September 09, 2020

「武漢日記」方方

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〇「武漢日記」方方(河出書房新社) 

今年1月、新型コロナウィルス蔓延によって都市封鎖した中国・武漢。
その武漢在住の作家、方方(FangFang)氏がロックアウトが始まった直後の1月23日から封鎖が解除された3月24日までの60日間、自らの生活と街の様子を日々つづったブログの書籍化。

得体の知れない事態が進行している不安、買い物すら行けなくなったことへの焦り、マスクが買えずに焦る気持ち。
超満員の病院で患者が追い返されたことや、初期の発見を見過ごしたことを責任転嫁する医師や、対応に動かなかった役人への怒り。
ネットから入る情報に一喜一憂し、隣近所の人たちと不安や情報を共有する。
長期化するに連れ、家から出られない苦しみ。

ここには歴史的な災厄の中でなんとか日々を生きようとする、市民の小さな出来事が書かれている。


家にいる人たちに野菜が配られる「愛心菜」のシステム、それぞれが家で見た動画の話、近所の人たちとの『どうなるんだろう』という何気ない会話、すべてに生活感があった。
隣近所の人と心理的な距離が強く、この感覚は日本の地方都市と似てるな…と思った。

けど明確に違う部分もある。

封鎖16日目、最初にSNSにコロナウィルス蔓延を告発し、やがて自分もウィルス感染した武漢の医師・李文亮が亡くなると、ある市民がこう大声で叫んだという。

「李文亮の家族と子供は、我々武漢市民が面倒をみるぞ!」

その夜、李医師が亡くなった時間に人々は電気を消し、懐中電灯やスマホで空に向かって一束の光を送り、口笛をかき鳴らしたという。

この発言、この行動は日本人からは出てこないように思える。


そしてもう一つ、日本と決定的に違っていること。

それは「ネットに書いたことが突然消されることがある」という中国の状況だ。

著者の日記にはしばしば「昨日の日記は消えていなかった」という記述が出てくる。
つまり、中国当局にとって都合の悪い情報はある日いきなり削除されるのが当然の世界で、ネットで「発言」する者は絶えず「これも削除されるのだろうか?」と警戒心や不安感を募らせている。

この点が日本とはまったく違う。


新型コロナウィルスは収束の目途がつくこともなく、今日も多くの感染者を出している。
自分も含めて、皆そのことに少し慣れてきてしまっている。

だからこそ最初の頃はどんな状況だったのか、わからなくなる。

この「武漢日記」は貴重な記録だと思う。

 

 

※中国当局は当初「武漢日記」を「文学性の高い記録」としていたが、海外版が翻訳されるにつれて「米中間で新たな外交問題になる」として方方氏を『売国奴』と攻撃する姿勢に転じた。
方方氏は一点、「お前は欧米諸国が中国を攻撃するための弾を与えているんだ」とネット上で非難を受けるようになり、「殺害の脅迫を受け、自宅の住所をネット上で晒された」という。

その方方氏は、ブログを攻撃してくる人へこのようなメッセージを送った。

「世界をあなたが侮蔑してる人に譲り渡してはいけない」

September 05, 2020

9月連休の営業につきまして

 

伊野尾書店は9/21(月・祝)をお休みします。

連休が下記のような営業時間となりますので、よろしくお願いいたします。


9/20(日)、21(月・祝) 休業

9/22(火・祝) 11:00~19:00 営業

August 25, 2020

宇佐美りん「推し、燃ゆ」


河出書房新社より9/11発売予定の

〇宇佐美りん「推し、燃ゆ」

を読む。


http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309029160/


面白かった。


ある男性アイドルを“推す”ことに命を燃やす女子高校生の話。

推しのイメージカラーに部屋を統一し、推しを眺めて日々を生きる生活で、ある日「推しがファンの子を殴った」と報道され、炎上する。

SNSの中の「世間」からバッシングされるほど、彼女の推しへの熱量はさらにねじれ、膨れ上がっていく…。


目の前にあるけど決してリアルではない「推し」の世界と、目の前にあるはずなのにどこか遠い現実世界。

それぞれ別に存在していたはずなのに、だんだん混ざっていく。


仕事、学校、家庭といった「現実世界」だけの生活は息苦しい。

どこかに息抜きがないと、気持ちが塞がっていく。

だから私たちはどこかに「別世界」を求める。


「別世界」はアイドルだけでなくアニメ、映画、演劇、プロレス、宝塚…いろんなところにある。

そういうものに触れている間だけ、私たちは息苦しい現実から離れて自由になれる。

でもそれらに触れるためには、仕事して得る収入とか、帰る家とか、「現実生活」があって成り立っている。

「推しのいる世界」と「現実世界」の二つは別ではなく、「表」と「裏」の関係である。


炎上したアイドルがインスタライブで「ある告白」をする場面が印象的だった。

自らそのものを「商品」として「仕事」にするアイドル。

彼ら彼女らの「現実世界」と「別世界」はどこにあるのか?

