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July 2012

July 30, 2012

開会式のポール・マッカートニーは華麗に見逃しました

いよいよ暑さが本格的に牙をむいてきたところでロンドンオリンピックが幕を開けましたが、書店的には発売当初はまるで売れていなかったオリンピック観戦ガイドが開会式が始まったくらいでようやく売れてきてホッと胸をなでおろしているところであります。
結局一ヶ月くらい前に出しても買われるのは直前なのね。

たまたま競泳の松田選手(北京オリンピックで銅メダル獲った方ですが)の本が入ってきたときにパラパラ中を見たのですが、松田選手のような世界トップクラスの競技者であってもプロ化していない競技の選手は常に「スポンサー」と「練習環境と時間」「所属する会社と雇用体系」という話が密接に関わってきて、ただシンプルに早く泳ぐ練習や準備だけに身を置けない様子が伝わってきて、あらためて「オリンピックをめざす」裏側にある厳しい現実に複雑な気持ちになりました。
四年前の北京オリンピックの時点で松田選手はミズノの社員で、ミズノの水着を着ないといけないのだけれど当時話題になったレーザーレーサーという水着で泳いだところ確実に早いタイムが出ることがわかり、しかし会社からは「オリンピックは絶対にミズノの水着で」と言われる場面は息苦しくなりました。

今回のロンドンではどんなドラマが生まれるんでしょう。
そしてその裏側に起きていた「もうひとつのドラマ」を書いた本がどれくらい世に出るのでしょう。
いろんな意味で楽しみです。

○「自分超え―弱さを強さに変える―」松田丈志/著 久世由美子/著 (新潮社)

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★衝撃の芥川賞受賞から8年

○「ひらいて」綿矢りさ(新潮社)

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周りに同姓の友達も異性の友達もちょいちょいいてまあちょっとぐらいは遊びつつも進学のもぬかりなくやってる高校3年生の女の子が同じクラスの男の子に恋をして…と思ったら。
恋愛の持つ甘い面よりグロテスクな一面がガッ!と提示させられていて、「なんだか綿矢りさは恐ろしい話を書くようになったなあ」と思わざるをえませんでした。

みんな幸せになろうとして恋愛をするけれど、みんな幸せになれるとは限らない。
そして幸せではなくとも、それが失敗ということではない。
そんなことを感じさせる小説です。

しかし、作家は誰でも自分の体験したことをそれなりに咀嚼して小説という物語の形で出していると思うのですが、そういう思いを発露して書いたのがこの「ひらいて」なら、りささん、あなたはいったい今までどんな恋愛をしてきたの?とすごく気になってしまうのですが、それはいつか私がりささんとどこかのバーで二人で酒を飲んだときに直接本人に聞きたいと思います。
って来るのかそんな日。
俺の宇宙はまだまだ遠い。

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(しかしこれ↑妙な生々しさがある漫画で…益田ミリはどうしてこう『ぼんやりとした不安』を描くのが上手いのでしょうか)

 

★今週どうしても紹介したいもう一つの本

○「月と雷」角田光代(中央公論新社)

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拾われるように男と暮らしては突然出ていき、また別の男と暮らすというサイクルを繰り返してきた女とその息子、その母子に人生を変えられたことを今に引きずる女の話。
角田光代にしては、あまり大きく話が動きません。
その分、後からジワジワきます。
「人生はなるようにしかならない」というテーマが読み終わった今も鉛のように胸に残ります。
過酷な人生。
平坦な人生。
おかしな親。
普通の親。
「みんな違って、みんないい」(@相田みつを)はずで、だからこそ自分の人生を生きられるんだけれど、その違っていることが時に苦しいこともある。
作中出てくる「人生のルールが一種類だったらいいのに」という言葉が印象に残ったのだけれど、それを踏まえてなお開ける「それでも人生はなるようにしかならない」という角田光代のメッセージが、読み終わってとても温かな気分にさせてくれます。
本当にいい作品です。

 

★来週から

いまだに雑誌「PINKY」の休刊を悔やむオシャレ女子S子による「おもわずとっておきたくなる装丁のキレイな文庫本フェア」(仮称)が始まります。
ご想像の通り、店長はあまりタッチしていないので書目はおろかタイトルさえうろ覚えです。
乞うご期待。

(H)

July 21, 2012

「希望って確か使い捨てですよ」(若槻千夏)

