November 14, 2021

「家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像」インベカヲリ☆

Dsc_21252

○「家族不適応殺   新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像」インベカヲリ☆(角川書店)


2018年6月に走行中の東海道新幹線の車内でナタを振り回して乗客の男性一人を殺害、乗客女性二人に重軽傷を負わせた小島一朗を数年間取材し続けたカメラマン(ライターもしてるそう)によるノンフィクション。


小島は動機を「刑務所に入り、生涯をそこで送ることが理想。無期懲役にしてほしいので、そうなりそうな罪を犯した」と話し、裁判で無期懲役が宣告されると法廷で万歳三唱した。


インベは「刑務所暮らしこそが理想」と思うに至った小島の思考を本人との手紙のやりとり、面会、そして家族のインタビューから解明しようと試みるが……。



とても評価の難しい作品だと思った。


インベは事件を知って小島に興味を持ち、対話を重ねるが次第にその熱量が薄らいでいく。

ひとつは小島の話す内容が時に意味不明であったり、ものすごく細かいところに執着されて(小島は幼少期からADHDの宣告を受けている)取材にストレスを感じたりというのもあって、端的に厭になっている。後半は取材協力した棚橋という女性の方が前に出る。



最初のうちは理解に務めようとしていた小島に対しても、後半はどんどん冷めてくる。

なので「小島がどうしてそう思ったか」はだんだん置き去りされ、インベ自身の判断で否定したり理解を拒否したりする。

俯瞰した「なぜそういう人間が生まれ、そういう事件が起こったのか」の観察よりも「私が取材した殺人犯とその家族」の「私」を押し出す部分が強く、そういうノンフィクションだとしてわからなくはないが、ちょっと読んでて「私」の強さに胸焼けする。


一方で小島にもっとも再接近した手記であることは間違いなく、生育環境から思考回路(理解できるかはともかく)まで、よく当たったな…と感心する。

特に最後の最後で取材に成功した母親との会話は、ある種この事件の回答でもあり、すべての答えだったようにも思える。

ただそれについても私が一番「うわっ…!」とした言葉をインベはそれほど引っ掛かかってないようで、どこまで行っても人の心を読み解く難解さを象徴しているように思える。



2008年の秋葉原連続殺傷事件の加藤智大以降、無差別殺人の犯人は前歴前科のない「普通」の若い男が多くなっている。


その防犯のためにやることは警察の増強ではなく、広い意味での福祉のなのかな…と思った。


ただ、殺人以外ではごくごく常識的な気遣いができる小島一朗という男が、無期懲役を得るための方法として『密閉された電車内での無差別殺人』という方法を取ったことに、後のいろんなところに与えた悪影響を含めて本当に怒りを覚える。

(H)

November 13, 2021

「月夜の森の梟」小池真理子

Img_20211113_180454_358

 

 

「年をとったおまえを見たかった。見られないとわかると残念だな」

(亡くなる直前の藤田宜永の言葉)

 

○「月夜の森の梟」小池真理子(朝日新聞出版)

 

 

夫で小説家の藤田宜永の肺に腫瘍が見つかって亡くなり、喪失と向き合いながら独りの時間を送る日々を描いた小池真理子のエッセイ。

 

夫妻は軽井沢に住まわれていたため周囲の自然に関する話が多数出てくるが、その多くが夫を亡くした悲しみにつながっていく。

時に抑えて、時に感情を高ぶらせて藤田氏の思い出や一人になった今の心境を描く。

こう言ってはなんだが、「人間の悲しみをこれだけいろんなバリエーションで表現できるのか」という発見が強かった。

連れ合いを喪う悲しみは結婚した人の多くが共有できるものであるが、それであってもなお当人にしかわからない悲しみが厳しく存在する…ということを考えた。

 

悲しみに暮れる小池さんはある日、「そうだ、夫に言われて嫌だったこと、腹が立ったことを思い出そう。そうすればだんだん『なんだ一人になってスッキリしたじゃないか』と思えるはず」と考え、藤田氏に言われた嫌だったことを思い出す。

いろいろ思い出すうちに悲しみの柔らかい気持ちがとげとげしい気持ちになっていく。けどそれは長続きせず、だんだんと楽しかった思い出の方が数多くあったことに思い至っていく。

 

感情は変わる。

時間は過ぎる。

 

それでも人生は続くから、小池さんの感情や思いもこれからまた変わっていくのだろう。

どうか、そうあってほしい。

この本には「大事な人を喪い、行き場を失った深い悲しみ」が描かれるがそれが出せるのもまた今しかない。

そして病が進行するに従い、自分のことで手一杯だったはずの藤田さんが発する言葉が胸を打つ。

自分が同じ立場になったら、こんなことを妻に言えるだろうか。

 

人の感情の深さを実感する本。

 

 

「たかがパンツのゴム一本、どうしてすぐにつけ替えてやれなかったのだろう、と思う。どれほど煩わしくても、どんな忙しい時でも、三十分もあればできたはずだった。

家族や伴侶を失った世界中の誰もが、様々な小さなことで、例外なく悔やんでいる。同様に私も悔やむ」

November 01, 2021

【こちらの受付は終了しました】伊野尾書店1万円選書2021年秋 受付のお知らせ

(2021.11.8 16:50追記)

1万円選書2021年秋分のお申し込み受付を終了しました。

お申し込みいただきました皆様、ありがとうございました。

ご当選された方々には個別に連絡させていただきました。

今回こちらからご連絡がなかった方は申し訳ありませんが次回またお願いいたします。

次回の1万円選書は2022年1月受付の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

伊野尾書店ではお客様にアンケートを行って、その解答に沿ったおすすめ本を予算1万円でお送りするサービス「1万円選書」の第二次受付を行います。

以前ご案内した際にはご希望の方に順番待ちしていただき、お申し込み順が後の方を結果的に長期間お待たせしてしまうことになりました。

今回は抽選制で行います。

 


