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September 2006

September 26, 2006

あたりまえのこと

Utsukushiikuni

夕飯の時間になったからさて夕飯を食べるかというぐらいの感覚で、実に普通に安倍晋三新総理が誕生しました。
最初は猛烈な期待を負って登場し、次第によくわからなくなり、最後はもうどうでもいいや的雰囲気になった小泉政権から「闘う政治家」(by 『美しい国へ』)になってどうなるんだろうという期待感もありつつ、まあ今の状態が少しずつ進んでいくんだろうなという冷めた感覚も同時にあります。

「戦後生まれの初の首相」という言葉がニュースに出ていましたが、十把一からげに『団塊ジュニア世代』とくくられる世代の人間からすると「何だまだいなかったのか」という感覚が先に来てしまいます。
総裁選では敗れましたが麻生太郎氏はコミック通であるようで、『ダ・ヴィンチ』かどこかで好きな作品に「ベルセルク」を挙げておられました。
「オタク心を理解する総理」が誕生する日もそう遠くないかもしれません。

さて、夏休みの終了ととも「大人のための課題図書フェア」は引き上げ、ただいま「仏教フェア」を展開しています。
「なぜ今仏教?」かと言えばそれは「政治的理由」としか申し上げられません。
安倍総理の話はそういうマクラです。

仏教というと非常に堅苦しく、かつ普段の生活からかけ離れた存在に感じる方も多いのではないかと思いますが、小泉吉宏「ブタのふところ」(メディアファクトリー)はコミックの形をとっていながら、非常に内容の詰まった作品です。
Buta


まえがきで悩みの糸にからまった主人公・シッタカブッタを助けてやりながらブッタ先生は言います。

「あたりまえのことをあたりまえに思わなくする心のクセが糸をからませる。あたりまえのことをあたりまえに思わなくするものの見方や心のクセをひとつひとつ見ていけば、こんがらがったものの見方や悩みを少しずつほぐしていくと思うぞ」

本当かどうかは、この本をご覧になって確かめてみてください。

たぶんちょっとだけ気持ちがサッパリするような感覚になっていることと思います。


(H)

September 22, 2006

「リンダリンダラバーソール」外伝

消えゆく記憶を手繰りなおしてみる。
そういえばあの頃、光GENJIがものすごく人気だった。
教室で語られていたのは、「ドラゴンボール」「ジョジョの奇妙な冒険」とファミコンの話題だった。
僕は中学1年で、演劇部に入っていた。

秋の文化祭の時だ。
毎年恒例の文化祭公演を終えて、わが演劇部員たちは控え室としてあてがわれた講堂準備室で思い思いに解放感にひたっていた。
そこへひとりの先輩がどこからかCDラジカセを持ってきた。
先輩はあるCDの、それも一曲だけを何度も繰り返し再生した。

―ドブネズミみたいに 美しくなりたい―

―写真には写らない 美しさがあるから―


それが僕の最初のロック体験だ。
翌年、生まれて初めて買ったCDはブルーハーツの「TRAIN-TRAIN」だった。


中学3年の冬、幼馴染の友人にプロレス観戦に誘われた。
元全日本の大仁田厚が作った「FMW」という団体だった。
ロープに張られた有刺鉄線で全身を血まみれにした大仁田は試合後、
「僕はプロレスが好きなんです。僕にプロレスをやらせてください」
と涙ながらに叫んでいた。
それから、僕はFMWを見に行くようになった。

ある時、FMWを見に行った帰り際、後楽園ホールの入り口でいっしょにいた友人が小さく声をあげた。
彼いわく、有名人をみつけたらしい。
僕はその人のことを知らなかった。
友人はすいません、サインしてもらえますか、と臆面もなく彼にお願いしにいった。
黒いコートを羽織り、ハンチング帽のような黒い帽子をかぶった大柄のその男の人は、うん、だか、ああ、と生返事をして、サラサラとサインをした。
よくわからないまま、隣にいた僕もサインをもらった。
たまたま手にあったプロレスのチケットの裏に書いてくれという、今思えば無礼極まりない要求であっても、彼は無表情にサインをしてくれた。
カメラをもっていた友人はなおも「写真撮らせてもらえませんか?」と新たな要求を突きつけたが、「それはちょっと」と彼はやんわり拒絶した。

