January 10, 2017

成人式と年間ベストセラー

成人の日も終わってしまいましたが、2017年あけましておめでとうございます。
東京の成人の日って毎年天気悪い印象があるのですが気のせいでしょうか。

自分が成人式に出席したのは今から22年前のことで、19歳のときに若気の至りで作った藤色のスーツを着ていったのですが、特に周囲からはリアクションはなかった気がします。
「こっちが考えるほど周囲の人間は自分に関心など持たないのだな」ということを新成人として学びました。

その年の成人式にはゲストとして爆風スランプのみなさんがいらしてくださり、区長の挨拶や新成人の誓いのあとに「Runner」と「大きな玉ねぎの下で」を歌っていました。

ちなみに前の年のゲストはGAOだったそうです。
知っていますか?GAO。
中性的な方で、「サヨナラ」って歌を歌ってたんですけど。まあGAOのことはいいや。

式が終わると会場の外で出身中学別に友達の輪ができていて、しかし中学から私立に行ってしまった自分はこれといって加わる輪がなく、なんとなく顔見知りが多い小学校の同級生が多数いた近くの中学の輪の外側にいたのですが当然輪には入れず、そのままその場を立ち去って一人電車で帰りました。

駅で電車を待っていたらそこに同じ小学校の同級生で、とはいえそこまで仲が良かったわけでもない、まあ顔見知りくらいの武藤君という人がやってきて、声をかけるとなんとなくそのままの流れで二人並んで電車に乗りました。

武藤君は明るくて友達も多かったような印象があるのでこんな早い時間に帰るのは意外だなと思い、「みんなまだいたけどもう帰るの?」と聞くと、武藤君は「いや、まだいたかったけど、俺いま板前の仕事やってて。このあとも店に行かないといけないんだ」と言っていて、ああ、大人だ…!とショックを受けました。

それが自分にとっての成人式の思い出です。

二十歳って、バラバラですよね。いろんな二十歳がいて。
そのバラバラが一緒くたにされているのが、あの集まりだったと思います。

新成人のみなさん、おめでとうございます。
バラバラに生きてってください。

今年も伊野尾書店をよろしくお願いいたします。

 

 

うちの店は業務的に年末がいつまでもバタバタしていて、年始はわりと余裕があったりするので2016年の当店の年間ベストセラーを算出してみました。
販売実数も出してしまいましょう。
こんな感じです。

 

【総合】 2016/1/1~2016/12/31

1 天才 石原 慎太郎 幻冬舎      55冊
2 プロレスという生き方 三田 佐代子  中央公論新社  54冊        
3 ネットのバカ 中川淳一郎  新潮社   45冊
4 九十歳。何がめでたい 佐藤 愛子  小学館   42冊
5 羊と鋼の森        宮下 奈都  文藝春秋   40冊
5 嫌われる勇気 岸見一郎  ダイヤモンド社  40冊         
7 コンビニ人間 村田 沙耶香  文藝春秋  39冊
8 つくおき 週末まとめて作り置きレシピ nozomi  光文社 38冊
9 どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法 Eiko  サンマ-ク出版    37冊     
9 ハリー・ポッターと呪いの子 第一部、第二部 特別リハーサル版 J.K.ローリング  静山社  37冊     

三田さんと中川さんの本以外はわりと普通だと思います。
三田さんの本はイベント、中川さんの本は一括購入がありましたがこの2冊はそれ以外でも店頭でも根強く売れました。

 

データを見てて「これ、こんなに売れたんだ」って本はこれですかね。

○「正しい日本語の使い方」 吉田裕子 エイ出版社  22冊

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コミュニケーション実践本は常に一定売れるのですが、この本はムック扱いで596円(税込)と安いのでお求めやすかったのかもしれません。

あとは何回か紹介している

○「断片的なものの社会学」 岸政彦(朝日出版社)   18冊

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これは2015年5月発行の本なんで、2016年だけでこれだけ売れたのはすごいことだと思います。

 

そして文庫はこんな感じです。

 

【文庫】

1 小説 君の名は。 新海 誠 KADOKAWA  82冊
2 命売ります 三島 由起夫 筑摩書房  49冊
3 ぼくは明日、昨日のきみとデ-トする 七月隆文 宝島社  48冊
4 竹屋ノ渡 居眠り磐音江戸双紙(50)  佐伯 泰英 双葉社  44冊
5 旅立ノ朝 居眠り磐音江戸双紙(51) 佐伯 泰英 双葉社  41冊
6 何者  朝井リョウ   新潮社     37冊
6 お前なんかもう死んでいる 有吉弘行 双葉社 37冊
8 村上海賊の娘 (1)   和田 竜  新潮社 36冊
9 夢幻花  東野 圭吾  PHP研究所   35冊
10 手紙  東野 圭吾  文藝春秋  35冊

 
                 
「命売ります」はもちろん新刊じゃなくて初版1968年発行の、三島由紀夫が昔書いたエンタメ小説で、それを出版元の筑摩書房が「隠れた怪作小説発見」みたいな感じのプロモーションをずっとしていて、それが功を制して一年通じてのロングセラーになりました。
確かに「三島由紀夫、こんな小説書いてたんだ」という作品です。

http://www.chikumashobo.co.jp/special/inochi_urimasu/

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東野圭吾「手紙」は何年か前のベストセラーですが、春先に展開した「本を読んで泣きたい」というフェアで好評だったので継続して出してたところこれもロングセラーになりました。
累計で100冊を超えた有吉さんの「お前なんかもう死んでいる」もそうですが、文庫はロングセラーが強いです。

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☆年末年始に読んだ本

○「聖域 関東連合の金脈とVIPコネクション」柴田大輔(宝島社)

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「いびつな絆」「破戒の連鎖」に続く関東連合三部作。
今作から筆名を止めて本名にしたところに著者の覚悟のような気持ちが見えます。

