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January 2013

January 23, 2013

バトンを継いで

伊野尾書店では近隣の学校・企業・個人家庭に外商営業を行っていますが、一点だけ早稲田大学の図書館に納品している本があります。
塙(はなわ)書房の「日本書紀研究」という全集がそれです。

伊野尾書店の創業者である私の父は早稲田大学の卒業生だったのですが、卒業後本屋を始めるときに学生時代お世話になっていたという教授先生のところに挨拶に行くと、「それじゃあこれから伊野尾君のところに本を頼むから持ってきてくれ」と言われ、本を届けるようになったそうです。
その後その先生が退職される時に、「これとこれとこれは私が辞めたあとも学校に届けてくれ」と指定された全集がいくつかあり、そのほとんどは完結したものの唯一まだ刊行が続いているのがこの「日本書紀研究」です。

先日刊行されたのが「第28冊」になりますが、「第1冊」が刊行されたのが1964年というので、もう49年も刊行が続いていることになります。
http://www.hanawashobo.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=4-8273-1501-9

当然、本を発注された先生もその間にお亡くなりになっています。
49年間、本を作る人、届ける人、買う人、読む人、すべて入れ替わっているはずですが業務はまだ継続しています。
この全集はもともと2~3年に一冊出るような刊行ペースだったようですが、私が引き継いだ頃から刊行ペースが空くようになり、前回の「第27冊」が出てから今回の「第28冊」が出るまでには6年半のブランクがありました。
さすがにお届け先の係の方もすぐにわからなくなっていると思い、事前に電話で事情を説明する必要が生じました。

6年半あいたこの全集の次の巻が出るのはいつのことだろう、その頃まで自分は本屋をやれているのだろうか、と配達バイクを走らせながら考えました。
同時にあの全集を28冊通して読んだ人はいるのだろうか、とも考えました。
おそらく日本全国でも数えるほどしかいないのだと思います。
それでもあの本は考古学・文献史学・民俗学・文化人類学の研究者にとって貴重な資料集なようですので、そういった研究をされる方が大学図書館の書架から手に取ることも少なくないのでしょう。

6年半あいた理由は長年この全集の編集をされた方が亡くなったことと、その方の追悼特集を組んでいたことが関係しているようです。
バトンは生きているんだな、と思いました。

父にこの本を届けるように命じた先生は早稲田大学名誉教授で考古学者だった滝口宏先生といいます。
私の宏之という名前は、この滝口先生から一字もらったという話を幼い頃から聞かされています。
仕事をすることは、あるいは生きていることは意識的にせよ無意識的にせよ受け取ったバトンを次の人間に回していくことなんだろうなという気がします。

 

○ランキング(2012/12/22~2013/1/22)

(一般)
1 聞く力 心をひらく35のヒント      文藝春秋
2 謎解きはディナーのあとで(3)      小学館
3 ’13 ぴあ新宿食本           ぴあ   
4 平25 神宮館九星本暦          神宮館   
5  間抜けの構造               新潮社    
6 八重の桜 前編              NHK出版
6 とびだせどうぶつの森 超完全カタログ   徳間書店
8 1904.能率手帳ポケット2(黒)    日本能率協会
9 とびだせどうぶつの森かんぺきガイドブック エンターブレイン
10100歳までボケない101のレシピ    マガジンハウス

(文庫)

1 木槿の賦 居眠り磐音江戸双紙42     双葉社  
2 夜行観覧車                双葉社    
3 散華ノ刻 居眠り磐音江戸双紙41     双葉社 
4 新約 とある魔術の禁書目録6       電撃文庫
5 植物図鑑                 幻冬舎文庫
6 僕は友達が少ない CONNECT     メディアファクトリー
7 万能鑑定士Qの短編集2          角川GP       
8 ビブリア古書堂の事件手帖3        メディアワークス
9 小袖の陰 御広敷用人大奥記録3      光文社文庫
10ホーンテッド・キャンパス         角川ホラー文庫