現代的なテーマをいくつも内包した小説だった。

(H)

August 11, 2020

相模原障害者施設殺傷事件関連本のコーナーを設置しました

2016年7月に起きた、相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件から4年が経ちました。

死者19人、負傷者27人という戦後最悪の犠牲者(2016年当時。その後2019年の京都アニメーション放火事件が被害者数を上回った)が出た事件当時はパニックのような報道がされながら、その後はほとんど報道を見ることがなくなりました。

裁判は今年3月に死刑が確定。
犯人の植松聖は現在拘置所で執行を待つ死刑囚になりました。


裁判が結審し、事件から4年が経過した先月から今月、この事件のことを取り上げた書籍が数多く出ています。
それらの本を今回集めて展開することにしました。

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何年かに一度、凄惨な殺人事件が起きますが、私はずっとこの事件は特殊な事件だったと考えています。


大阪池田小学校事件の宅間守、秋葉原事件の加藤智大といったそれまでの連続殺人の犯人は「自分のために」犯行を行っているのに対し、植松は「意志疎通のできない障害者を殺すことが社会のためになる」と訴えて犯行に及びました。

植松は
「意志疎通のできない障害者を人手とお金をかけて見ることは社会のマイナスになる」
という主張で、かつて自分が勤めていた施設に侵入し、次々と入所者に手をかけました。

もちろん「意志疎通のできない障害者を殺すことが社会のために」はならない。

ただ、「利潤」とか「効率」だけの視点でいえば、彼の言っていることはある種真実ではないかと思うのです。

けれど、人命より「利潤」「効率」が優先される社会は暗黒です。
その思想が始まった瞬間、「こういう人間は効率が悪い」「ああいう人間も効率悪い」となり、行きつく先は「人は働けなくなったら死んでもらう」「動けなくなったら死んでもらう」になっていく。

21世紀に入って日本の経済成長が鈍化して、非正規雇用者が増えるなど社会階層が不安定していくこの20年くらいのあいだに「無駄をなくす」という考えが殊更良しとされるようになりました。

仕事で、会社で。家庭で。
無駄をなくすのは大事です。
有効で有益なものにリソースを集中投資したい。

その思想が「人の命」の領域にまで浸食してきたのが、この事件の背景にあったと思います。
「とにかく無駄をなくせ」という思想が。

介護でも、医療でもそこにいるのは商品や観察対象でなく「人間」です。
「無駄な人はいらない」という、人間を生産性だけで測る考えは自分が健康体のときはいいけど、老いたり病に弱っていったときには一転。
その恐怖を社会全体で共有できないといずれまた生命を「無駄」とか「不要」と考える人は出てくると思います。

そのとき「それは理論はそうだけど、それを人間に適用するわけにはいかない」と言えないといけないのです。
新聞やテレビでなく、私やあなたが。

 

 

知ってほしい。

植松聖は友達も多く、事件時には交際相手もいたことを。
犯行の数時間前、植松聖は大学時代のサークルの後輩である女友達と焼肉を食べていたことを。

殺された19名の障害者たちに、一人一人趣味やエピソードがあったことを。

どうして人はすぐ忘れてしまうのかを。


私たちはすぐに大きな物語に流される。

その流れを食い止めるには、私たち一人一人が「小さな思い」を持つこと。それを大事にして、口に出すこと。

それしかないと思うのです。

 

 

 

【2016年 事件後の言葉から】

石原慎太郎「あれは僕、ある意味で分かるんですよ」(『文学界』2016年10月号)

山東昭子(自民党・元参院副議長)「犯罪予告やほのめかした人物、再犯のおそれのある性犯罪者などに対して、GPSを埋め込むような議論を」


【2020年7月発生したALS患者嘱託殺人について】

舩後靖彦(参院議員)「こうした考え方が難病患者や重度障害者に『生きたい』と言いにくくさせる」

August 10, 2020

「伊野尾書店の夏の文庫100冊」開催のおしらせ

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毎年夏に「〇〇社の100冊」フェアを展開していますが、同じような本が入ってるのに少し飽きてきたので、今年は当店スタッフが出版社関係なく名作文庫を好きに100冊選んだ「伊野尾書店の夏の文庫100冊」を展開しています。

7月上旬に突然思い立って準備を始めたものの意外に時間かかって7月末からの開催となりました。


どんな本が入っているかはご来店いただきお確かめください。

また、ご来店が難しい方には通販も行っております。
通販ご希望の方にはリスト、案内小冊子のPDFをお送りします。

リストご希望の方はこちらまで inooshoten@gmail.com


おかげさまで大変好評です。

9月12日(土)まで開催予定です。

 

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