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March 12, 2013

すべての人に等しき逃げ場を

先週、市ヶ谷で行われたガンバレ☆プロレスという団体のプレ旗揚げ戦に行ってきました。

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ガンバレ☆プロレスはDDTの大家健というレスラーが、ただ自分のところの団体と選手契約を結ばれなくなったために1万5千円で作った団体です。
「作った」と言いながら、まだ正式なスタートが切れていません。
今回のプレ旗揚げ戦は「自分たちのような末端のレスラーが本当に団体を作ってよいのか観客に信を問い、その結果如何では旗揚げ前に解散する」という趣旨で行われました。なので「プレ旗揚げ戦」。
実はこの流れは15年前にDDTがまったく同じことをやっていて、今回のガンバレ☆プロレスはそれをなぞったのですが、そこはちょっと置いといて。

大家健というのは大変不思議なプロレスラーです。
プロレスラーをめざして闘龍門というレスラー養成学校に入るもデビューを前に道場の近くにあったコンビニで働いていた女性と懇意になり、いろいろあって『プロレスラーになる夢を取るのか、私を取るのか』と岐路を問われ彼女を取り、一度はレスラーへの道を挫折。

が、その女性が大家の稼ぎをどんどん使い込み、果ては大家の稼ぎで他のプロレス団体を見に行くようになり、なんやかやあって別れようとするも別れられず、失踪。

そこから「やっぱりレスラーになりたい」とDDTに戻り、またレスラーへの道が再スタート。
どうにかデビューにこぎつけるも、またもや女性問題が原因で失踪。
市販鎮痛剤100錠飲んでホテルで自殺しようとするも失敗。
残金6円になり、自動販売機のつり銭受けを軒並みさらって、やっと手に入れた100円でついジュースを買って飲んでから、実家に電話で助けを求めればよかったんだと気づく後悔。
気がつけばかつての同期レスラーは次々デビューしていてすでにそこそこの地位を得たりしている中で三度目の再デビュー。

http://www.plus-blog.sportsnavi.com/battlebungei/article/127

大家健というのは大変不思議なプロレスラーです。
そこそこ体格はいいのに、鍛えるのがあまり好きでないのか、違う理論を持ってるのか、あまりビルドアップされることなく、かといって頭脳的な試合は好きでないのか、頭からぶつかってはあっさり砕け散るような試合を好み、キャリアを積んでもこれといって強くなることはなく、けれど変な自信だけは持っていて、一流レスラー相手にも妙に上から見下ろした発言をしたりする。
すぐに高揚し、すぐに泣く。ついたアダ名が「カリスマ号泣師」。いろんな世界にカリスマいれど泣くことのカリスマは大家だけな気がします。

市ヶ谷の駅から徒歩3分の、雑居ビルの一階にある小スペース。
リングはなく、運動用マットが6枚敷かれただけの空間で、60人ほどの観客の前で挨拶に出てきた大家は声を震わせる。
もう一度言うけど60人。
学祭の観客だってきっともう少し多い。

そこで大家はブライアン・キャノンという、名前は立派だけどどう見ても本業は英会話講師か何かレスラーとは別の職業で日本に来ている風情の外国人と闘い、あげく別の選手に乱入され、仲間である今成夢人とともタッグマッチで再試合に挑むも今成が負けてしまいます。

試合後に大家が今成に涙声で「悔しくないのか!」と聞くと今成が「悔しいです!」と答えます。
三文芝居という人がいるかもしれません。
そこは否定しませんが、今成と大家は本気の本気で「悔しい」と思ってるのです。
たとえそれが決まっていた負けであったとしても、自分たちが負けになってしまうことが本当に悔しい。
だから泣く。
ものすごいねじれ方をしていますが、その涙は本気なのです。

大家はたぶん、ダメなレスラーです。
もうちょっと練習すればいいのに。
もうちょっと上手くなればいいのに。
いくつもの「期待」を抱えつつもそれを実装できない歯がゆい大家の姿を、私たちは自分自身に重ねて見ています。

もうちょっと頑張ったら。もうちょっと上手くやれたら。

私たちはたぶん、リアルな自分自身と別のもう一人の自分自身を、何かに仮託して人生を見ている。
それはゲームのキャラクターであったり、小説の主人公であったり、音楽の歌詞の中だったり、あるいは別の他人だったり。
常に「ここではないどこかにいるもう一人の自分」を探している。
それはいろんなところにあると思います。

私は幸いにも、プロレスという逃げ場が人生に用意できましたが、同じくらい本にも逃げ込んだ人生を送ってきました。
私の尊敬するある書店員さんは「本屋は第二の家である」という名言を残しました。
人生は楽しいことと同じくらい、どうしても楽しくないことが起きてしまいます。
その楽しくないことから逃げられるような本が、一冊でも多く並んでいる本屋でありたいと常に思っています。なあ大家。