帰り道、なんだかわからないが友人は上機嫌だった。
サインをもらえたことがよほどうれしかったのか。
けれど飯田橋の路上で彼が歌っていたのはJUN SKY WALKER(S)の「白いクリスマス」だった。
サビの高音部の声が出ない不恰好なBGMを聞きながら、僕は間近に迫った期末試験のことが気になり憂鬱だった。

今から17年も前の話だ。


あれから大仁田は過激な試合と泣きを売り物にし、「涙のカリスマ」と呼ばれた。
引退と復帰と強引な話題作りを繰り返し、選挙に出馬し議員になった。
彼の言動に心動かされるかつての私のような若者は、今はそう多くない。

FMWは2002年に倒産した。
FMWを心の拠り所にしていたファンやレスラーは、いまだに安住の地を見つけられず彷徨っているように見える。

ブルーハーツは解散し、主要メンバーで新たに結成されたハイロウズも解散した。
甲本ヒロトと真島昌利はザ・クロマニヨンズというバンドをまた新たに結成した。
講談社の新雑誌「KING」で「若者に一言メッセージを」というコーナーに登場したヒロトは「何もない」と答えていた。

ブルーハーツが好きだった先輩のその後はわからない。
ジュンスカを歌っていた友人の近況もわからない。
先輩にしても友人にしても、中学生だった私が今は本屋の仕事をやってて、その上こんなものを書いてるとは、きっと日々の生活に追われて考えもしないだろう。

思い出はすべて、夢みたいなものだ。
今となっては本当にあったことなのかすらハッキリしないまま、頭の隅で霞がかっている。
まるで読み終わった本のことを考えるように。

大槻ケンヂの「リンダリンダラバーソウル」には、かつて確かに自分がいたはずの時代のことが、明確な情景と少しの寂しさを織り交ぜてハッキリ描かれている。
最初にこの作品を読んだ時、ちょっと驚いた。
まさか、あの時FMWの会場で、よく知らないままサインをもらった人がこんな小説を書くだなんて、と。

実家のどこかの引き出しには、イラストだか字だかわからないいいかげんな筆跡で「おーけん」と書かれたチケット半券が確かにある。
後楽園ホールにいたオーケンの隣には、コマコもヒロトもいなかった。
拡散した思い出を抱えたまま、人は皆今日も現実を生きている。

Lindalinda

(H)

September 18, 2006

特別な日

みなさん「夜のピクニック」はご存知ですか?
全国の本屋さんが一番お客様に薦めたい本として第2回本屋大賞を受賞した作品です。ちなみに第1回は「博士の愛した数式」第3回は「東京タワー」という2作品に囲まれた作品なわけですが、「夜のピクニック」はちょっとこの2作品よりは知名度が低いのかなぁと感じます。
しかし知名度で決めないで欲しい!
私は3作品とも読みましたが「夜のピクニック」が一番好きです!

夜のピクニック/恩田陸
Yorupiku

みんなで夜歩く、それだけのことなのに
どうしてこんなに特別なんだろう

1年に1度、1000人で一緒に24時間夜を徹して、80キロを歩きとおす伝統行事「歩行祭」。生徒たちは夜にも目立つように白ジャージに身を包み打ち明け話に花を咲かせたり、意中の相手に告白をしたり、思い思いに一夜を過ごす。今年で最後の歩行祭を迎える甲田貴子は、この歩行祭の間に、密かに賭けをしようと思っていた。一度も話したことのない同じクラスの西脇融に話しかけるということ。そんな簡単なことができない、親友にも言えない特別な秘密が二人にはあった。そんな貴子の思いを知らず、クラスメイトの大半が貴子は融のことを好きなのではと勘違いをしている・・・。