秋葉原連続殺傷事件の加藤智大被告が獄中で記した手記「解」(批評社)入荷しました。

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読んでると、話がまわりくどかったり、途中何を言ってるかよくわからない部分があったりしつつも、ある程度の国語力を持った、2ちゃんねるとかで何か書いてそうなごくごく普通のネットユーザーっぽい感じはあります。
なんでそうなるかな、という部分はありつつも「こいつおかしいわ」というのはありません。

一つ、事件につながる重要な要素になっているのにまるで世の中に伝わっていないこととして取り上げたいのは「加藤被告が極端に一人の時間というものを苦手としていた」という点です。
彼には学生時代も、そして就職してからも何人か親しい関係を持ったリアルな友人がいたようですが、「遊べば遊ぶほど終わりの時間が来て別れるのがつらい」といったような感情を書いています。
そして「誰かと約束していればその人とはつながっているが、約束がない状態ではその人とつながっているのかわからない」という不安を抱えていました。

彼の手記には「孤立」と「孤独」という言葉がよく出てきます。
「孤立」というのは社会との接点がない、本当にひとりぼっちの状態です。
一方、「孤独」というのはたまたまその時間一人でいるだけの状態で、社会との接点は失われていない状態。
加藤被告は「孤立」を恐れていました。
ちょっとしたトラブルで地元に帰りにくくなってしまった彼は地元の友達を失い、職場を放棄することで(これも彼の性格に起因するトラブルなのですが)職場の友人ともつながりを失った状態で、唯一「社会との接点」になっていたのがネット掲示板で、そこを荒らされた彼がどうにかやめさせようと考えた結果、「どうしたら掲示板で自分に成りすまして荒らす人間に心理的攻撃を与えられるか」があまりにひどい方向に暴発してしまったというのがわかります。

「なんで成りすましに心理的攻撃を与えることが大量殺人につながるのか」というのは…長くなるので手記を読んでください。
共感はしないけどわからなくはない。
そんな話が出てきます。

この手記を読んでて思ったのは、この手記とほぼ同時期に出た「風俗行ったら人生変わったwww」という2ちゃんねる発のネット小説(一応実話らしいですが)の主人公と加藤被告は紙一重でしか違ってないな、ということで。

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「風俗行ったら人生変わったwww」は29歳の年齢=彼女いない歴な自称不細工な男性が、意を決して呼んだデリヘル嬢(19歳)に恋をして、デリヘルとして呼んだにも関わらず何もしないでただしゃべったりしているうちに外でも会うようになり、いい感じになってきたところで実は彼女が元彼の借金のために働いていることが判明し、その元彼と引き離すために奮闘するも元彼はアダルトビデオのスカウトに借金をしていて、その借金のカタに彼女をAVに出演させるような契約を唯々諾々の彼女にのませていて、元彼はどうにかなったもののAVスカウトは海千山千の黒社会の人で大変困った状態になり、そこに主人公がネットで仲良くなったという若くして大金持ちのデイトレーダーの晋作君という友人が登場して彼が『闇金ウシジマ君』並みに力を貸して…という話なのですが(詳しくは読んでください)。

実は加藤被告も事件を起こす少し前に出会い系にアクセスしているんですよ。
で、そこで知り合った女性と実際に会って、結局何もしないでお金だけ渡して、そしたら「次はお金いらないから普通にご飯でも食べようよ」と言われてたりしてます。
当時無職の加藤被告は「その先につながるものがない」という理由でこの女性とはその後没交渉になるのですけど、なんか「風俗~」の話と紙一重だなあという印象は残りました。
まあデリヘルと出会い系で知り合った女性では微妙に違うのでしょうけど…。

私は去年読んだ「困ってるひと」以降、『どんな人生でも結局彼女かよ理論』というのを持っているのですが、もし加藤被告に彼女ができていればあんな事件は起こさなかったんだろうなあと考えると、つくづくこの出会い系で知り合った女性、それからネット掲示板で知り合って会いに行った複数の女性との話がターニングポイントというか、人生の岐路だったような気がしてなりません。

やんないでほしかったな、と思います。
同じく友達がいなくて寂しかった20代を送った人間として。

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★変な売れ方

Pop

というPOPを入ったときにつけてほっといた川上未映子「ヘブン」(講談社文庫)が例のいじめ事件が騒がれ出してからよく売れるようになりました。タイミングというかなんというか。

いろんな人がいろんなこと言ってますけど、基本的に私は部外者がああいうのにコメントするのはすべて「娯楽」だと考えてます。
その娯楽として言うなら、結局ヒマなんですよ。
子どもって。
ヒマだからそういうことするし。
やること、やりたいことで心が埋まってたらそんなクラスの異分子をつかまえてどうこう、って方向に行かないです。