ロバート・ホワイティングの『東京アンダーワールド』現代版というか、1990年代後半から2000年代にかけて東京の知らないところでこんなことが起きていたんだな…!とため息の出るような話です。
アウトローの世界で生きてきた著者が表のビジネスに転出しようとしてもがきながら徐々にその事業を大きくしていく様は圧巻でした。

そして暴力の支配する世界は揉め事が飯の種のような世界であり、率先して揉め事を起こそうとする人物が多くいて、そんなのに始終まとわりつかれる生活に著者がいい加減嫌気がさしてゆくのもそりゃそうだろうな、と思いました。
(もちろんその昔は著者自身が暴力を仕向ける方の立場にいたこともあったのではないかと推測しますが)

そんなトラブル続きの中でうまく切り抜けたり、屈辱的な結末を迎えたりしていく場面は迫力がありました。

著者の経歴的に「読む気になれない」という声もあると思いますが、「知らない世界を教えてくれる」ノンフィクションという本の特性を考えると、稀有な内容ではないかと思います。

 

○「1984年のUWF」柳澤健(文藝春秋) ※1月27日発売

http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163905945

1月末に発売される柳澤健さんの「1984年のUWF」、単行本原稿を一足先に読ませてもらいました。
(「Number」で連載されていたので読んでいた方も多いと思います)

面白かった。そしてこれは論議を呼びそうだ、と思いました。

UWFを富士山に例えると、今まで前田日明が「富士山は静岡から見るものや」と言ってたのを柳澤さんは「いや、富士山は山梨から見るとこうですよ」と描いた、そんな感覚があります。
どちらも富士山を見てるんだけど、見る場所が違うので見える風景が微妙に違う。

おそらく「柳澤は何を書いてるんだ」という声が出てくるような気がします。
今まで捉えられていたUWFの見方とはちょっと違う。
けどそれもまた一つの「UWFの真実」なのではないかという気がします。

個人的には、よくオランダまで行ってクリス・ドールマンやジェラルド・ゴルドーの話聞いてきたな、と。

そして私自身はそんなにUWFに愛着がなかったのですが、最後に出てくる堀江ガンツさんが「自分にとってのUWFとは」に続く言葉はものすごく沁みました。

「プロレス」に興味がある、すべての人に読んでほしいです。
読めば、いつの時代にも既存の価値観とは別の価値観を作ろうとする若者たちの姿があることが伝わってくるのではないかと思います。

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☆「大人の科学」アウトレットセール

学研「大人の科学」アウトレットセールを始めました。

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箱に傷みがあるけど中身は新品同様のものを安く売ってます。
手を触れずに演奏できる電子楽器として有名になったテルミン(定価2500円→特価1200円)、ワイヤレス給電の実験ができる「電磁実験スピーカー」(2800円→1400円)など4種類。

2月下旬までの期間限定商品です。
お早目にどうぞ。

 

☆1月下旬にある企画を始めます。
 その名も「どうしても読んでもらいたい本」。
 詳細はまた追って発表します。
 「どうしても読んでもらいたい本」があります。

 

(H)

December 30, 2016

伊野尾アワード2016

私はほとんどSMAPに関心のないまま半生を送ってきてしまったのですが、そんな私が先日「せっかくだから最後に見ておくか」と軽い気持ちで12/26放送「SMAP×SMAP」を見てたら最後に彼らのこれまでの歴史を振り返るVTRが流れて、そのあとに真っ白なスタジオで最後の「世界に一つだけの花」を聞いていたら自分でもビックリするくらいの欠落感に覆われてしまいました。
ずっとこの一年解散報道があったりして騒動になってたわりにはほとんど映像を見てなかったというのがあるのですが、歌う5人を見てて「過ぎ去った時間と戻らない関係」みたいなのがすごく感じられて、それが結構きました。

一つの時代の終わりを、年の瀬に痛烈に感じました。
「笑っていいとも」の終了とSMAPの解散は、時代の移り変わりを象徴する結構なトピックだったように思います。

そんな年の瀬でバタバタしているうちに今年も残りあとわずかになってしまいました。

今年はあまり更新ができなかったなあ…。

この時期になると
「去年の大晦日は○○さん(スタッフの名前)と働いたなあ」
「その前の年は××さんと働いてたっけ」
とかそういうことを思い出します。
同じ店にずっといると店も人もあんまり変わっていないようで、実は少しずつ少しずつ変化してきているんだなと一年の終わりに実感します。

10年くらい前の大晦日、Nさんという当時まだ入って半年くらいのアルバイトの女の子と入ったことがありました。
Nさんは本屋の仕事はあまり要領がよくなかったのですが、大掃除になった途端急にイキイキと動いてくれて、「あ、そんなところまで掃除してくれるんだ、ありがたいなあ」となったことを思い出します。

人によって才能を発揮できる場所は違ってて、上司にあたる側はその場所を見つけ出してやらないといけないんだなあ、と。
あれは勉強になりました。

伊野尾書店は来年はどうしてるんでしょう。
「小さな変化はいろいろあったけど、なんとかまあ今年もやってこられたね」と言えてますように。

 

さて、今年も誰が待っているのかわからない謎の選定グランプリ「伊野尾アワード」を発表したいと思います。
すっかり伊野尾慧さんが有名になってしまったおかげでまるで慧さんが選んでるかのように誤解されるおそれがありそうですが、中井の本屋が勝手に発表している極私的アワードです。

 

では発表します。

【2016年伊野尾が選ぶ最高の本】はこの本です!