当店の1万円選書は下記のような流れで行っています。

 

1、抽選で当選されたお客様に最初にアンケートをお送りします。

アンケートはお持ちの本、好きな作家や本、ご職業や最近関心あることなど個人的なことについておうかがいします。


2、いただいたアンケートを参考に、だいたい10冊前後の本をご提案させていただきます。

もしお持ちの本がありましたら、別途「次点本」としてリストアップした本の中からお選びください。
「1万円選書」という名でやってますが実際には1万円に届かなくても(少なかったとしても)大丈夫です。


3、お支払い金額はは本代+送料+選書料(1000円)となります。
送料は全国一律900円(税込)です。(だいたい小さいダンボール一箱程度)


4、恐縮ですが事前振込制でやらせていただいています。(振込手数料ご負担お願いしております)

金額が確定次第ご連絡しますので、お振込が確認できたところで発送となります。

 

以上の流れでよろしければ、下記URLより申し込みのご応募お願いします。


伊野尾書店1万円選書申し込みページ
https://ws.formzu.net/fgen/S74832872/

 

今回の募集は

・11月下旬選書分(3名)
・12月上旬選書分(3名)
・12月下旬選書分(3名)

となります。
時期の希望は選べませんので、ご了承ください。


「2021年秋」分のお申し込み締め切りは11/7(日)です。
お申し込みいただいた方の中から抽選を行い、ご当選の方には11/8~11/9の間でご連絡させていただきます。

恐縮ですが当選の方にのみご連絡となりますので、ご連絡がない場合は次回受注をお待ちいただければ幸いです。

何かご不明点あればこちらまでお問合せください。
inooshoten@gmail.com


お申し込みお待ちしております。

October 31, 2021

「プロ野球『経営』全史 球団オーナー55社の興亡」中川右介

Dsc_20092


○「プロ野球『経営』全史   球団オーナー55社の興亡」中川右介(日本実業出版)


プロ野球の誕生から現在に至るまで「どういう人間が、どういう企業が球団を持ってきたのか」を時系列でたどった本。

明治時代に鉄道技術と同時に国内に持ち込まれた野球という競技がプロ化し、「野球してお金取るなんて…」と眉を潜められた黎明期から戦後少しずつ土台を作っていき、新聞が多かった球団オーナーは時代で映画会社が増えたり食品会社が増えたりしつつ、現在はIT会社が多数参入している。プロ野球球団を持つ企業の歴史はそのまま日本経済の歴史の一側面になる。


プロ野球は多くの人々が見る産業であるから、企業としてそこに参加するのは大きな宣伝効果があり、一般からのイメージアップになる。

オーナー本人に野球への関心や興味がなくても、企業活動とすれば魅力に映る。


そして2004年の球界再編は経営側が進めた道筋が現場の反発や堀江貴文の予期せぬ出現でだいぶ変わったんだな…とあらためて実感する。

あのとき、堤義明が漏らした「ロッテとダイエーの合併が進められている」が実現していたら、今頃どうなっていたのだろう。

とりあえず和田康士朗と荻野貴司が盗塁王を取ることはなかった気がする。


プロ野球の歴史を見るとだいたい20年に1度くらい大きな転換期が出てくる。

2004年を起点とすると、あと何年かで20年にさしかかる。


(下記本書から抜粋)


p66

「1930年秋、市岡は早大野球部監督を辞めて読売新聞社に入った。こうして市岡が読売新聞社に入ったことで、巨人軍が生まれるのだ。

もし阪急が宝塚運動協会を維持し、小林十三が考えたように阪神など関西の鉄道各社が球団を持っていれば、プロ野球は読売中心主義ではない別の歴史を持つことになったであろう」


p73

「(虎ノ門事件について)内閣が総辞職するほどの大事件である。警備責任者もただではすまない。警視総監・湯浅倉平と警視庁警務部長の正力松太郎は懲戒免職となった。

読売新聞が経営危機にあったとき、正力松太郎は失業した。この偶然が日本野球史を変える。野球だけではない。新聞の歴史も、戦後のテレビの歴史、原子力の歴史も変えていく」


91

「正力は『プロ野球は儲からなくていい』と慈善事業であるかのように語っているが、それは表向きで、裏では読売新聞社は儲けていた。読売新聞は巨人戦を中心としたプロ野球を報じることで売上を伸ばしていったので、トータルでは儲かる。だが他の球団はそうもいかない。後に多くの球団が慢性的な赤字体質になるのは、出発点での正力の姿勢に問題があった」


364

「1977年、西武鉄道グループは埼玉県所沢市にあったアマチュア野球用の西武園球場をプロも使える本格的な球場に改築する計画を立てていた。さらに系列のプリンスホテルに社会人野球チームを結成させることも決めていた。堤(義明)はプロ野球の公式戦を新球場に誘致できると簡単に考えていたようだ。だが、かなり難しいことを知った。このままでは一年の大半を遊ばせておくことになってしまう。

そこに、福岡野球の中村長芳からライオンズを買わないかとの話が持ち込まれ、堤は乗り気になった」


「中村は政界ルートで堤がプロ野球に参入したがっているとの情報を得た。中村は岸信介に連絡し、岸は派閥後継者で当時首相の福田赳夫を通して、堤に『ライオンズを買わないか』と打診した。ついにプロ野球球団の譲渡劇に現職総理大臣が登場する」

October 25, 2021

11月の営業につきまして

〈11月の営業につきまして〉


11/3(水・祝)は従業員リフレッシュ休暇として休業日とします。


ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。


11/23(火・祝)は11:00~19:00で営業します。

«西加奈子「夜が明ける」