 

☆人が何か大変なものに襲われる小説フェア

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というのをやってます。
アイデアをくれたのは某ホラー好きの営業さんで、結局選書なんかも結構な部分手伝ってもらいました。

最初企画段階では襲ってくる生き物をそれぞれPOPに書く案もあったのですがやはりそれはネタバレだろうとなった結果、『何か大変なものに襲われる』という大変口幅ったい言い方になりました。
選書の段階ではもっといろいろ挙がってたんですが、品切れが多くてつらかったです。
巨大サメはいる、いやそんなのいない、で最後に…という『メガロドン』(角川文庫)という小説があるのですが品切れだったのが大変残念です。

やはりおすすめは『羆嵐』『シャトゥーン』あたりでしょうか。
くまモンの登場ですっかり人気動物になった熊ですが、ここで描かれる巨大グマは民家を襲い、人を骨ごと噛みちぎり、逃げる者は徹底的に追う、大自然の殺人鬼みたいな存在です。恐ろしいです。

その他にも「トリフィド時代」という、植物が人間を襲う小説が入ってるのですが、この本は1963年初版で、奥付見たら昨年もまた重版してました。なんて長生きな。
ちなみに筋肉少女帯には「トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く」という曲があるそうです。知らなかった。

 

☆本屋な人たち

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「『本屋』は死なない」の著者である石橋毅史さんがいろんな本屋の人に話を聞く記録冊子「本屋な日々」の店頭での発売を開始しました。
現在(1)、(2)まで出ており各210円です。
1が大阪・長谷川書店の長谷川さん、2が下北沢B&Bの内沼さん。

210円ですがなかなか読み応えがある分量でした。

実はこのシリーズはこの後も続くのですが、大人の事情で(3)以降も販売できるが未定です。
なんとか売れる状況になるといいんですけど。

 

☆最近読んだ中で印象に残った本

○「母さんがどんなに僕を嫌いでも」歌川たいじ/著 (エンターブレイン)

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自身と母親との極めて歪な半生を描いたコミックエッセイ。
いわゆる毒母本の系譜に連なる本なのでしょうが、虐待以外にもいろんな負のエピソードが満ち満ちすぎて、けど最後の話の印象が明るいため、大変過酷な話でありながらそこまでひどい読後感ではありません。
ちょっと読んでほしいです。

主人公の人がゲイというのも若干今までの体験記にない要素ですが、そんなのが数多ある要素の一つにしかすぎなくなるほどいろんな話が出てきます。
施設に入れられることになる主人公におばあちゃんが手紙を贈る場面で泣きました。

マンガですが「予告編」の動画がyou tubeに上がってました。よくできてます。

http://www.youtube.com/watch?v=2rzYAQvopU4

 

☆あれから2年

今日はいろんなところで3.11の記念イベント的なものが行われてましたが、ツイッターやフェイスブックの本屋関連のアカウントでも震災に関する本を紹介していたのが目立ちました。
ので、私はもうちょっと皆が忘れた頃にまた何か震災に関連する本を紹介したいと思います。

最近双葉社から「それでも彼女は生きていく」という、3.11をきっかけにAV女優になった7人の女の子のことを書いたノンフィクションが出たのですが、その中で2011年4月から東京で就職が決まっていて、引っ越す準備をしていた矢先に震災があって、なんやかやで結局当初の予定通り4月から一人で東京に行くことになる女の子の話があるのですが、ただでさえ二十歳ぐらいで一人で東京に行くのは不安なのにあの時のあのタイミングで家族と別れて一人東京に行く、その不安感たるやどれほどだろう、と呆然としました。

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「震災について忘れてはいけない」というメッセージがずっと出ていますが、逆に思い出したくもない、という人もたくさんいるわけで。
忘れられて幸せになれるならそれでもいいではないか、という気持ちもあります。
何かを恨みながら生きていくのはとてもつらいことだから。

2年前のあの日、余震がやまず、交通機関がマヒしまくってて、早閉めすることになったその閉店間際に30代くらいの女性が「すいませーん」と店に入ってきて、買ったのは「オフィスユー」か、「ザ・マーガレット」だったかの少女コミック雑誌でした。
こんなときに。
違う。
こんなときだから、こういう本が必要なんだ、と。

「日本はこれからどうなるんだ」ぐらいの緊迫感があったときだから、逃げ場が必要だったのかもしれない。
テレビを消してマンガを読めば、地震速報と津波の映像と原発事故の情報がない世界を作ることができる。

どっちが正しい、とかどっちがいい、とかじゃなくて、誰も否定しない。
それぞれの考えを尊重する。
そういうのを体現できる、そんな店でありたいと考えています。今のところは。

(H)

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