 

○「漂流」角幡唯介/著(新潮社)

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はい、以前ここでも紹介した本ですが、この本にしたいと思います。

これはそうそう書けないです。
冒頭のつかみが良すぎる。
本筋から離れた佐良浜(沖縄の伊良部島にある漁村)に関する歴史話、漁業エピソードの数々が面白すぎる。
話の急展開。
遠く異国のどこにいるのか見当もつかない人間を訪ね歩くその努力と、その努力が結実する瞬間のカタルシス。
そして予想外の結末。

生存が絶望的な状況から奇跡的に救出された漂流事故の真実を「本の核」にしながら、そこにたどりつくまでの急展開する取材過程がそのまま物語になるという、よくできたドキュメンタリー映画のような構成のノンフィクションです。

本当にこれは面白かった。
角幡さんはノンフィクション作家として一段上に行ったな、という気がしました。
角幡さんは書いてる本のクオリティの高さに比してなぜかまだそこまでの知名度が出てませんが、時間の問題でこれから必ず有名になりますので、いまのうちにチェックしてほしいです。

でもうっかりすると角幡さんは「クレイジージャーニー」に呼ばれてそっちで有名になってしまいそうな気もするんだよな…。高野さんも出ちゃったし。
チベット奥地のツアンポー峡谷に行った話をテレビでしてほしいです。

 

■小説部門

 

○角田光代「坂の途中の家」(朝日新聞出版)

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もう角田さんの小説がいかに素晴らしいかを書くのはイチローがどれだけ野球選手として素晴らしいかというのを説明するぐらい、当たり前すぎて逆に難しいんですけどこの「坂の途中の家」は本当っにやばかったです。
やばかった、というしかない。
グサッとしました。

ストーリーとしては小さな子供がいる主人公の女性が虐待事件の裁判員裁判に選ばれ、渋々関わっているうちに事件の話が少しずつ自分の内面を掻き乱していく…という小説なのですが…電車ベビーカー問題とか、結婚/未婚、子供のいる/いないにまつわるどうにもならない断絶、SNSでのリア充投稿とそれにイラッとする気持ち、そういった男女、夫婦、家族といった人間関係にまつわる問題の根っこみたいなものがすべて書かれてます。

多くの人に読んでもらいたい小説です。

 

■実用書部門

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今年の実用書業界はとにかく「どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法」(サンマーク出版 )、通称「開脚本」の独走でしたね。
100万部いったとか。
おめでとうございます。

この本、中見てないとよく勘違いされやすいんですけど、開脚のやり方がただ載ってるガイド本じゃないですからね。
もちろんそういうページもあるんですけど、大半を占めてるのは「開脚もできないやつが何かを成せると思うな」という小説ですからね。
40歳の商社課長と32歳同僚女性社員、それに45歳部長さんの3人による『開脚できて人生変わった』物語が本の中心です。

構成としては「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」みたいな本なんですよ。
そのへんがあまり認知されておらず「え、こんな本なの?」みたいなことが起きているないような気がいたします。

 

あとは「金スマ」でとりあげられたのをきっかけに2016年終盤にかけて怒涛の勢いで盛り上がった「やせるおかず 作りおき」(小学館)だと思いますが、実はこの何年かずっと「常備菜」(主婦と生活社)とか「つくおき」(光文社)が売れてたり、ちょっとした作り置き料理ブームなんですよね。
そういう流れが来ているんだなあと思います。

そして私の大好きな健康書本界隈でいうと、今年は「レモン酢」ですかね。
知ってますか?
レモン酢。
その名のとおり、レモンの酢漬けを食べると健康によくなるそうです。

○「レモン酢でやせる!病気が治る!」(マキノ出版)

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あれ、去年「酢たまねぎ」ってのが流行ってなかった?…と記憶力の良いそこのあなたへ。

大丈夫です。なんなら「酢キャベツ」ってのもありましたから。

○「ドカンとやせる!酢キャベツダイエット」

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もうなんでも酢に漬けたらいいんじゃないかな。

 

■児童書部門

2016年の児童書トピックスとしてはまず

☆ヨシタケシンスケ大ブレイク

ですね。

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ヨシタケシンスケさんといえばもともと知られた存在の絵本作家ではありましたが、そのヨシタケさんがいかに今ブレイクしているかを説明するには絵本雑誌「MOE」が選定している「MOE絵本屋さん大賞」という絵本界の一番すぐれた本を決めるアワードを取り上げましょう。

この「MOE絵本屋さん大賞」はその年に出た絵本の中から「全国の1900人の絵本専門店・書店の児童書売り場担当者にアンケートを実施、その年に最も支持された絵本30冊を決定」というアワードなのですが、今年2016年の(第9回)第一位はヨシタケさんの『もうぬげない』(ブロンズ新社)でした。
そして第二位は同じくヨシタケさんの『このあとどうしちゃおう』(PHP研究所)です。

去年の「第8回MOE絵本屋さん大賞」はヨシタケさんの『りゆうがあります』(PHP研究所)でした。
3年前の第6回MOE絵本屋さん大賞第1位はヨシタケさんの『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)です。

過去4年のうち3回を一人で制覇という、将棋の渡辺竜王か白鵬かイチローか、というような圧倒的な強さを見せてるのがヨシタケさんなのです。

ヨシタケさんの絵本は独特のおかしみのあるイラストで、哲学的なテーマや発想の転換が描かれるのが特長です。
『もうぬげない』はお母さんに「お風呂に入りなさい!」と言われて仕方なくお風呂に行こうとしたらシャツが脱げなくなった少年の話ですが、「もしもこのままシャツが脱げなくなったらどうやって生きていこう」とか「もしかしたら世界には僕と同じようにシャツが脱げなくなった子がいるんじゃないか」とか壮大なことを考える、楽しいお話です。
ヨシタケさんの絵本は大人が読んでも面白いです。