あと自分に背負うものがない。あるいはないと思ってる。
背負うものがあれば当然ブレーキはかかります。何を背負わせるかはそれぞれですけど。

それと、いじめられてる側には逃げる受け皿がないしね。
もっと気軽にひょいひょい転校、ってか好きな学校に行って授業受けられるといいんでしょうけど。
無理に同じ学校に行かなくても単位が取れるシステムが理想ですけど、それ作るにはえらい金かかるんだろうし。
なんかみのもんたとかがやたら大津市長に噛みついてたそうですけど、「いじめ問題を解決するに当たって学校システムを大きく変えるから、その分の負担を富裕層中心の課税で賄おうと思うんだけど、あんなこと言ってたぐらいだからいいよね?」とか聞いてみたいです。
まあ、そうなったらなったで普通に抜け道探すんだろうけど。

テレビでワーワーやるのは悪趣味な点もあるけど、当事者たちのブレーキ装置になる面もあるんで、いいのだろうと思います。
ネットで加害者側の名前さらしたりとか一連のスネーク行為も悪趣味だけど、ブレーキ装置という面もあるんだろうし一概にいいとも悪いとも言えない。
意味無いのは新聞の社説ですね。
なんで新聞社のおっさんってのは上から目線が好きなんだろう。
まあその「上から朝日」「上から読売」っぷりを商材にしてそれで食ってるから仕方ないんですけど。
「いじめられてる君へ」みたいなの大好きだけど、絶対当事者目線に降りないものな。

ってなんか今日は四方山話に流れすぎですね。
本屋だから本紹介せんと。

 

 

 
★気になる本

○「父と息子のフィルム・クラブ」デヴィッド・ギルモア著/高見浩訳(新潮社)

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「学校に行きたくない」と訴える息子に、戸惑いながら「わかった。その代わり週三本一緒に映画を観て、感想を話し合おう」という提案をする父と子の物語。
なにかこの話自体が映画っぽいなあ、と思ってたら小説じゃなくてノンフィクションだと聞いて驚きました。
最初に見せるのが「大人は判ってくれない」というのはいいとしても、二作目でいきなり「氷の微笑」というのはすごいねお父さん。
まだ未読ですが近く読んでみたいと思います。

 

★気になる本2

○「クエーサーと13番目の柱」阿部和重(講談社)

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元写真週刊誌の記者・タカツキリクオは、謎の雇い主カキオカの依頼のもと「Q」と呼ばれるアイドルのパパラッチを行う、モニタリングチームの一員。最新機器を駆使し、綿密なチームプレイで最新のターゲット、ED(エクストラ・ディメンションズ)のミカを追い詰めてゆく。ところが、新たにメンバーに加わったニナイケントという男が少しずつ不審な動きを見えてきたのと同時に、チームのメンバーたちが次々と何者かの襲撃を受け始める。敵の正体もわからないまま、一転して追われる側になったタカツキが取った行動とは――!?

なんだか相変わらずすっとんでるなあ。
でも阿部さんはやっぱり小説書いた方がいいよ。
ってまだ読んでもないですけど。

 

★ニーチェの言葉より千夏の言葉

○「うそつきちなつ」若槻千夏(宝島社)

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私、若槻さんって「カレーライスは飲み物です」って発言とむかしヤンマガか何かのグラビアで散見した以外あまりよく知らなかったんですけど、これ読むとずいぶんいいこと語る人だったんですね。

Q、やりたいことがあるのになかなか行動に移せないときはどうしたらいいですか?

 

千夏「もしかしたらそれ、やりたくないのかもしれませんね」

 

Q、友人とのつきあいで大切にしていることは何ですか?

 

千夏「しょっちゅう会わないこと」

 

Q、楽しいこととつらいこと、どちらが多いですか?

 

千夏「気にしないこと」

惚れました。

(H)

July 10, 2012

AKBのドキュメンタリー映画を見ました

「プロレス好きの伊野尾さんなら面白いと思いますよ」と教えられて「DOCUMENTARY of AKB48 ~少女たちは傷つきながら、夢を見る」というAKBのドキュメンタリーを見ました。

いやーこれはすごいなーと思いました。
何がすごいって、これはプロレス同様、虚実の皮膜が極めて薄いということで。
たとえば新しいユニットのチーム4のリーダーの子がデビュー直前でスキャンダルを起こして(デビュー前に撮ったプリクラとかどうでもいいじゃねえか、とは思いますが)謹慎処分になり、その子が謹慎明けて戻ってくる場面がありますが、あれなんか完全に「カメラに撮られていることを意識しながらの無意識」なわけです。
よく簡単に「ヤオガチ論争」なんて言いますが、それで言うなら「本人はガチだと思い込んでいるヤオ」もあるわけで。
森達也の「ドキュメンタリーは嘘をつく」を地で言ってる作品だなーと思いました。
面白かったです。