私は恩田陸さんの文章すごく好きなのですが、この作品にいたっては
恩田さん実際に24時間歩いたことあるんですか??
って言いたくなるぐらい登場人物の気持ちの移り変わりが鮮明に描かれています(>U<)☆
この作品の高校は修学旅行のかわりに歩行祭があるという設定で、
確かに修学旅行は私にとってすごく特別な行事で、普段話さないようなことまでつい話しちゃったり、いつもより大胆なことができたりしたなぁと読み終わってから自分の18歳のころを振り返ったりしました。
大人になると修学旅行のような特別な行事はなくなってしまうわけで、
もう一度「同窓会旅行」とでも題して修学旅行に行きたい気分です。
でも社会人になるとそうもいかないですよね・・。しかもみんななんだか小さくまとまって18歳のころの大胆さはなさそう(笑)

「夜のピクニック」は映画化されるのですが、ちょっと面白い企画で
「ピクニックの準備」という登場人物それぞれの歩行祭前夜の話がDVDになっています。本を読み終わった私もすごく気になる・・本や映画の前に観るか、後に観るか、そんな選択も楽しみの一つですよね。

September 09, 2006

能力

久しぶりに本屋さんの仕事について何か書こうかなと考えていたら、
自分がすっかり本屋さんに馴染んでいて、昔に比べたら何が珍しい仕事なのかよく分からなくなっていることに気付きました(+_+)ちょっとショック。
初めの頃はすごく楽しいと思っていたのが、コミックなどをラッピングする機械で
コミックにお客様の敵(?)であるビニールを付ける作業です。
こんなこと裏ではしてるんだ~と大感激☆
どれだけ漫画大好きでもビニールについては無関心だったなぁとあらためて思いました。
ビニールの袋に漫画を入れてコンベアにのせて
熱でビニールが縮んでキュッとコミックを包む感じがたまらないです。
また手本を見せてくれたべてらん書店員さんのビニール掛けの速いこと・・
またまた大感激!小学生の社会見学でスーパーのマグロがビニールでラッピングをされる瞬間を見た時と同じぐらい興奮したかもしれません。私はこういう地味な作業大好きなんですよ。内職とか大好きです。
あとは自分の手でもビニールの袋をつけることがあります。サイズに合わせて折り曲げてセロハンテープでとめて、キレイに出来た日には「見てこのビニール!」みたいな気分になります。笑
どんなに小さい頃から漫画が好きでも絵が上手でもなく、
どれだけお話を読んでも文章を書く能力が発達したわけでもなかったけれど、
こんな地味な作業を楽しんでやることができる才能はどうやらあったみたいです。笑
バンザイ本屋さん!
みんなどんなに才能がないと思っても必ず人より優れた所があるんですよね。
でもこんな能力いらなかったのにーなんて思う人も時にはいますよね・・??
そんないらない能力をさずかってしまったおばかな少年の話「花田少年史」を紹介したいと思います。

「花田少年史」一色まこと
Hanada

ある日、事故をきっかけに霊と話が出来るようになってしまった花田少年。
霊の方も成仏するために唯一話が出来る花田少年に死ぬ前にやり残したことを
どうにかしてやってもらおうと必死。花田少年は霊がみえることを誰にも信じてもらえないし(普段の行いが悪いから)幽霊は怖いし、自分の能力を嫌うんですが、優しい心を持ってるので幽霊が可哀相で毎回うっかりお願いを聞いてあげてしまうのです。そんな花田少年と霊たちのおくる笑いあり涙ありの爽快ストーリー
映画化にもなっているので大注目です!

ともかく面白いです☆一色まことの作品には「ピアノの森」という漫画もあるのですが、この人の作品は本当に登場人物に魅力があります。ぜひ手にとって見てください。


September 07, 2006

青い空の真下で

もう舞台や映画、ドラマなどに何回かなっている今井雅之の「THE WINDS OF GOD」(小説版は角川文庫から発売中)が海外向け作品として再映画化されました。

Thewindsofgod


もとの話は「アニキ」と「キンタ」という二人の売れないお笑いコンビが交通事故のショックで昭和20年8月の特攻隊員に乗り移ってしまうという話です。
タイムスリップと輪廻転生をドタバタなコメディとして描く前半部と、戦争と命を問うシリアスな後半部のコントラストが非常に鮮やかな作品で、初めて映画を見た時に感じた、それまで読んできたどんな戦争ノンフィクションよりも胸にグサリと来た感覚は12年たった今でもはっきりと思い出すことができます。
(エンディングでかかるブルーハーツがまた…)