なんというか…データ出すと「やっぱりこういうのが売れてるんだなあ」って自分でも思いますね…。

   双葉文庫1・2・3フィニッシュってすごいな。佐伯先生二つ入ってますが。

 

☆「いける本・いけない本」&原発事故本レビュー

人文書版元のトランスビューが編集者や出版業界人に聞いたアンケートを基に作っている「いける本・いけない本」という小冊子があるのですけど、これが結構充実していまして。
ちょうど年末に入ってきたので内容は「2012年に出た本の総括」みたいになっているわけですが、その中で「いける本・いけない本大賞」を受賞したのがこの本。

○「東京電力」研究排除の系譜(斎藤貴男/講談社)

Photo

本屋的には正直「ああ…そんな本あったなあ」ぐらいの感覚でした。
で、読んでみました。

これがすごい。
すごかった。
直近で自分が読んだ本を出すと「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか?」と同じくらいすごい。
まず話を聞いた取材対象者の数が尋常じゃない。
あたった資料の量も尋常じゃない。
万城目学が東京電力の株主で、原発事故後に行われた株主総会に出席してその様子を「文藝春秋」にリポートしていたなんて初めて知りました。

東京電力という会社がどのような経緯で誕生し、どのような風土を会社として持つようになり、そしてなぜ原子力発電というものを選択していったのか、とてもよくわかるようになっていました。
読んでくとわかるのは電力会社というのはとにかく財界の中でも対国家という部分でも強いんだということと、電力会社の歴史とこの国自体の歴史は極めて近い相似形をなしている、ということで。
経団連にはいろんな企業が参加してますが電気を使わない企業というのはありえないわけで、言ってしまえば東電の電気料金の匙加減一つで経営が変わってしまう。
決して横並びにはならない。

そして東京電力の周りを覆っているぼんやりとした安全信仰と保守思考、言い換えると「まあ大丈夫じゃね?」「まあ今のままでいいんじゃね?」理論というのは完全に私たちの周りにもある空気なわけで、そんな空気の中で生まれたヒューマンエラーが人類史上最大級に出てしまったのがあの原発事故だったのだな、と思い当たり戦慄しました。

というのは私は自分の店の防火責任者なわけですが、消防署から予防についてのアレコレがあるわけです。
それは正直めんどくさいと思っている。
安全と手間のトレードオフというのはいつでもどこでも横たわってて、たとえば玄関の鍵は簡素であればあるほど出入りはラクだけど防犯面では不安が残る。
防犯面をしっかりすればするほど日常的な出入りは不便を強いられるし、コストもかかる。
だからある程度のところで「まあ大丈夫じゃね?」という判断をすることになる。

なので、福島第一原発が非常用電源に不安の残る形になっていたことや、津波対策が後回しになっていたことに対してそれ自体を責める気になれないのです。
多数の利害関係者による「まあいいんじゃね?」理論が働いていたわけで。
そこで危機感持って何か対策を打つようにするというのは、コストをかけて対策したところで何もなかったら「無駄なカネと時間使いやがって」になる。
だから黙る。
「まあいいんじゃね?」になる。

そのことがこんな最悪な事態を産んでしまったということについて、実のところこれから先の未来に人類がどうしていったらいいのかということについては有効な回答がないように思えます。
そんなことを考えさせられる内容でした。

そして原発事故時に「もしあの人たちが今も東電のトップだったら」と何度も俎上に上がった伝説的な経営者、木川田一隆と平岩外四の話を知り、社会で会社を張るとはどういうことなのか大変考えさせられました。

といった感じで本当に中身の濃い、すばらしい本なのですけど…売れてないんです。先日取り寄せて奥付見たら初版でビックリしました。
重版してないの!?って。

内容だけで言ったら3000円~4000円くらいの本を1995円で売ってるのに売れてない。
そのことに結構愕然としています。

本当にこれ、いい内容なので買ってください。
これだけ書いて売れてないのは本当に斎藤貴男が気の毒すぎる。

そういえば昨年のベストセラーランキングに震災・原発関連の本は一冊も入っていませんでした。
あんな歴史上に残るような出来事があったのに、それについて書かれた本がまったく売れていない世間の現実。
何かこの世間の現実といろんなリスクを放置されていた原発の状況が、自分にはそんなに遠くには見えないのです。

