September 22, 2016

拝啓 樋口毅宏様

拝啓 樋口毅宏様

樋口さんこんにちは。
Twitterをやめられていてビックリしました。
作家引退宣言をしていたと知ってさらにビックリしました。

「伊野尾さんからすると複雑な気持ちになると思うのですが、僕の新作『太陽がいっぱい』読んでみてください」
と樋口さんからDMをいただいて、感想お送りしようと思ったらアカウントがないってどういうことですか。
私、樋口さんとはDMでしかやりとりしてなかったんで、もう感想を直接お伝えする手段がないんですよ。
なので、ちょっと全体公開になってしまいますが、ここに感想を残します。
どこかで読んでくだされば幸いです。

「太陽がいっぱい」読みました。
感想の前に、少しマニアックなレスラーの話をしてもいいですか。

樋口さんはコンガ・ザ・バーバリアンって選手ご存じですか。80年代後半に新日本に来てた外国人選手なんですけど。
全日本に来ていたバディ・ランデルは?
あとビッグ・ジョン・ノードとか。
大日本プロレスに昔一度だけ来たO.D.Dって選手はご存じですか?

共通項わかりますか。
これみんな有名選手のキャラクターを模倣していたレスラーです。
コンガ・ザ・バーバリアンはロード・ウォリアーズ、バディ・ランデルはリック・フレアー、ビッグ・ジョン・ノードとO.D.Dはブルーザー・ブロディのそっくりさんレスラーです。

出てくるとみんな盛り上がるんですよ。
「知ってる知ってる!」って。
元ネタがわかるというのは強いです。
知ってる人はみんな喜びます。

でも、彼らが本家を超えるかといったら、まず超えない。
コンガ・ザ・バーバリアンなんて結構強くて、猪木とシングルマッチやったりしてましたけど、ファンの本音は「これじゃなくてウォリアーズを…」ですよね。

樋口さん。
「太陽がいっぱい」を読んで僕が思ったのはそれに近い感じなんです。
プロレスを小説を使って紹介するのはいい。
けどそのまんま使っちゃったら、それはもう本家のプロレスは超えないですよ。
「プロレスのストーリーを書いた小説」が「プロレスそのもの」を上回ることはないです。

でも、読む専門の僕が書いてる樋口さんに言うのもなんですけど、小説がプロレスを上回ることもいっぱいあるわけじゃないですか。
「さらば雑司ヶ谷」とか「日本のセックス」なんて、あんなのは樋口さんの小説でしか味わえない世界なわけじゃないですか。
私はそっちが見たいです。
プロレスや、プロレスラーを使って小説書いて全然いいと思うんですよ。
でもそれは既存のストーリー、もう誰かが見せているピカピカのストーリーでなくても、樋口さんしか書けない泥だらけのストーリーを書けばいいじゃないですか。
だからこの本のなかでは一番よかったのはオリジナルなストーリーの「太陽がいっぱい」です。

樋口さんが喧嘩を売った(ように見えました)西加奈子さんは、基本「人間」と「人生」を作品で書いてて、ときどきその中に「人生のワンシーンとしてのプロレス」だったり、「不器用な人生を生きるプロレスラー」がちらっと登場するだけで、西さんはプロレスそのものを書きませんよね。
今年のG1で、ケニー・オメガが優勝決定戦のクライマックスでかつての仲間だったAJスタイルズや、いまは離れている盟友・飯伏幸太の技を一瞬だけ使ったじゃないですか。
あれに僕らは物語を感じて泣きます。
でもケニーが最初からAJや飯伏の格好をして同じファイトスタイルを始めたら「おいおい…」ってなるじゃないですか。

初めてプロレス見に行った人ならコンガ・ザ・バーバリアンを見て「わー、すごい」ってきっと思います。
でもそれは“ウォリアーズを知らない”から楽しめる、ってのもあるわけです。
たぶん、樋口さんの読者の中にはプロレスを知らない/興味ないっていう人もたくさんいて、そういう人たちにプロレスへの入り口になるという意味ではすごくいいことだと思ってるんですが…。

これで終わりかよ、って。

引退するのはいいですよ。
でもこれが「引退試合」って、ちょっとつまんなくないですか。
樋口さんが巻末に「さよなら」と書いてるテリー・ファンクだって大仁田厚だって、引退したときは素晴らしい引退試合でしたよ。戻ってきてますけどね。
もうちょっとすごい「引退試合」にしましょうよ。
それこそ話題になるような。

樋口さん、家でお子さん見てらっしゃるんですよね。
「週刊新潮」の『おっぱいがほしい! 男の子育て日記2016』を読みました。
DMでそんな話もしましたね。
大変だと思います。
けど、お子さんはいずれ大きくなります。
最近は入るのも大変ですけど、いずれは保育園に入れます。
小学生になったら昼間は学校です。

それぐらいになったら、小説書く時間少しできないですかね。
書いてください。
「さらば雑司ヶ谷」のようなぶっ飛ぶような小説を。
それを本当の引退試合にしましょう。

ちょっと失礼します。

出て来いよ樋口毅宏!