そしてもう一つが、

読むだけで子どもがすぐ眠くなるという絵本「おやすみ、ロジャー」(飛鳥新社)大ヒット

ですね。

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これたしかに子どもも眠くなると思うんですが、読む方も眠くなるんですがどうなんでしょうか…。

そんな2016年の児童書でわたしのイチオシはこの本です。

○「いしゃがよい」(福音館書店)

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山で迷子のパンダを見つけたエンさんは、ファンファンと名付けて育てます。
ファンファンは体が弱く、エンさんはファンファンを自転車に乗せてひと山越え、ふた山越えて医者通いする…というお話なんですが。

これねー!泣けると同時にめっちゃ現代的なテーマを内包してるんですよ(笑)
あんまり言うとネタバレになるのでこのへんにしますが。
「いい話だね」で終わらない絵本です。
なんだったら「現代社会」の棚に並べたいくらいの内容です。

 

 

■雑誌部門

今年の雑誌はもうこれしかないんじゃないでしょうか。

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○週刊文春

いやもう、想像してみてください。「週刊文春」のない世界を。

きっと今でもベッキーはCMにも「世界の果てまでイッテQ!」にも出てたし、紅白歌合戦にゲスの極み乙女は出ていただろうし、東京都知事はまだ舛添要一さんだったかもしれないし、選挙になったとして当初は支持率高かった鳥越俊太郎さんが今頃都知事になってたかもしれないわけだし、日本レコード大賞は何事もなかったように…このへんにしましょう。

でも真面目な話、週刊誌メディアというのが世の中になかったら官製情報というか、「大きい組織からの公式発表」 だけで世界が動いていく、そんな怖さがあります。
ネットは「市民発SNS炎上」的な市民生活の中から社会問題を告発する分野は得意だけど、大きな組織の出てこない情報を取ってくるというのは極めて難しいメディアです。

本来なら朝日新聞とかがやってほしいなと思いながら新聞もそういうスクープ報道にはすっかり元気がなくなってしまい、やってるのが週刊誌(=出版社)くらいしかない、ってのが何より問題なんだろうなと思います。

今やってる「ユニクロ潜入記」とかすごいですよね。横田さん解雇されちゃいましたけど(そらそうでしょうね)。あんなのどこもやれないです。
2ちゃんねるでの「ユニクロで働いてるけど質問ある?」と違って掲載責任を取って出してるわけです。

そもそも載せた内容をユニクロ広報部にぶつけて「この内容は本当ですか?どうお考えですか?」と毎週聞いてるんです(そして毎週「お答えすることはありません」とユニクロ広報部が答えるのが定番化してます)

数年前、週刊誌の売り上げはどんどん落ち込んでいって「週刊誌はもうダメなのかな…」と思ったことがあったのですが、ここに来て回復傾向にある。(週刊現代なども回復してます)

何より、今や女子高生がみんな「週刊文春」を知ってる、記事によっては読んでいるというのは、5年くらい前の状態を思えば奇跡のようなことです。
そういう意味もこめて「週刊文春」に一票。

 

■映画部門

☆「孤高の遠吠」

「静岡県富士宮市の名物は焼きそばじゃなくて喧嘩」と言う小林勇貴監督が地元の不良たちに実際にあった出来事(揉め事)を取材し、それを軸に書いたストーリーを富士宮の本物の不良たちに演じさせて撮影した青春群像映画。
これ今年見た映画で一番インパクトありました。
衝撃度で言うと「ゆきゆきて神軍」を最初に見たときと同じくらいに。
いちおう「フィクション」なんですけど、出ている人は「本職」だし、エピソードの数々は実際に聞いた話を再現したということで異様にリアリティのある暴力の恐怖が伝わってきます。

これ私新宿のK's cinemaで見たんですけど、隣の隣に座ってた男性4人組のグループが上映中に何度も席を立つ、上映中にスマホを見て光らす、上映中にお仲間の方と談笑される、あまり柄のおよろしくない方々だったのですが、映画とリンクしてとても注意できる気分になれなかったことも印象深いです。

DVDは一般販売されてませんが、TSUTAYAではレンタルしているらしいです。
尊野蛮!!!

 

■音楽部門

☆never young beach - 明るい未来

最初に聴いたときから「あああ…」って感覚があったんですよね。
昔っぽいですよね。昭和フォーク的な。どこかで「はっぴいえんどの再来」と書かれてましたが、ああなるほどと思いました。
こういうどこか物悲しさを感じさせる曲が私は好きです。

 

■プロ野球部門

毎年このアワードでは、その年のプロ野球での一番印象的な場面を書いてるんですが、2016年のプロ野球はこの場面ではないでしょうか。

マンガ「大谷翔平物語」があったら、これ第一部のクライマックスじゃないでしょうか。
実況アナウンサーが「164キロ!自己最速!」のあと、「165キロ!!」で札幌ドームが異様などよめきになったあたりで私は「こんなん…あるのか…」という気持ちでいっぱいでした。
子どものころからプロ野球をずっと見てきましたが、プロ野球にはこんな人が出てきたんだ…!という驚きと呆れみたいなのが混ざって、その結果ただ「すげえ…」とだけしか言えない、茫然自失とした感覚でした。

プロ野球の歴史に残る場面だったと思います。

 

■最後に

最近出たコミックから一つ。

○「人間仮免中つづき」卯月妙子(小学館)

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壮絶すぎる半生と闘病記を描いた「人間仮免中」。
2012年の伊野尾アワードはこの本を「伊野尾が選ぶ最高の本」にしました。
http://inoo.cocolog-nifty.com/news/2012/12/index.html

今作はこの「人間仮免中」の続編です。

まず卯月さんが続編が書けるコンディションにあったんだ、というのに驚きます。
読んでみると「よくこんな状態で書いたな…」と違う意味でさらに驚く。
前より病状が悪化しながら、それでも書くという物書きの魂に震えます。