「THE WINDS~」再映画化と歩調を合わせるように、ベストセラー作家による「戦争、若者、特攻」をキーワードにした小説がほぼ同時期に文庫化され、映像化されることになっています。

平成の「他人を見下す若者」なフリーターと戦時中の航空隊員が入れ替わってしまう荻原浩『僕たちの戦争』と、甲子園優勝投手が野球を捨て海軍の特攻作戦に志願していく『出口のない海』の2作品です。

Bokutachinosensou  Deguchinonaiumi

この2作品はともに操縦士もろとも敵艦に突っ込む人間魚雷「回天」に搭乗する若者を描いています。
これまでの特攻を描いた小説によく見られた主人公の苦悶や葛藤といった濃密な心理描写より、当たり前の普段の生活に入ってくる戦争とそれによって変えられてしまう青春がそこにあります。
(『僕たちの戦争』では戦時中と現代の若者が入れ替わるという設定で時代そのものを描いている部分もあります)

靖国問題、A級戦犯、戦争責任。

戦後60年を過ぎた今も、いろんな人がいろんなことを言います。
多面的に見られるようフィルターを多く持っておくことは損なことではありません。
フィクションでも、ノンフィクションでも。

「THE WINDS OF GOD」を含めた3冊、揃えて文庫棚に並べてあります。


(H)

September 02, 2006

無人島に持って行きたいコミック

新潮文庫から大槻ケンヂの「リンダリンダ・ラバーソウル」が出たので次のブログはこれを書こうと思ってましたが、夏休みも最後の8/31に新井英樹の「ザ・ワールド・イズ・マイン」が加筆修正され新たにエンターブレインから「真説ザ・ワールド・イズ・マイン」として愛蔵版サイズで出たので、急遽変更します。

Theworldismine1 Theworldismine2

「ザ・ワールド・イズ・マイン」は1997年から2001年まで小学館「週刊ヤングサンデー」にて連載されていた作品で、始めのうちはやたら爆弾だ強盗だ巨大ヒグマだと現実離れしたものが出てくるストーリーなので今でいう「日本沈没」的なパニック漫画かと思っていました。
しかし全14巻の単行本でいう4~5巻あたり、具体的には連続犯罪を犯したトシの母親がメディアと市民の狂騒によって自殺してしまう当たりから通常の漫画とは明らかに違う、何かただ事ではない作品かも、という印象が出てきて、巻数を追うごとにその思いは強くなり、最終話まで読み終えると「これはとんでもない漫画だ」と確信するに至ったのでした。

もちろん、当時私がそう思った背景にはそれまでの貧弱な読書体験がありますので、どの人が読んでも必ず面白いとも断言できません。
「あー、○○と似てるね」「そんなたいした話かあ?」で終わるかもしれません。

万人に向かっておもしろいですよ、と言える作品ではありません。。
しかし、たとえどんな評価を下すのであれ、長い人生のうちに一度は読んでほしいと思える作品です。
それだけの価値がある作品だと思います。
正直言うと、同じ時代を生きたすべての人たちの間に共通体験として「『ザ・ワールド・イズ・マイン』を読む」というのを持っていてほしいぐらいです。
何十年かして「ああ、イチローはすごかったね」とか「ワールドカップ、いいとこまで行ったよな」「あー俺も買ったよ、iPod」というような過去を振り返る話題になった時に「あー読んだ読んだ、『ワールド』」というような会話が出てくるくらいに。

…無理だろうな。
その座にいるのは「ハリポタ」か、「セカチュー」か、あるいは別の本か。

「真説ザ・ワールド・イズ・マイン」は全5巻で刊行、現在1、2巻まで発売されています。
加筆修正されてどこが変わったか。
どこまで変わったか。
残り3巻を読むまで、死ねなくなりました。

(H)

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