長々と書いてしまいました。
もし興味あったら次の本なんかもおすすめです。

○「原発危機 官邸からの証言」福山哲郎(ちくま新書)

Photo_3

当時の官房副長官がノートに残したメモを出して「当時官邸にはこのような情報が来ていてこういう状態だったのでこういう指示を出した」という状況と経過を記した本。
原発事故時の官邸の対応が「介入し過ぎ」と批判を浴びましたが、やはりそれは離れたところにいるから言えるのであり、中では全然違う状態が起きていたことがよくわかる本です。

○「4つの『原発事故調』を比較・検証する 福島原発事故13のなぜ?」日本科学技術ジャーナリスト会議/著 (水曜社)

Photo_2

「結局あの事故のときに何が起きていたか」というのは我々国民にはテレビ報道以上のものが伝えられてこなかったわけで、それを解析するために作られた事故調査委員会の報告に我々は期待しました。
ところがあまり知られていませんが原発事故調査委員会は「民間」「東電」「国会」「政府」と4つの委員会が作られ、それぞれに報告書を出しました。
その内容はどれも少しずつ違っていて、その上国民が本当に知りたかったことはどれもハッキリしない、ぼんやりとした表現に終わってる部分が多々あります。
この4つの事故調査委員会報告書を比較・検証し、その上で科学技術ジャーナリストが「ハッキリしていないことは状況から察するにこうだったのではないか?」というのをまとめた本。
今現在出ている中では事故の概要をつかむのに一番適した本の気がします。

 

そして次は信頼できる筋が大絶賛していた、

○「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」門田 隆将 (PHP研究所)

を読んでみようと思います。

読んだらまたコメント書きます。

(H)

January 11, 2013

Hello&Good-Bye

学生のうちはそうでもないと思いますが、社会人になるといろんな年代の人と話すようになります。
そうすると時々「同い年の有名人って誰?」という話が出てきます。
昭和49年生まれの私にとって同い年の有名人として真っ先に名前を出すのは松井秀喜でした。
甲子園で怪物のような活躍を続け最後は勝負すらしてもらえなかった松井を、ジャイアンツで落合や清原とともに主軸を打つようになった松井を、多少ホームランが減ったとはいえニューヨークでも同じように活躍し続ける松井を、いつも同い年のトップランナーとして横目で見ていました。

大学生の頃、同じく野球好きだった同い年の友人カズオ君とよく話したのは
「いろんな選手が引退していってそのたびに寂しい思いをするけど、一番寂しいのは同い年の松井が引退するときじゃないかな」
ということでした。
その時点で松井は年間30本塁打以上コンスタントに打ってバリバリ活躍していて、引退なんてものは先の先すぎてまったく見えなかった。
見えないからぼんやりと想像していました。

超満員の東京ドームで、きらびやかなカクテル光線の中、現役最後の打席に松井が入る。
悲鳴のような地割れのような大声援がドームに反響する。
打席に入るだけで球場のいたるところからカメラのフラッシュがたかれる。

引退試合の相手はプロ入り初ホームランを打った時と同じヤクルトスワローズ。
ピッチャーは…誰想像してたかな。伊藤智仁あたりかな。実際にはもう辞めちゃったけど。

試合はもちろん日本テレビが生中継。
もう消化試合なんだけど、この日は松井の引退試合だから試合終了まで生中継。

伊藤が投げたボールを松井が打つ。
ドーム全体で揺れるような大歓声。
打ったボールは右中間に飛ぶが、やがてセンターの足がフェンスの手前で止まり、落ちてくる打球をキャッチする。
一塁を回ったあたりで松井は歩みをゆるめ、肩を落とし、ベンチに帰っていく。そして万来の大拍手。