そしてそんな状態の悪い卯月さんを25歳年上の恋人・ボビーが必死に護る。
二人はたびたび些細なことで喧嘩しながら、互いを必要として面倒のある生活を受け入れる。
苛烈な生活のそこかしこに「…愛だ」と思わずにいられないエピソードが多々描かれます。
ある理由で下剤を飲んだ卯月さんがボビーが入浴中のユニットバスにかけこんだときのボビーのかける言葉の温かみは、過去読んだことのないものでした。

前作が「病気になった!」話ならこちらは「病気になった」後の話で、作品を貫くニュアンスは少しだけ変わってますが「人間とは何か」というテーマは変わってません。
これからの人生で繰り返し読みたいと思います。

…長くなったなあ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

2016年はいろいろありました。
2016年も、いろいろあったというべきでしょうか。
一年あるといろんなことが起きました。

長く勤めてくれたスタッフさんとお別れしたり、新しいスタッフさんが来てまた一から教えたり、「一週間前にここで買った旅行ガイドに載ってる情報が現地にいったら違ってた、それで損害を受けた、だから返金しろ」という要望を断ったところから警察を呼ぶような事態が起きたり、税務調査が入ったり(笑)。

いい話もありました。
三田佐代子さんのイベントを店でやったり、鈴木健さんのDDT講座を開いたり(次回は来年1/29開催です)、NumberWebで書評を書く仕事いただいたり、今年も「中井文庫」にいろんな人が参加してくださったり。
いろんな作家さんが来店してくださってサイン本作ってくれたり。
楽しい、っていうよりありがたいなあ、って話が多々ありました。

悲しい別れも多くあったり。

「閉店のおしらせ」から始まる同業者の寂しい知らせも多く届いたり。
僕がこの仕事を始めたとき、「すげーなあー」って見上げていた本屋が閉めたりやめていってて。
何年か前までそこに本屋があったのに今はもう無い、という場所を通りがかって「まさかここが閉まって自分ところが残ってるとは思わなかったな…」と考えたことが今年何回かありました。
毎回書いてますが、「バトル・ロワイヤル」に生き残ってる気分です。
って「バトル・ロワイヤル」ももう若い人には通じなくなってきてるんだろうなあ。

年々お客様が来てくれるのはありがたいことだなと感じるようになってます。
同じぐらい店で働いてくれてるスタッフの人たちはありがたいなあ、って。
本当にいろんな人の支えがあって商売できてるんだな、って思います。
…なんか「お客様は有り難い」とかそういう格言書いてトイレに貼る居酒屋とかラーメン屋の店主の気持ちがわかるようになりました。

2017年もがんばります。

ここを読んでくださってるみなさまがずっと元気でありますように。

(H)

December 18, 2016

「鈴木健.txtのDDT20年史ドラマティック講座 第三回」開催のおしらせ

こちらに書くのは直前になってしまいましたが、12/25(日) 16:00~「鈴木健.txtのDDT20年史ドラマティック講座 第三回」を開催いたします。

詳しい内容・講座へのお申し込みはこちらのページをご参照ください。
http://kokucheese.com/event/index/440508/

なお、第四回の講座は2017年1月29日(日)16:00~の開催です。

「鈴木健.txtのDDT20年史ドラマティック講座」についてはTwitterの告知が早いので、ときどきご覧いただけると幸いです。
https://twitter.com/inooshoten

November 20, 2016

雨宮まみさんのこと

雨宮まみさんが亡くなったというニュースが回っています。

ほんとなんでしょうか。

本当に、ほんとなんでしょうか。

全然、全然実感がわかないです。

たちの悪いデマじゃないんでしょうか。

Twitterで「こんなタチの悪いニュース誰が流してるんだ」とコメントつけてリンクを張ったら雨宮さんから「なんなんですかね、これ」とリプライが来るような気がしています。

 
いや、きっと、ほんとなんだと思います。

ごくごく近しい人たちだけでお見送りした、という話を聞きました。

いろんな人が悼む言葉を発してます。

けれどそんな伝聞というか情報のようなものだけで「雨宮さんがいなくなった」というのが、実感にならないんです。

今も東京のどこかにいて、こうして雨宮さんのことをネットに書くと即座にリツイートしてくれるような気がするんです。

 

 

雨宮さん。

雨宮さんのことを少し書いてもいいですか。

「伊野尾さんとはそんな親しくもないし、そんな一方的に語られる筋合いでもないですよね」とピシャッと言われてしまうんじゃないかという気がしています。

というか、たぶんそうです。

でも雨宮さんがどうにもならない感情や心の動きを文章にしたように、僕もどうにもならない感情がこの三日間渦巻いています。

それを少しだけ、吐き出させてください。

雨宮さんについてここで何か書いても、肝心の雨宮さんには読んでもらえない。

その事がすごく重く、心にのしかかってます。

僕からの一方的な形で、「それ違います」という反論の場を雨宮さんに与えない書き方になることを、どうか許してください。

 

 

雨宮さんのことを知ったのは、ポット出版のサイトに載っていた「セックスをこじらせて」という手記を読んでからです。

知り合いの編集者さんから教えてもらったような気もするし、誰かがTwitterで紹介してたのを読んだような気もします。

ちょうど大学時代の雨宮さんが友人の彼氏としてしまう話で、「ええ…!これ、ホントの自分の話!?」とビックリしたのを覚えてます。

そこから連載の第一話に戻って最新話まで、圧倒的な熱量とアップダウンの効いた話をすっかり夢中になって読み続けました。

そして「こんな話あるんだ…」と打ちのめされるような気分になりました。

それ以来、不定期に更新される「セックスをこじらせて」の最新話がアップされることを待つのは小さな楽しみになりました。

毎回面白く、時にハラハラしながら読み、連載が終わったときは残念な気持ちとお腹いっぱいになった気持ちの両方がありました。

 