そしてあらためて、アイドル産業ってのは「その辺にいる我々と同じ普通の人間をバラバラにして泣かせたり恥ずかしがらせたり怒らせたり喜ばせたり(本人喜んでない場合含め)する様子を眺めさせることでお金に交換する」仕事なんだなと思いました。
あそこに出てくる女の子たちは十代後半から二十代前半の女として人生でもっとも溌剌とした時間や、見た目や人格をランク付けされる恐ろしいまでの理不尽さを差し出して、その代わりにやはり交換不可能な自己承認感や使命感を得ているわけで、しかもそれは期間が限定されるという。

彼女たちがカメラの前でかけあっている言葉や感情は本当の意味での心の声から離れた、あくまで自己暗示的な虚飾のものだと思うけれど、その虚飾で慰撫される女の子たちを見ると圧倒されます。
歪んでいるけど、歪んでいるがゆえに美しい。
けどその歪みは間違いなく彼女らの心を蝕んでいるはずで、それから抜け出すために時にはドラッグやそういうものに向かってしまっても仕方ないだろうなあと思いました。

アメリカのプロレス団体・WWEの裏側を撮った「ビヨンド・ザ・マット」というドキュメンタリー映画があるのですが、あれと同じものを感じました。
リング上で父親がパイプ椅子でガンガン殴られているのを見た彼の子供が泣き叫ぶ場面が大変エグい、良質なドキュメンタリーです。
興味があったら見てください。

AKBから連想する小説って何だろうなあ。
あまり思いつかないんですけど、角田光代の「対岸の彼女」(文春文庫)とかでしょうか。

 

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全然アイドル関係ないストーリーですけど、「少女と少女」を描いた話の中では一番印象的です。
元モーニング娘。の飯田香織あたりが高橋みなみにこの本を送った、なんてニュースが出てきたらいろいろ深読みができて楽しいだろうなあ。

あとは湊かなえの「少女」(双葉文庫)とか。

 

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登場人物が「由紀」と「敦子」というのは単なる偶然だ、という話ですが。

 

◎最近の店頭写真

★「親がしんどい」フェア始めました。

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他のフェアと違った特徴として、並んでる本を手にとった人の立ち読み時間が長いということですね。
「わが家の母はビョーキです」(サンマーク出版)が一番反応あります。

 

★夏

ポストカード置いてます。スタッフが描いたイラストがすばらしい。

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★暑い季節はちゃちゃっとご飯

季節柄、早くできて保存がきく料理のレシピ本がチミチミと売れております。

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★色えんぴつ

で描けるスケッチ本。
一緒に水彩色鉛筆(水を入れると水彩画のように描ける)とミニスケッチブックを売ってます。
3点まとめてお買い上げいただくと合計3079円→2880円とお得な価格になっております。外に出かけるのにだるい日にぜひ。

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★6月セールスランキング

<一般>

1  置かれた場所で咲きなさい  幻冬舎
2  聞く力 心をひらく35のヒント   文春新書
3  夜の国のクーパー    東京創元社 
4  ダース・ヴェイダーとルーク(4才)  辰巳出版
5   ’12 夏ぴあ 首都圏版  ぴあ
6  寝るだけ!骨盤枕ダイエット  学研マーケティング
7  魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿  講談社ノベルス
8  楽園のカンヴァス   新潮社 
9  ミツカン社員のお酢レシピ  幻冬舎
10  「東京電力」研究 排除の系譜   講談社

<文庫>
1  秋思ノ人 居眠り磐音江戸双紙  双葉社
2  ビブリア古書堂の事件手帖(3)  メディアワークス文庫
2  贖罪  双葉社 
4 1Q84 BOOK3 後編 10月-12  新潮社
5  アリアドネの弾丸 上  宝島社
6  アリアドネの弾丸 下  宝島社
7  1Q84 BOOK2 前編 7月-9月  新潮社
8 1Q84 BOOK3 前編 10月-12  新潮社
8  無理 上  文藝春秋
8  時間を忘れるほど面白い雑学の本  三笠書房
8   僕は友達が少ない(8)  メディアファクトリ―文庫

「置かれた場所で咲きなさい」が入ったそばからなくなっていきます。

(H)

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