試合後、東京ドームのピッチャーマウンド付近に置かれたマイクスタンドに向かって松井が立つ。
長嶋茂雄は「わが巨人軍は永遠に不滅です」と言った。
原辰徳は「今日、私の夢は終わります。しかし私の夢には続きがあります」と言った。
じゃあ松井は何を。
何を言うんだろう。
『まついー!』『やめないでくれよ!』という観客の叫びの中で松井がいつもと変わらぬ調子で「えーみなさん」と朴訥に話し出す…。

15年くらい前、それは必ず待っている光景なんだろうと思っていました。
けど、そんな光景はやってこなかった。
松井は衛生中継されたニューヨークのホテルで、淡々と「もう野球ができない」と会見をした。
ウェットな感情を滲ませることも、強烈なメッセージを残すこともなく、自身の野球の経歴を振り返りつつ結論をハキハキと説明した。
そして「引退」という言葉はついに一度も使わなかった。

人生は長い。まだ終わりじゃない。むしろこれからの人生の方が長かったりする。

それはわかっていても、川の彼岸を同じように歩いていた日本で一番有名な同級生は2012年の終わりとともに目で見えるところから姿を消した。
自分の人生は2013年から第二期なんだな、と強く実感しています。
それぐらい松井秀喜は自分にとって大きな存在でした。

ありがとう松井。
おつかれさまでした。

「週刊ベースボール増刊・松井秀喜引退記念号」は明日1/12(土)発売です。

 

☆どんでん返し

結末でそれまで積み上げてきたものがガラガラと崩れ落ちるような小説ばかりを集めた「最後の最後でどんでん返しが起こる小説フェア」を始めました。
名作ぞろいです。

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売れゆきはどんでん返ししないで安定してほしいけど。

   

☆年末年始に読んだ本

○「冷血(上・下)」高村薫(毎日新聞社)

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すさまじい大作。
すさまじい質量の物語。
そしてすさまじくすっきりしない終わり方。
上下巻二段組の膨大な文章量を消化してなお体に残る不全巻。
話自体は極めてシンプルなのに延々と綴られる「人の心」についての長い長い思索。
それはある種不毛でありながら、不毛であるがゆえの生々しい真実味と、どこまで行っても人の心には手の届く底がない感じが表されていて、その虚無に読者はまた言葉を失う。
小説が届くことのない「人の心」に手を伸ばす最短のアプローチであるなら、容易な答えを提示しなかったこの作品こそがもっとも小説的ではないかと頭をよぎる。
「私たち一人一人にとって、世界を埋めるものは多かれ少なかれ異物なのだ」という言葉が重い。
目を背けても後ろから追いかけてきてのしかかってくる。
高村薫はなんて本を書くのだろう。

○「弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー」高橋秀実(新潮社)

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超進学校である開成高校の野球部が意外に勝つということで取材した高橋秀実のエンタメノンフィクション。
頭が良すぎるがゆえに「できない理由」を実に理屈っぽく話す生徒と、野球界の常識を外れた奇想天外なセオリーを教える監督の不思議な光景が高橋秀実のなんか肩の力が抜けた絶妙の調子で面白おかしく書かれます。

「一番いいのは15-0とかですね。負けたとしても15-12とかで。勝ったとしても2‐1や2‐0では喜べません」
「ギャンブルを仕掛けなければ勝つ確率は0%なんです。しかしギャンブルを仕掛ければ10%にすることができる」
「打つのは球じゃない!物体だ!」

といった次から次に出てくる青木監督の語録が面白すぎます。
これはぜひ野球マニアに読んでほしい。
日頃、野村克也の本なんか読んだりして野球理論に精通したズブズブのマニアほど脳みその裏をかかれます。

そして自分が中学生だったときもそうだったのですが…頭のいい奴って話めんどくさいよね。

  

☆PR誌

角川春樹事務所が発行している「ランティエ」というPR誌の2月号に目つきの悪い書店店長の写真と雑文が載っています。

http://www.kadokawaharuki.co.jp/rentier/

伊野尾書店にも置いてあります。

Photo_6

  

☆というわけで

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

(H)

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