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April 2013

April 23, 2013

色彩を持たない多崎つくると毛根を持たない俺の葛藤の年

というわけで村上春樹、すごかったですね。
って過去形じゃないや。
すごいです。今も。
今日(4月22日)で発売10日経つんですけど、今日に至ってもまだ熱が冷めません。再入荷したそばからボコボコ売れていきます。

けど一番すごいなーと思うのはそういうことじゃなくて、「普通だったらそうそう文芸書の単行本なんか買わないだろう」という方々が買ってくことなんですよ。

先日ちょうど在庫を切らしてた時、若い女性から「村上春樹の本ないですか」と問い合わせを受けたので「明日入りますよ」と答えましたのですが、どうも浮かない顔をされてて。
聞けば「義父が入院してて、なんかお見舞いを考えてたらあの本が話題になってるのでちょうどいいかと思って」という話だったり。(結局「海賊とよばれた男」を買っていただきました)

女子高生が思いつめたように春樹の本を持って考えてたかと思うと「今話題になってるのってこれですよね?」って聞いてきたり。

「きょうの料理」を買いに来た、杖をついたおばあさんがレジで会計しているあいだに「あ、これも」と追加で持ってきたり。

そのたびに「すごいなあ」と思うわけです。
発売日以降に集中して流されたメディアの報道がなかったら、あのお客さんたちはおそらく手にも取らなければ下手すれば本屋に来てすらいないわけで。
社会現象というのはこういうことなんだろうなあ、と改めて実感させられました。

しかし振り返ってみると「村上春樹の新作が発売になりました」ってニュースになるようになったのは前作「1Q84」からでそれ以前はニュースにはなっていなかったと記憶しているんですが、じゃあその間に何があったっけ?って考えると思いつくのはノーベル文学賞ノミネートなんですよね。

ということはですよ。
もし佐伯泰英がノーベル文学賞にノミネートされればほぼ毎月(略)

村上春樹が文芸書の「環状線の外側」にいる人々に買われてる、というのを裏付ける仮説がひとつあって。

「多崎つくる」の発売約一週間後に東野圭吾の新刊が出たんですね。

○「夢幻花」(PHP研究所)

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で、私これ正直初速はそんなよくないだろう、って思ってて。
本屋大賞の「海賊とよばれた男」が(既刊ですが)パーっと話題になって、村上春樹が出て、その数日後だとさすがの東野圭吾も煽りを喰らうんじゃないか、と。

ところが「夢幻花」はよく売れている。
それどころか、本屋大賞授賞式で「同じ週に新刊を出す村上春樹さんと文藝春秋は意地が悪い」とスピーチした百田尚樹の「海賊とよばれた男」はここ何年かの本屋大賞受賞作で一番じゃないかというぐらい売れてて、「多崎つくる」発売以降も衰えていない。

つまりこの3冊は全部別の購買層が買ってるんじゃないか、と。
あんまりカチ合ってないんじゃないかと。

そうやって考えるとコンスタントに「環状線の外側」にいる人々にアプローチするデアゴスティーニってすごい会社だなって思うわけです。
「週刊ロビ」とかね
いろいろ言われてますけど。
「長すぎる」「何巻で終わりかハッキリしないものが多い」とか。

いや、「環状線の内側にある本」と「外側に届く本」、どっちがえらいとかじゃなくて、両方必要なんですよ。
どっちも必要なんですけど、なんかボーッとしていると業界の論理といいますか、内側の世界に引きずられるところがあって。
その感覚をときどきブルっと振り払いたくなる時があるのです。

村上春樹さんは今年64歳なんですよね。
あと10年くらいのうちに、春樹さんに代わる若いレインメーカーが出てきてくれるといいのですが。
あ、レインメーカーっていうのは「業界にカネの雨を降らす男」という意味です。
試験に出るので覚えておいてください。

 

☆ダンダンダダーン抜けていく

○「ハゲに悩む」森正人(ちくま新書)

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なんじゃこのストレートなタイトル…と思いながら読んだらすばらしい本でした。
もうね、何がすばらしいって、1975年生まれの著者が薄毛に悩んでいる様子らしいのがすばらしい。

けどこの本を書くきっかけになったのは自身の薄毛でなく、留学先のロンドンでシャワールームに入った際、向こうの男子陣たちのアレが軒並み包茎であるのに気づき、けど彼らはそれをまったく気にしている様子がなく、「これはいったいどういうことなのか」と考え出したのが始まりだったそうです。
なんか「ひとつ上の男」という往年の男性雑誌にやたら出ていた広告を思い出させるエピソードですね。いや知らなきゃいいです。

男たちの薄毛、ハゲに対する悩み自体は近代の時代くらいからあったようですが、それが決定的になるのが育毛剤とカツラの宣伝がハゲしくなる1970年代後半~80年前半というのが興味深いです。
つまり、「これで毛が生える!」「これでハゲとはわからなくなる!」というアイテムが世の中に登場することで初めてハゲに対するコンプレックスが意識された、という意味で。