逃げるんじゃねえよ!

私からは以上です。

あ、本当にすぐ出てこなくていいです(笑)
今はまだ開幕戦の後楽園ホールです。
出てくるのは最終戦、両国国技館のリングの上で。
樋口さんが全国の書店員がぶっとぶような復帰作を手に、背中には「Mr.Liar」の刺繍が入った皮ジャンを着て私たちの前に再び出てくる日を楽しみにしております。

敬具

伊野尾書店 伊野尾宏之

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10月から営業時間が変わります

いつもご利用ありがとうございます。
10/3(月)から下記のように営業時間を変更いたします。

(月曜日~土曜日)
10:00~21:00

(日曜日・祝日)
11:00~20:00

平日の閉店時間が21時となります。
どうぞよろしくお願いいたします。

伊野尾書店

初めまして。A木です。

初めまして。A木です。
伊野尾書店歴4か月のまだまだひよっこ新人アルバイトです。
実は私、ブログを書くのは初めてなので、
お手柔らかにお願いします。(笑)

普段は小説や漫画をよく読みます。
最近だと、「はんだくん」(スクウェア・エニックス)という漫画にはまっています。
クラスの人気者でありながら、自分では嫌われていると勘違いしている
超ネガティブな半田くんがかわいい、、、。

さて、ただ今当店では「中井文庫」開催中です。
私は町田康の『ゴランノスポン』を紹介しています。

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短編集ですが、面白さ満載の贅沢パックです。
中でも、源氏物語の町田訳は笑いなしでは読めません。

他にもたくさんの文庫本が紹介されておりますので、
ご来店お待ちしております。

ではまた。

(A)

September 11, 2016

「この本が売れなかったら、もうダメですよ」杉江さんはそう言った――「漂流」角幡唯介/著

「この本が売れなかったら、もうダメですよ」

いい感じに落ち着いた雰囲気の神保町の老舗喫茶店で、杉江さんはそう言った。
杉江さんは本の雑誌社の営業マンだが、何年か前から編集にも携わっている。
高野秀行さんがアフリカにある国際的には未承認の国家・ソマリランドを訪ねて体験した出来事を描くノンフィクション「謎の独立国家ソマリランド」は杉江さんが担当編集した。
自分で作るだけあってノンフィクションの本もたくさん読んでいて、杉江さんが何かしら反応する本は読んでみるとたいがい面白い。

その杉江さんが会ってすぐに「伊野尾さん、角幡さんの『漂流』読みました?」と聞いてきた。
ちょうどそのとき読んでいたところだったのでそのことを伝えると、「あ、やっぱり?いやーこれすっごい本ですよ!」と高いテンションで言ってきて、そのあとに続いたのが冒頭の一言である。
これだけ時間と労力をかけて取材して、それも読み進めるうちにこちらの予想を次々に崩していく、「こんな世界がわたしたちがいるのと同じ国の中にあるのか」と教えてくれるような本が売れなかったら、もはやノンフィクションは何を作っていいのかわからなくなる。
そういったことを杉江さんは興奮と戸惑いの混ざった語気で語り、アイスカフェオレを一気に飲んだ。

「漂流」はこれまで自身の冒険の記録を書いてきた角幡唯介さんが初めて、自分以外の人間の冒険記を徹底的な取材で書いたノンフィクションだ。

1994年2月、グアムから出港したマグロ延縄船・第一保栄丸はミクロネシア沖での操業中、突如船尾から浸水し始めた。
船長の本村実は8名のフィリピン人船員とともに排水に努めたが船はどんどん沈んでゆき、彼らは船をあきらめ小さなゴム製の救命イカダに乗り移った。
SOS信号を発した本村は船員たちに「すぐに救助が来るから」と伝えた。
しかし彼らに救助は訪れず、イカダに積んだ水と食料は「すぐに救助が来るから」と考えた船員たちによって数日で食べ尽くしてしまい、そこから彼らは水と食料の不足にひたすら苦しみながら、どこかの島にたどりつくことも通りがかった船に救出されることもなく、晴れの日も雨の日も海が荒れた日も太平洋上をただゴムボートで漂い続けた。
漂流が始まってから32日後、フィリピン沖で地元漁船に奇跡的に発見されたとき、彼らの大半は衰弱して立つこともできなくなっていた。

角幡さんはこの漂流事件の生還者・本村実のことを本に書こうと考え取材を申し入れる。
しかし電話をかけた本村実の妻・富美子は「今、うちにはいませんので……」と力のない声で言ったあと、驚くべきことを告げた。
「じつは、十年ほど前から行方不明になっているんです…前と同じように漁に出て帰ってこないんです……」