しばらくして、書店に送られてくる出版社からのFAXの山の中に

「ポット出版最新刊 『女子をこじらせて』雨宮まみ(『セックスをこじらせて』改題)」

という注文書がありました。

「ああ!あれ本になるんだ!」と高揚した気持ちで冊数を記入して注文を送ったのですが、届いた『女子をこじらせて』は正直なところそんなには売れませんでした。

今でもそうですけど、「これはいいです!」と書店側が強く思って売りだしても、それを販売冊数に結び付けるのは難しいです。

(だからこそそれを結び付けている同業者の人には本当に敬意があります)

POPをつけたり声かけで売り込んでみたりしたがあまりかんばしい結果にはならず、もう少し別の売り方があったのかもしれないと反省しています。

ただ、著者の雨宮さん自身が「中井の伊野尾書店さんにあるようです」とツイートしてくれたのはうれしかったです。


雨宮さんはそのあとくらいからどんどん発表する文章が増えました。

ネットでの連載、雑誌コラム、単行本、いろいろ出ました。

だいたい読んでたはずですが、追いきれないものもあったと思います。

デビューの頃は「AVライター」という肩書きだったのが、だんだん「AV」がとれて「ライター」になってました。

雨宮さんの文章は人の心の底に沈んでいて本人すら自覚していないような澱のようなものを「ほら、あなたの心の痛みの原因はこれでしょ?」と掬い取ってくれるようなものが多くありました。

それがもっとも出ていたのが「“穴の底でお待ちしています”」という、いろんな人の愚痴を聞く人生相談でした。

http://cocoloni.jp/culture/29443/

毎回寄せられる愚痴(という言葉に収めるには重すぎる内容も多々ありました)に対する返答が本当にすばらしく、読みながら「すごい…!この人はなんなんだろう…!」と思っていました。

(読んでない方はまだ読めるので、今からでも全部読んでほしいです)

 

あるとき、私が定期的に行ってる出版関係の人を招いたプロレス観戦会で、よく参加してくれてた新潮社のNさんという人が「今度、知り合いのライターさんを呼んでいいですか?」というので「いいですよー、ぜひぜひ。ちなみになんて方ですか?」と聞くと「雨宮まみさんです」というのでびっくりしました。

こんなことってあるのか、というのがそのときの印象です。

初めてお会いした雨宮さんは、素敵な人でした。

他の人がよく書いてますが、「キラキラしている」という言葉がぴったりの方でした。

そのときは両国国技館に新日本プロレスを見に行く会でした。

両国駅前から国技館まで移動しながら

「プロレスは初めてですか」

「初めてです」

「なんで見ようと思ったんですか」

「んー、Nさんが『見た方がいい』って言うんで(笑)」

という感じでなごやかに話してたんですが、僕が

「『女子をこじらせて』読みました。すごいよかったです」

と言うと

「ああ…どうも」

と言ったきり、下を向くようにして会話をシャットアウトする感じになってしまい、焦りました。

あとから考えれば、自身のかなり繊細な部分までさらけだして書いた話を、今目の前にいる見ず知らずに近い男性に知られている、というのはあまりうれしいものではなく、「読んでもらえるのはありがたいけど…」という感じだったのかもしれません。

国技館の座席につくとNさんが「伊野尾さん、雨宮さんにいろいろ教えてあげてください」と私と雨宮さんを隣同士の席にしてくれました。

私はプロレスが大好きで、無駄な知識もかなり持ってると思いますが「初めて見る人に教える」というのがあまり上手くありません。

試合を見ながら横であれこれ解説した方がいいのか、それともなるべく予備知識なくそのまま見てもらうのがいいのか、いつも考えてしまいます。

そのときは「基本そのまま見てもらって、たまに補足的に口を出す」というスタンスにしましたが、その「補足的」なコメントが本当に必要だったのか、横であれこれうるさいんじゃないか…とずっと思ってました。

ロッキー・ロメロとバレッタという外国人選手のチームが「ロッポンギバイス」という名前で、入場曲は外国人がなんか「ロッポンギ、ロッポンギ」言ってる曲で、入場の際に場内に流れるPVがベタベタな六本木の光景をシャッフルしたみたいな映像で、それに雨宮さんウケてましたよね。

六本木で思いだしましたけど、いま思えばあのころちょうど雨宮さんは「東京を生きる」を執筆してたんじゃなかったでしょうか。

セミファイナルで中邑真輔が出て来てロープをつかんで体を反らせるいつものポーズを決めると、雨宮さんは口に両手をあてて「きゃー!やばいー!」と反応してました。

試合が全部終わったあとみんなでちゃんこ屋に行ったとき、雨宮さんに「今日誰が印象に残りましたか」と聞くと即答で「中邑!」と答えてくれましたね。

初めて見た人にも伝わるんだから、中邑真輔ってすごいです。

そのちゃんこ屋では雨宮さんがAV男優の話をしてくれたり、意外な共通の知人がいることが判明したり、独身女子の話を雨宮さんが聞いたり、あの日の飲み会は本当に楽しかったです。

雨宮さんとはそこから1,2回、一緒にプロレスに行きましたけど、雨宮さんが女子プロレス、里村明衣子とセンダイガールズにハマってからは一緒に行く機会がめっきり減ってしまいました。

あれはどこでお会いしたときのことでしたっけ、センダイガールズのすばらしさをとうとうと語られたあとに、「結局、わたし男じゃなくて女を追っちゃうんですよねー」と言った一言を覚えています。


