアで政治や社会を攻撃的に論ずる人たちの論調とそっくりだ、ということに気がつきました。

「カフェでよくかかっている~」を読むとその頃の自分を思い出すのです。
4つの物語の主人公たちに共通する感情。

有名になりたい。
誰かに認められたい。
「すごいね」って言われたい。
自分をわかってほしい。

全部、自分もくぐってきた感情です。
その感情の中でもがく若者たちの姿を、痛いと思いながら最後まで笑えませんでした。
「ああ~」と深いため息が出るばかりで。
久しぶりに心に痛い物語を読みました。
くぐもった感情をもてあましました。
最後に唐突ですが私の好きな言葉を残して締めたいと思います。

「努力しても報われない奴はいる。間違いなくいる。ただ成功した奴は、必ず努力している」(長州力)

そういえば4番目の「口の上手い売れっ子編集者ライターに仕事も女も持ってかれる漫画」の最後に出てくる宮沢賢治の詩は一部抜粋ですね。
あの漫画のあとで全文を改めて読むと味わいがさらに増します。
http://www.ihatov.cc/haru_2/191_d.htm

 

☆甲子園は初出場初優勝で終わったけど

だいたい高校野球漫画は甲子園めざして主人公の学校がライバルチームと激闘を繰り広げるのがフォーマットなわけですが、そんな世界と完全に一線を画した「野球部という部活動」そのものにフォーカスを当てた変わったマンガがチャンピオンコミックから出ました。

○「野球部に花束を~Knockin' On YAKYUBU's Door~」 第1巻(チャンピオンコミック)

Photo_3

http://www.akitashoten.co.jp/comics/4253222366

最初はお客様扱いだった新入生がある日からいきなり奴隷のような扱いに変わっていく様とか、中学時代に野球をやったことのある知り合いの高校野球界での活躍をなぜか自分の自慢のように語る様とか、実にリアリティがありすぎて最高です。
なぜかオビの推薦者が野球マンガとははるかに縁遠そうな福本伸行。

 

☆ゲスい気持ちで読みだしたら意外にいい話だった

○「俺とSEXすれば売れる」1巻(ゼノンコミック)

Photo_2

http://www.tokuma.jp/comics/30ce30f330b330df30c330af30b9/4ffa3068sex3059308c58f2308c308b

タイトルがタイトルなのでソフト・オン・デマンド的な展開が待っているそういう内容のマンガなのかなと思いきや、見た目がよいばっかりに呼びたくもない揉め事を招いてしまう女性マンガ家(の卵)の実録苦労話。
原稿を持ち込んだ出版社の編集者からアシスタントに出向いた先のマンガ家やら何やらかにやらと次から次に降りかかるセクハラを交わしながら同じ境遇のマンガ家アシスタント男性との恋愛、そして仕事関係で初めて心を開けることになった女性マンガ家との邂逅、そしてその彼氏をめぐって立ち上ってきた不穏な空気…という実にいいところで一巻が終わります。
女性マンガ家さんの「彼氏、とらないでね?」の一言がね…。

 

☆話題の本

○「いびつな絆 関東連合の真実 TOKYO OUTRAGE」工藤明男/著 (宝島社)

Photo

すっごい売れてるので読んでみましたが…こりゃ面白いわ。売れるのが大納得。だって誰も知らない話ばかりだもの。
関東連合の名前を知ったのは私も海老蔵暴行事件以降ですが、東京の裏面ではこんなことが起きているんだな、というのが大変面白かったです。ちょっと怖いけど。
六本木クラブ襲撃事件の話が大変生々しくて、こういう世界あるんだ…と震えました。
あと「悪そうな奴は大体友達」と歌ってたあの人が関東連合に呼び出され「悪そうな奴って誰の事だ?俺はお前なんかと友達じゃないぞ!」と詰め寄られていたというのがいい話。

 