本村はなぜ、死の淵まで追い込まれた海に再びまた出て行き、そしてまたいなくなったのか。
なぜそんな選択をしたのか。
沖縄本島で、宮古島で、グアムで、フィリピンで、角幡さんは多くの人に話を聞こうとする。

ところが。みな話してくれない。
逃げられる。
即座に「よくわからない」「覚えていない」と放棄される。
なぜ、彼らは話してくれないのか。

この作品は「本村実の漂流事件」という謎と、「本村事件の取材が予測していた方向からどんどん外れていく」角幡さん自身の記録、二重構造になっている。
そして読み終わると、「なんだこれは…」という虚脱と「こんな世界があるのか」という驚きの混じった、複雑な読後感に包まれる。
先日、「NHKスペシャル」で放送されたアマゾン奥地のイゾラド(文明社会と接触したことがない先住民族)の映像を見た時は衝撃を受けたが、それと似た感覚がこの「漂流」にもある。

9/9、神楽坂ラカグで行われた『はじめての海洋ノンフィクションを、僕はこう書きました』というトークイベントで、角幡さんはこの取材テーマにした理由を「海への漠然とした憧れがあった」と語った。
チベット奥地などの辺境の登山、北極探検にも行った角幡さんは「海の世界」という未知なるものに漠然とした憧れがあったという。
そして海をテーマにしたノンフィクションが少ないことを知って、「じゃあ俺が書いてやる」という気持ちにもなったという。

ところが自身が取材していくうちに、漁師を題材にしたノンフィクションが少ない理由がわかってくる。
それは「海の世界の男たちから言葉を引き出すのが容易ではない」ということと、そしてもう一つは「美談にならない話が多い」ということだ。
いったいそれはどういうことなのか、その答えもこの本に出てくる。

杉江さんはかつて漁師への憧れがあったという。
「今の仕事をやめたら漁師になりたい」と考えてたこともあったそうだが、この本を読んで少しそれが変わったという。

「『漂流』を読んで、漁師という人々が自分たちとまったく違った世界の住人であることを知って、『自分にはとうていなれないからこそ、憧れだったんだ』ということがわかったんです」

海で生きる男たちの、陸に生きる私たちとまったく違う価値観はどこから生まれるのか。

「漂流」というタイトル、本の表紙のどこまでいっても終わりのないような荒れた大海原が、読み終えた私たちの心を揺らぎのない場所に持っていく。

読み終えて確かに思う。

この本が売れなかったら何が売れるのかわからない。

「佐良浜の人たちから聞く戦後の生活には混沌と動乱が渦巻いており、会話の中から火薬物の硝煙の匂いが漂ってくるようだった。
(中略)
そのような先の見えないおそろしい航海のような生活は、いつ終わるともしれず、ふとした拍子に足をすべらせてクリ舟(丸木舟)から海の中に転落してしまえば、その人生は一巻の終わりで、実際にそういう人間はたくさんいた。
そのような死が間近にある生活、常に死を意識しながら展開される生に、私は畏敬とも畏怖ともつかない気持ちをいだいた」

 

○「漂流」角幡唯介/著(新潮社)

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August 30, 2016

「中井文庫2016」開催のおしらせ

今年も9/1~10/31までの間、地元店主、尺八奏者、大学教授、システムエンジニア、放送作家、写真家、プロレスラー、バーテン、書店スタッフなどいろんな方々によっておすすめの文庫を選んだフェア「中井文庫」を伊野尾書店にて開催いたします。

今年の参加者はこちらの方々です!

(五十音順)

☆礒部雅裕さん(放送作家)

☆植本一子さん(写真家)

☆遠藤頌豆(しょうとう)さん(尺八奏者)

☆岸政彦さん(社会学者)

☆栗原光則さん(「KITCHEN一汁三菜」店主)

☆こざわたまこさん(作家)

☆小峰千佳さん(出版社エランド・プレス代表/ライター)

☆杉江由次さん(本の雑誌社営業マン)

☆関口鉄平さん(システムエンジニア)

☆田崎健太さん(ノンフィクション作家)

☆男色ディーノさん(プロレスラー)

☆中村 亜希幸さん(イタリアンキッチン オリーブモンド)

☆中山博夫さん(目白大学人間学部教授)

☆古橋由美さん(取次会社「大阪屋栗田」社員)

☆三田佐代子さん(プロレスキャスター)

☆村瀬秀信さん(ライター)

☆安田はつねさん(編集者/ゴールデン街バースタッフ)

☆伊野尾書店スタッフ一同

意外な人が意外な1冊をおすすめしてもらってたりします。
どの人がどんな本を選んでいるのか、9/1よりぜひ店頭でご確認ください!

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«「リオデジャネイロとはポルトガル語で『1月の川』という意味」というのを昨日知りました