雨宮さんは「面白い」と思うものをいろいろ教えてくれる人でした。

岸政彦さんというすばらしく良い文章を書く人がいる、と教えてくれたのは雨宮さんでした。

岸さんの「街の人生」は雨宮さんが「SPA!」に書いてた書評文をそのままPOPにして売っていました。

雨宮さんとのDM履歴をずっと見ていたら、2015年2月3日に

「伊野尾さん、岸政彦さんに会いましたよ!」

「すごいうれしかったんですけど、自慢できる人がいないので自慢させていただきました」

「岸先生、男前ですな…」

というやりとりがありました。

これは今年出たミシマ社の「愛と欲望の雑談」のもとになった対談か、その打ち合わせだったんでしょうか。

雨宮さんと岸さんという僕のなかで「すばらしい文章を書く二大巨頭」の対談の本が出たのは今年うれしかったことのひとつです。

でも、この本が雨宮さんの最後の本になってしまうんでしょうか。考えたくないんですけど。

 

岸さんは

「雨宮さんがいなくなったことを、雨宮さんに相談したいと思ってしまいます。あの美しい人生相談の本を書いた雨宮さんなら、どんなお茶を出してくれるだろうか、どんな言葉をくれるだろうかと思います」

と書きました。

http://sociologbook.net/?p=1114

本当に、そう思います。

雨宮さんは岸さんに「浮気した方が作品に深みが出ますよ」言ったそうですが、それにならうなら「大事な人を突然失うという経験をすると深みが出ますよ」と言ってくれるのかもしれません。


けど、深みなんかでなくていいです。

心に穴があいたような感覚があって、すごく、つらいです。

こんな思いをするなら浅いままでいいです。

 

つらくてもなんでも、日常はやってきます。

僕の仕事は本屋なので、どんな気持ちであれ毎日本は入ってきますし、その新刊を並べたり、入れ替えたりします。

今日はかつて雨宮さんも出た「KAMINOGE」の新刊が発売になりました。

表紙が僕の好きなDDTの人たちで「おおー」と思ったのですが、棚に並べる時に表紙のコピーを見て固まってしまいました。

Kaminoge201611


なんでしょうねこのタイミングで。

「ヤッてる奴だけが気持ちいいんだ!!」、ですって。

そういえば「ヤるかヤらないかの人生なら、俺はヤる人生を選ぶ」って映画がありましたよね。

「『プロレスキャノンボール』についてちょっと語りましょう今度!」って約束したのは、あれ何のときでしたっけ。

約束、覚えてますから。

いつかどこかでできるんじゃないか、と思っておくことにします。

雨宮さんがセンダイガールズを愛したように、僕はこのDDTというプロレス団体が大好きです。

 

僕は雨宮さんとは「作家と書店員」であり、「著者と読者」であり、「プロレス仲間の知人」という3つの面があわさった関係でした。

仲良くはさせていただきましたけど会うのはどこかのイベントとか何かの集まりばかりでしたし、個人的な話もしたことはありません。

ずっと心地よく交流させてもらいながら、同時に「これ以上は入ってきてはいけない」という一線がピンと引かれているような気がしていました。

違ってたらごめんなさい。

雨宮さんは人の弱いところすべてを受け入れてくれるような面と、誰も立ち入れない壁を一瞬のうちに築くような両方の面があったように思います。

みんな、そうなのかもしれませんけど。


「プロレス仲間」としての雨宮さんとは、どうやらこれで切れてしまうみたいです。

けど雨宮さんはたくさんの文章を書かれました。

「作家と書店員」「著者と読者」の関係はまだこれからも続きます。

 

書店員は、著名な作家が亡くなったら、話題になっているうちにその人の本を店のよいところに出して追悼フェアとかやるんです。

どんな形であれ、話題になってる本を売るのが仕事ですからね。

ただ、昨日雨宮さんの本を前に出したんですけど、どうしても、「追悼」とか、そういう言葉が書けないんです。

書いたら何かが終わりになってしまう気がして。

だから、何も書かず前に出してます。

Photo

そのうち、たぶん引っ込めます。

そして棚の一部に、女性の方がなるべく見そうな棚の端に、雨宮さんの本を並べておきます。

棚に並んでる限り、なんとなくですが僕と雨宮さんの関係は切れないんじゃないか、そんな風に思ってしまうのです。

 

(H)

November 01, 2016

プロ野球シーズンの終わりは冬のはじまり

10月も後半に入ると肌寒い陽気になり、日の入りがすっかり早くなりました。
日本シリーズは北海道日本ハムファイターズ4年ぶりの日本一で幕を閉じましたが、見ていて久しぶりに白熱したシリーズでした。
1,2戦を終わった段階では「うわカープの勢い止まらない…」、3戦も敗色濃厚だったファイターズが運と執念で追いつくと最後は大谷翔平がボール球をヒットしてサヨナラ勝ち、続く4戦も逆転勝ち、先発投手の比較ではカープ有利だった5戦ももつれた末に最後は西川のサヨナラ満塁ホームランで激勝、そして広島に戻った6戦は同点の終盤にまさかのビッグイニング、とファイターズの「反抗力」とも言える強さが際立ちました。
「最後にもう一度投げられなかった黒田」含めて、いろいろ後世まで語れるシリーズだったと思います。

2016年のプロ野球を振り返ると印象に残ったのは現役最後の登板で7回まで投げ続けたベイスターズ三浦大輔の引退試合、カープがリーグ優勝したときに抱き合って涙を流した新井と黒田の姿、そして大谷翔平のあの165キロが生まれたパ・リーグクライマックスシリーズファイナルステージ第五戦でした。
この試合についてはコラムニストのえのきどいちろうさんが書かれた文章が本当にすばらしいので読んでほしいです。

日本中の野球ファンが目撃したNPB史上初の9回。百年語り継がれるべき、リミッターを外した大谷翔平の15球
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161018-00010005-baseballc-base