【セールスランキング 7/30~8/30】

(一般)
1 人間にとって成熟とは何か         幻冬舎  
2 エッセで人気の「おいしくて太らないおかず  扶桑社 
3 フライパンひとつでつくるおかず      扶桑社  
4 日本人の知らない日本語   4 海外編  メディアファクトリー
5 パズル&ドラゴンズ モンスター図鑑    KADOKAWA
6 爪と目                  新潮社
7 タモリ論                 新潮社
8 ロスジェネの逆襲             ダイヤモンド社
9 起死回生のドロップキック          玄光社  
10 犬から聞いた素敵な話 涙あふれる14の物 東邦出版

(文庫)
1 オレたちバブル入行組           文藝春秋
2 オレたち花のバブル組           文藝春秋
3 ソードアート・オンライン  13     電撃文庫
4 新参者                  講談社 
5 ようこそ、わが家へ            小学館
6 はたらく魔王さま!   9        電撃文庫
7 永遠の0                 講談社  
8 零戦 その誕生と栄光の記録        KADOKAWA
9 検証捜査                 集英社 
10 魔法科高校の劣等生  11 来訪者編 下 電撃文庫

池井戸潤祭り…。

 

☆月もあらたまって9月から

「ミステリーマニアが選んだ面白すぎて何も手につかない!そんなミステリー集めました!」フェア(仮)を行います。
久しぶりにまっとうなフェアを。

(H)

August 16, 2013

店長が最近読んで衝撃だった本を不定期に紹介するシリーズその2

○「フィリピンの小さな産院から」冨田江里子[著](石風社)

Photo_2

「本の雑誌」が選ぶ2013年上半期ベスト10の中で6位か7位にランクインしており、その中で「名作『ヤノマミ』(NHK出版)に匹敵する衝撃」と紹介されてたので気になって読んでみました。

発行元の石風社は福岡の小さな出版社です。同業者向けに言うと地方小流通出版センター扱いで取る本。

著者の冨田さんはフィリピンのマンガハン再定住地というフィリピン国内でも最貧困地域で助産院を開いている方です。
もともと青年海外協力隊の看護師・助産師の仕事をされていて、旦那さんの仕事の都合でフィリピンに定住し、2000年に「バルナバ・マタニティ・クリニック」という産院を開きます。

開業するきっかけになったのは著者の友人二人が現地の助産婦の誤った知識で無理な出産をさせられ、その2人とも子供が死産になってしまったこと。
「自分がお産に立ち会っていれば死ななかった」とは言えないけれど、これ以上納得できない母子の死亡の話を聞かないですむように、そんな無念さが彼女の背中を押し、友人宅の庭に藁葺きの簡素な小屋を建て、無料で診療を行うようになったとか。

現地の人々は出産のときにあまり病院に行きません。
行政の保険がないため入院すると高額なお金がかかるし、現地の病院は貧しい人々を後回しにすることが普通にあるし、そのわりに何もされず、かなりの頻度で帝王切開されるということで嫌がる人が多い。

そして彼女らは村に伝わる昔ながらの出産を選ばざるをえないわけだけど、そこでは妊婦に必要以上に気張らせ、お腹を押し、産道をこじあけるような乱暴な方法が「昔ながらの出産」として伝えられていたりする。
結果、子供が死産になったり、妊婦の命が危機にさらされたりすることが日常的に起きていてもその方法が訂正され更新されることはない。
現地の産婆は「昔からこうやってきた」で、冨田さんがいくら言葉を尽くしてもそこに届かない。

この本を読んでると、とにかく冨田さんが無力感を味わうエピソードばかりが次から次に綴られます。
家族計画の重要性を理解しない男と女。
現地に伝わる呪術的な迷信から逃れられない風潮。
生活費を得るため、生んだばかりの子供を売る親。
病気になった子供は家計を苦しめるという理由で放置する親。
カトリックの国で中絶することが罪という教えであるため、非合法に跋扈する闇中絶の医者。彼らの乱暴な中絶方法…。