問題を解消すべきものが登場することでさらに問題が作られる。
スマートフォンとかその代表ですね。
あんな便利なものが出来たのに「電池がもたない」「高い」「どれ買っていいかわからない」というように別の不便が発生する、というような。

この本によれば、アートネイチャーの創業者阿久津三郎は創業当時ビルの上から歩道を見下ろし、薄毛の人がいれば駆け降りて声をかけるという営業を繰り返し顧客を獲得していたそうです。
確かに間違いのない営業活動だし顧客も捕まえただろうけど、同じぐらい怒鳴られたんじゃないかな…。

 

☆なんかすごかった

○「一度も愛してくれなかった母へ、一度も愛せなかった男たちへ」遠野なぎこ(ブックマン社)

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「若い頃に見た連ドラでベスト3を選べ」という質問があったら、絶対に入るのが1995年にTBSで放送していた『未成年』です。
知ってるでしょうか。
いしだ壱成、香取慎吾、反町隆史なんかが出てて。
私はグレートチキンパワーズの北原君にものすごい感情移入しながら見てたんですが、まあその話は長くなるので置いといて。

あの中でいしだ壱成に片想いするカコという女の子を演じていたのが遠野さん。当時は遠野凪子。美少女でした。

その後NHKの「すずらん」という朝ドラのヒロインになってたのも知ってました。
で、その後の遠野さんの動向を私はまったく知らなくて、知ったのは本当につい最近、「7股女優」という男大好きキャラでバラエティ番組に出ているらしい、ってのを。
そして本出したと思ったらこれですよ。

もう本当にビックリですよ。
今の若い人に説明するなら「川口春奈や忽那汐里がテレビから消えてちょっとしてまた出てきたら男大好きキャラになってて、“自分はメチャクチャな生育環境で育ってこんなに歪んでしまった”という本を出す」姿を想像してもらいたいです。
そんな感じですよ。

遠野さんの母親は10代後半で当時つきあっていた同級生の彼氏との間に子供を妊娠、二人は周囲の反対を押し切って駆け落ちし、子供を授かります。それが後のなぎこ。1979年のことです。

しかし、高校を出たばかりの若い二人にできた赤ちゃんは希望や喜びよりも自由を束縛し楽しみを奪う厄介な重石となります。
父となった男の子は行きたくもない仕事に行って金を稼ぐということに耐えられず、やがて仕事に行かなくなり二人の間には争いが耐えなくなる。
そして、「思い通りの人生を得られなかった」という母親の憎しみは幼いなぎこに向かいます…。

そこから先は読んでもらうのがいいのかなと思うのですが、ほんのさわりの部分が出版社の紹介ページにあるので、読んでみてください。
http://www.bookman.co.jp/esp.php?_page=detail&_page2=myg90

いや、「見てみて、これすごいでしょ」と不倫相手のアレの写真を見せる場面と、体重増加に悩む女優の娘に「吐いちゃえばいいのよ」と促す場面はゾワッとしました。
こんな内田春菊のマンガみたいな世界が実際にあるんだ…、と。
そして母親から愛情を与えられなかったなぎこが大きな欠落を抱えて、それを埋めるために結果的に母親と似たようなことをしていく場面はなんともいえない圧迫感を感じながら読んでいました。

この本がすごいなあと思うのは読み進めていけばいくほど暗い気持ちになっていく展開が予測できて事実そうなっていくのに、最後の最後で希望を残した終わり方で締められているんですよね。
そこがすごいです。
この構成を作った担当編集者さんは優秀なんだろうなと思いました。

また、部分部分で名言が多発するんですね。

「母はまるで少女で、私は気苦労を抱えた老婆のようだった」

とか

「母が悪魔なのか、悪魔が母なのかわからなくなる」

とか。
本当にいろいろ考えさせられる本でした。

 

来週、ってか今週は元EE JUMPメンバーのユウキこと、後藤祐樹が自叙伝を出します。
タイトルは『懺悔~ゴマキの弟と呼ばれて~』(ミリオン出版)。
http://www.excite.co.jp/News/entertainment_g/20130418/Cyzowoman_201304_post_558.html

なんか後藤さんの人生もかなりなドラマがあったみたいなので、これも期待したいと思います。

 

☆今週は濃い話を書きすぎました。来週は薄くしたいと思います。

(H)

April 11, 2013

出光というとどうしても「題名のない音楽会」のイメージが

本屋大賞の授賞式に行ってきました。
例年通り人がわさわさでした。
春先、信濃町から明治記念館に向かう途中で「あー野球開幕したから、もしかして今日神宮でスワローズ戦あるのかな」と思いつつ歩くのが年一の恒例行事です。