本の話でいうと広島本フィーバーがピークを迎えてまして、9月以降に出たカープ関連の雑誌(優勝記念増刊およびムック本すべて含む)を全部数えていったら19誌もありました。
雑誌ほどではないにせよ書籍もよく出てて、こんな本まで出てました。

ちなみに日本ハムファイターズ関連の9月以降に出た雑誌は2誌です。大谷翔平が表紙の「Number」を入れてやっと3誌でした。
ファイターズでいうと、検索したら出てきたこの本が気になります。。。

○「もりのやきゅうちーむ ふぁいたーず」(北海道新聞社)

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現役のファイターズ選手たちが、それぞれの個性に合った森の動物に変身して野球チームを結成。ライバルの海の野球チーム「おーしゃんず」とあつい戦いを繰り広げます。仲間を信じ、力をあわせて勝利にむかう森の動物たちの面白くて楽しい奮闘振りをファイターズ選手会自らが意見を出し合い考えました。野球ファンに限らずおすすめできる絵本です。

大谷翔平がキリンで中田翔がゴリラだそうです。うーん。キリン二刀流。

この相手の「おーしゃんず」というのはどういうチームでしょう。
千葉の方にやっぱり海をモチーフにしたチームがあったような気がするんですが、そことは関係あるんでしょうか。

 

☆児童書

7月から児童書を見るようになりました。
昔から知られている定番商品が売れるジャンルですが、置いとくといつまでもよく売れる新刊もちょいちょいあります。
たとえばこれ。

○「おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典」(高橋書店)

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“生き物の「ざんねん」な一面に光をあてた、はじめての本”と書いてあります。
すごいコンセプトですね。
「残念な」というとどうしても僕は千原ジュニアを連想してしまうんですが、児童書の世界にまで浸透しているとは知りませんでした。

「カバの肌は超弱い」
「イルカは眠ると溺れる」
「ゴリラは知能が発達しすぎて下痢気味」

といった感じでいろんないきものの残念な部分を書きだしています。
なんかこう…動物もいろいろ大変やな…という感じになる本です。

 

☆中井文庫

おかげさまで9/1から始まった中井文庫ですが本日(10/31)をもって終了しました。
どうもありがとうございました。

売れ行き上位作品はこんな感じでした。

1、「サバの秋の夜長」大島弓子著   三田佐代子さん推薦
2、「ゴランノスポン」町田康   当店スタッフ青木推薦
3、「あかんやつら」春日太一著    村瀬秀信さん推薦

4、「タイタンの妖女」カート・ヴォネガット著  岸政彦さん推薦
4、「路に落ちてた月」ビートたけし イタリアンキッチン オリーブモンド中村さん推薦

6、「最弱球団 高橋ユニオンズ青春記」長谷川昌一著 礒部雅裕さん推薦
7、「友情」武者小路実篤 男色ディーノさん推薦
8、「雪の鉄樹」遠田潤子 杉江由次さん推薦

9位以下は割愛します。
毎年のことですが、何が売れるか出してみないとわからないものだなあと本当に実感します。
ご参加、ご協力いただきました皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。

来年もまた同じ9月~10月の時期に開催を考えていますので、よろしくお願いいたします。

なお11/1からは「ネコが好きすぎるので猫のカレンダーをいろいろ集めましたフェア」を開催します。
結構いろんな種類の猫カレンダーを取りましたが、それでもまだ世の中に出ている猫カレンダーはまだいろいろあるような気がします…。

12/1からは「2016年 伊野尾書店で売れた本&担当者が選ぶ素晴らしかった本」を開催予定です。

 

 

☆最近読んでおもしろかった本

○「封印された科学実験」(彩図社)

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科学は我々に豊かさをもたらす一方で、ときには危険な結果を招いてしまう。ふとしたきっかけでその危うさが明らかになることもあれば、科学者が好奇心や功名心を満たそうとあえて取り組むこともある。
本書ではそのような科学史に残る危険な実験を紹介!
洗脳に利用された「ゲシュタルト崩壊」、権力が人を別人に変えることを証明した「スタンフォード監獄実験」、米ソが競い合った「超能力者開発実験」など、33の項目から科学の裏側に目を向ける。

これは最近息抜きに読んだら大変面白かった本です。
人類が歴史上行ってきたヤバい実験の数々がエピソードともに紹介。

たとえば「ブアメードの血」実験。
1883年、オランダの死刑囚ブアメードはある実験の被験者となった。
彼は「人間は10%の血液を抜くと人は死ぬ」と医師に告げられ、首にメスを当てられる。
医師は彼の首に実際には傷はつけておらず、床にバケツを置いてその上から水滴を垂らし、ポタッ、ポタッという音だけをブアメードに聞かせた。
そして医師たちは一定の時間がたった時にブアメードに「10%を超える血が体外に出た」と告げると、ブアメードはまもなく死んでしまった、という。

似たような実験でナチスドイツが捕虜に鏡の前に立たせてひたすら「おまえは誰だ?」「おまえは誰だ?」と鏡のなかの自分に言うよう強制させた結果、1か月で判断力がなくなり、3か月で自我が崩壊した、という「ゲシュタルト崩壊実験」とか、そういう話がいろいろ出てきます。

「医学」とか「心理学」とかふだん普通に存在するものと感じてしまってますが、その陰には結構な人体実験の過程もあったんだな…と寒くなります。

あと国家実験もいろいろ。
かつてソ連が「地面ってどれだけ深く掘れるんだろう?」と単純かつ重要なな疑問を実行に移した大国家プロジェクト「コラ半島超深度掘削坑」の話も出てきます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%A9%E5%8D%8A%E5%B3%B6%E8%B6%85%E6%B7%B1%E5%BA%A6%E6%8E%98%E5%89%8A%E5%9D%91

もう少し紹介したい本もあるんですが、終わらないので次に回します。
ではまたー。

(H)

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