読んでると日本の一般的な価値観では捉えきれない、やりきれない話がいくつも出てきます。
けれど冨田さんはそこから目を背けることなく、時に現地の流儀を理解しようとし、時に絶望にうめきながら、それでもなお自分がそこにいて教えることで少しでも変えられることがあるのでは、という強い使命で日々を動きます。

冨田さんは語ります。
「ここには大きな大きな幸せのエネルギーが溢れている」
それでも、なのか、だからこそ、なのか。

日本ではベビーカーを押したお母さんが電車に乗るだけで厳しい目線にさらされたり、飛行機に小さい子供を載せるな、という発言が議論を呼んだことがありました。

なんなんだろう。
いいとか悪いとか言う前に、どうして私たちの周りは「大きな幸せのエネルギー」が感じられない世界になってしまっているんだろう。

命のあり方について大変考えさせられる本でした。

(H)

August 08, 2013

店長が最近読んで衝撃だった本を不定期に紹介するシリーズその1

最近わりと読んだ本が当たりというのが続いたので散発的に紹介します。

○「しろいろの街の、その骨の体温の」村田沙耶香/著

Photo

主人公の結佳は校外のニュータウンに住む、自分の容姿に自信がない、常に周りを観察し続ける小学五年生の女の子。
人工的な街を嫌いつつ、そこに留まざるをえない環境に閉塞感を感じている。

結佳には仲の良い子が何人かいる。
話が面白くておしゃれで人気者だけどちょっと八方美人な若葉ちゃん。
学校で最初に仲良くなったけどちょっとがさつで激情家な信子ちゃん。
そしてクラスは違うから普段は話さないけど習字教室が一緒でそこでだけ話す伊吹くん。
伊吹くんは小学五年生だけどまだ子供みたいな体型で、頭の中も若干子供っぽい。
男の子も女の子も分け隔てなく話す代わりに、学校でも塾と同じように結佳に話しかけようとし、周りの目を意識して「学校では話しかけないで」と言う結佳が言う理由がまだわからない。

そして中盤からはその3年後、彼らが中学二年生になった話が描かれる。
この中盤からの中学生編がヤバいです。
つたない言葉ですが、一番伝わるんで使います。本当にヤバい。

直接目にはできなくてもクラスの中にはっきりと存在する階層。
オシャレで見た目がよくて発言一つでクラスの空気や価値観が変わる女の子たちで構成されるトップグループ。
その子たちほど目立たないけど、明るい雰囲気を持っているその下の女の子グループ。
地味でおとなしい子たちで構成される女の子グループ。
そして男子から侮蔑的な言葉を浴びせられ、女子からは冷ややかな視線を向けられる、見た目がよくない(とされている)女の子。

この狭いがゆえ抜け出せないクラスヒエラルキーの世界が読んでると心に重石をかけてます。
そしてその渦の中で結佳、若葉、信子、そして伊吹くんがどう変わっていったのか…。

途中、中学二年の結佳に向かってお母さんが言う「あなたぐらいの年代の女の子たちは、自分のことを世界で一番かわいいと思っているか、世界で一番醜いと思っているかのどちらかなのよ」という言葉が名言すぎます。
そして伊吹くんが…伊吹くんが…あとは読んでください。

村田沙耶香は「タダイマトビラ」という、もう「世紀の奇書小説」的な、「なんじゃあこりゃあああ」というような小説を前に書いてりしててあんまり普通の人じゃないなと思ってたのですが、この作品の「普遍的なテーマの中にナイフを仕込むような才能」に触れてもう完全に何か一線を画した作家さんなんだな、と思いました。
男の私でこれだけやられてしまったのだから、女性の方は絶対に刺さると思います。
おそろしい作家さんです。

第26回三島由紀夫賞受賞作。

(H)

« July 2013 | Main | September 2013 »