今年は百田尚樹さんの「海賊とよばれた男」が受賞しました。
読みましたが、読んでて胸が熱くなるいい話でした。
世代性別問わず勧められるという意味で本屋大賞らしい作品です。
百田さんは2009年に『ボックス!』、2011年『錨を上げよ』、2012年『プリズム』と毎年のように候補作に残ってたので、大賞取れたことは良かったなと思います。

で、これはなんとなくな私感なんですけど、明らかに本の売上が下がって、雑誌の休刊が相次いでて、電子書籍云々の前にスマートフォンに代表される多様で多大なる暇つぶし産業が跋扈している中で、なぜか本の話題というのが一般ニュースとかで取り上げられる機会が増えてる気がするんですね。
こないだ夕御飯食べながら19時のNHKニュース見てたら「村上春樹さんが3年ぶりの新刊を出すことになりました」とかアナウンサーが淡々と読み上げるので文字通り噴飯しそうになりました。
村上春樹は新作を出すこと自体が社会的ニュースになるほどの存在になってしまったのか、と。

どうもテレビニュースが娯楽化してナタリーで流すような情報を積極的にやるようになったんですよね。
「マクドナルドでなんとかバーガーが新発売」とか。
その流れなんでしょうけど、こういう時代になってしまった以上、出版業界全体で少しでもネタを提供していくようにしないと、なんかしらこちらから話題を提供していかないといけないんだろうなという気がします。
違和感はあるでしょうけどね。
黙ってるとホント知られないまま消えていくんだし。

だから、それぞれ一生懸命ネタを作りましょう。やれる範囲で。語るのはあとにしてね。

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☆そんなわけで

最近読んだ小説ではこれが面白かったです。

○「あのひとは蜘蛛を潰せない」彩瀬まる(新潮社)

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28歳女子。
街道沿いのドラッグストア店店長。
男性との交際経験なし。
母親との二人暮らし。
自分の価値感以外を認めない母が言う。
「そんなみっともないことやめなさい」
けど「みっともない」って何だろう?
母の「みっともない」が私を縛る。
私は何のため生きているんだろう?

安易に言葉にできないものがここにはありました。
他人と自分。
自分と他人。
その距離は底が見えるのに底に足がつかない沼のように。

よどみなく流れる文章と情景が目に浮かぶディテールの細かい描写が見事です。

☆今月号の「CREA」

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今月号の「CREA」が読書特集なのですが、その中の企画「私のすすめる文春文庫10選」のうち角田光代さんが選んだ10冊を棚に並べました。
さらに「テーマ別カフェ友文庫案内」の中にある「美味しいものを作りたくなる」の10冊も並べました。
美しいです。

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☆気になる本

○「ハゲに悩む ─劣等感の社会史」森正人(ちくま新書)

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おまえ…タイトルがストレートすぎるだろ…。

いや私も薄いんで…。

 

○「アラフィフ婚活 50歳・あぶれオスの奮闘記」石神賢介(飛鳥新社)

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この方、数年前にも婚活体験記出してましたよね。http://www.shinchosha.co.jp/book/610430/
結婚相談所じゃないけど、上手くいっちゃったら本書けなくなっちゃうんじゃないかな…。

 

○「カレーライスの誕生」小菅桂子(講談社学術文庫)

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まだ日本にカレーのカの字もない頃に岩倉使節団がセイロン島でカレーを食べていたとかよくそんな話集めたなというカレー教養がギッチリ詰まっております。

☆セールスランキング(3/10~4/10)

【一般】
1 昭和の東京 1(新宿区)   デコ
2 医者に殺されない47の心得  アスコム 
3 LESPORTSAC style1 ハロー デイジー    宝島社
4 おどろきの中国      講談社現代新書
5 日本人のための世界史入門   新潮新書
6 わりなき恋          幻冬舎
7 ’14 首都圏 高校受験案内  晶文社
8 雑談力が上がる話し方     ダイヤモンド社
9 評価と贈与の経済学       徳間書店
10謎の独立国家ソマリランド   本の雑誌社    

【文庫】
1 無宿 吉原裏同心(18)  光文社
2 バイバイ、ブラックバード  双葉社 
3 魔法科高校の劣等生(9)来訪者編 上  電撃文庫
4 バカとテストと召喚獣(11)  ファミ通文庫
5 プラチナデータ       幻冬舎文庫
6 とんび     角川文庫
7 ビブリア古書堂の事件手帖(4)  メディアワークス文庫
8 カッコウの卵は誰のもの   光文社文庫
9 県庁おもてなし課      角川文庫
10真昼なのに昏い部屋     講談社文庫

 

☆というわけで

4月12日金曜日は多崎つくるデビューです。どんな話なんでしょう。

当日は店頭即売も行う予定です。

 

○「色彩を持たない多崎つくると、 彼の巡礼の年」村上春樹(文藝春秋)

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